つまらないチョコ
玄 麻衣
つまらないチョコ
私は彼を愛している。
できることならずっと一緒に居たい。
健やかなる時も、病める時も、一緒にいたいとさえ思う。
彼はいつも無表情で、ぼんやりとしていた。
感情を顔に出す事は滅多にない。
その一方で、誰よりも優しさに満ち溢れているのだ。
怪我をしがちな私。
いつも転んでは血を流していた私。
それでも彼はそばで見捨てないでいてくれた。
その内私はわざと血を流すようになった。
彼が構ってくれるから。
私はある種の優越感に浸ってしまっていた。
だが不意に少し鼻血を出してしまった時ですら、彼は心配して保健室まで連れて行ってくれた。
私は彼の優しさを改めて知った。
自らを反省し、二度とそんなことはしないと誓った。
そんな彼に、バレンタインチョコを作ってあげる事にした。
しかしチョコを砕く最中に、手を切ってしまった。
チョコに血を混ぜるなど、そんな愛が重いことはしたくない。
だから私は、できるだけ血が混ざらないようにチョコを作った。
切り傷を作った手で、チョコを渡した。
彼はとても嬉しそうに、それを受けとってくれた。
喜んでくれるといいな。
次の日、彼はまた無表情、しかしどこかつまらなさそうな顔をしていた。
チョコが口に合わなかったのだろうか?
あの、もしかして昨日渡したチョコ、美味しくなかった?
いや、そんなことない。ただ、期待していたのとは違っただけで。でも、間違いなく美味しかったさ。
彼はそう言って、再び本に目を戻した。
その内彼と私は結婚した。
未だに度々流血を起こすことはあるが、彼はあの時のように、いつもそばに来て助けてくれた。
ドジな私がより上手く家事ができるように、高い包丁まで買ってくれた。
でも初夜以降、夜を共にはしてくれなかったね。
そこは少し気がかりだ。
結婚して初めてのバレンタイン。
勿論彼に送ろうと作っていたら、彼がダイニングにいた。
彼曰く、貰ってばかりでは申し訳ないから、先に作ったらしい。
作る前に一つ食べてみると、とんでもなく甘い。
しかし別に嫌いな味ではないので、美味しくいただいた。
その後、彼の為にチョコレートを作った。
しかし甘い物の摂りすぎが祟ったのか、集中力を失いまたも手を切ってしまう。
そうすると彼はすぐに傍に来て、見守ってくれた。
なんとなく安心しながら、チョコレートを作った。
彼は作ったチョコを食べて、とても美味しそうな反応をしてくれた。
普段無表情なのが信じられない程、喜びながら食べていた。
その表情はどこかで見覚えがあった。
初めてバレンタインチョコを渡したその日の笑顔だ。
彼が幸せになってくれたら、それで十分。
甘いチョコレートを食べ過ぎて、その夜は鼻血に悩まされたが。
でも、その夜。
妙に長い時間をかけて鼻に詰め物を作ってくれている彼の顔を見て、少し気がかりに感じた。
次の日、私は交通事故に遭った。
現場に彼は駆けつけてくれた。
私は彼に手を伸ばすが、彼は無視した。
ただ恍惚として、黙って見ていた。
私が間違っていた。私は、勝手な幻想を見ていたんだ。
つまらないチョコ 玄 麻衣 @Sizuka_mai14
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