祖父は魔法使い

夜汐 しおり

祖父は魔法使い

昔も今も、確かにあれは魔法だった。


私はかなりおじいちゃん子だった。

小学校が終わり、帰る場所は父と母がいる家ではなくじいちゃんの家。


じいちゃんの家に帰って、ランドセルと帽子を乱雑に玄関に置いてから走って畑に向かうと、麦わら帽子を被ったじいちゃんがいつも笑顔を向けてくれた。


正直なところ、小学生の時にじいちゃんとした会話の内容は覚えていない。

ただハッキリと記憶にあるのは、私を愛おしそうに見つめる笑顔だけ。肌が黒く焼けていたから、歯が白く目立ってて笑ってることが分かりやすかった。


じいちゃんは魔法使いみたいな人だった。

私が大切にしていたぬいぐるみが破れた時は、ミシンで縫ったみたいに綺麗な状態に戻してくれて、嫌いな食べ物が食卓に並んだ日は、目を離した一瞬の隙に、私の嫌いなおかずだけが消えていた。

私がいじめられて、泣きながら帰ったことがあった。泣いてるところを見られるのが恥ずかしくて、じいちゃんの家に着くまでに泣き止まなきゃと思いながらゆっくり歩いていたら、いつも畑で作業しているはずのじいちゃんが後ろから現れていつもの笑顔を向けていることがあった。

幼いながらに、どこから見てたんだ…とさすがにびっくりした記憶がある。

びっくりした後にはすぐ笑いが込み上げてきた。


ぬいぐるみを元通りに生き返らせる魔法、嫌いな食べ物を消してくれる魔法、特別な呪文がなくても笑顔にしてくれる魔法。


そんな魔法使いとの楽しい生活は、私が小学校高学年になる前には終わってしまった。

魔法使いだと思っていたじいちゃんも普通の人間だったようで、病気になり人生を終えてしまったのだ。

魔法使いなら、じいちゃん自身にも、ずっと私と一緒にいられる魔法をかければよかったのに。


じいちゃんが死んでしまってから、大人になった今でも私は心に大きな空洞ができた生活をずっと送っている。


心にぽっかりと穴が空いていていつも寂しいはずなのに、私は人を信じて愛することができるし、どんなに辛いことがあっても立ち直ることができた。立ち直る時に思い浮かぶのは、いつもじいちゃんが向けてくれたあの笑顔だ。


魔法の呪文はない。ただ大切な相手のことを思い笑顔を向けるだけ。

じいちゃんが亡くなってからもずっと私を守り続けている、愛という名の魔法だと思う。


今度は私が、その魔法を受け継ぐ番だ。

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