第6話 告白の場所

夕方の海辺は、静かだった。

 波の音だけが、一定のリズムで耳に届く。


 薫が来るまで、蓮は何度も深呼吸をした。

 胸の奥で、心臓が早鐘を打っている。


「……待たせた?」


 振り向くと、薫が立っていた。

 少しだけ顔色は戻っているが、どこか緊張した表情だった。


「大丈夫?」


「うん。ありがとう」


 短い会話。

 けれど、ここから先は逃げられない。


 海を背にして、蓮は立ち止まる。


「薫」


 初めて、苗字ではなく名前で呼んだ。

 その響きに、薫が小さく息を呑む。


「この前、ちゃんと話せなくて、ごめん」


 言葉を選ぶ余裕はなかった。

 だから、正直に話すことにした。


「俺、怖かったんだ。

 言ってしまったら、今の関係が壊れる気がして」


 薫は黙って聞いている。

 その視線が、逃げ場を与えなかった。


「でも……離れるほうが、もっと嫌だった」


 潮風が吹き、二人の間を通り抜ける。


「俺は……薫が好きだ」


 短く、まっすぐな言葉。

 それ以上、飾れなかった。


 一瞬の沈黙のあと、薫が笑った。

 泣きそうで、でも確かに嬉しそうな笑顔だった。


「……遅いよ」


 そう言って、少しだけ視線を逸らす。


「でも、私も同じ」


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「じゃあ……」


「うん」


 言葉はいらなかった。


 夕暮れの海辺で、二人は並んで立つ。

 まだ手をつなぐこともできないけれど、距離は確かに縮まっていた。


 触れない距離は、

 もう、過去になろうとしていた。

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