O-MO-TE-NA-SHI(おもてなし)

ちあきっこ

1話完結

(2015/12/28現在)

ミカさんが奈良から来てくれることになった。

それだけで、私は数日前から落ち着かなくなっていた。


師走のスーパーは、人でごった返している。

レジの最後尾がどこかわからず、カゴを持ったまま右往左往する。

それでも、心はどこか浮き立っていた。


友達を家に招くなんて、高校生以来だ。

あの頃は、母がお茶を淹れてくれて、ケーキを切ってくれて、私は横で笑っていればよかった。

でも今は、全部自分でやる立場になった。


ウキウキと、ちゃんとできるだろうかという不安が、同時にやってくる。


ランチのお店は、金曜日に下見を済ませてある。

ママさんとも話した。以前、個展をやらせてもらったことのある喫茶店で、少し贔屓にしている店だ。

おやつと手土産も買った。

ざっくりとしたタイムテーブルを作り、帰りの電車の時間も調べた。


「ノープランだ」が持ちネタの、松野家の次男とは、真逆の生き方である。


おもてなしをしすぎて、引かれたらどうしよう。

ありがたがられるのか、キモがられるのか。

その匙加減が、どうにもわからない。


昔から、自分から誘ったデートには下見をするタイプだ。

それを「男のすることや」と言われ、「そうなんや」と思ったこともある。

たしかに、あまりにマメすぎる人を、私自身もちょっと引いた目で見てしまうかもしれない。


それでも、やめられない。


当日のイレギュラーに備えて、二策三策を用意する。

食事が早く終わった場合。

逆に、時間が押してしまった場合。


ミカさんの「海が見たい」という希望に、ショートコースとロングコースを用意し、当日の朝、実際に時間を測りながら歩いてみた。

思ったよりロングが短く、「これはいける」と思った矢先、時間を測ることに夢中になりすぎて、私自身が待ち合わせの遅刻ギリギリになる。


走りながらLINEを見ると、

「30分遅れます」の文字。

災い転じて福となす。

思わず、ひとりでほっとした。


久しぶりに会ったミカさんは、驚くほど垢抜けていた。

「その髪型、とっても似合うね」

気づけば、「久しぶり」より先に言葉が出ていた。


予定していた喫茶店・木馬館は、満席が心配だったが、二人席が一つ空いていた。

ママさんは笑って言った。

「一昨日言ってたから、来るかなと思ってご飯二人分とっといたわよ」


下見しておいて、本当によかった。


高校の卒業アルバムを持ってきたのは大正解だった。

ページをめくるたび、話が弾む。

女子ばかりなのに女子校のノリにならなかったクラスの不思議さ。

文化祭に全力だった、あの頃の、名前のつかないエネルギー。


予定より時間が押し、海辺の散歩はショートコースにした。

ロングの海も見てほしかったけれど、家でゆっくりしてもらう予定もある。

プリンもある。


海の近くに住むことのありがたさを、ミカさんは静かに教えてくれた。

「海が見えるのって、当たり前じゃないんだよ」

奈良の高校では、校外学習が、うちから近所の海岸だったこともあるという話を聞き、私は心底驚いた。


家では、コーヒーも紅茶も、お菓子も用意していたけれど、結局お腹いっぱいで、プリンだけになった。


Morozoffのプリン。

昔、西明石のカフェで、まだ小さかった息子さんがプリンを欲しがっていたことを思い出して選んだ。

おみくじ付きで、話題も仕込んである。

私は大吉、ミカさんは中吉が出た。


BGMは、学生時代に明石駅で演奏していたアンデス音楽のおじさんから買ったCD。

懐かしくて、少しおかしくて、ちょうどよかった。


三時、ミカさんは奈良へ帰っていった。

コートの裾を翻して、ホームへ向かう後ろ姿は、洗練された大人そのものだった。

私も大人なのに、あんなふうになりたいと思う。


私流の「おもてなし」、届いただろうか。

今ごろ、家に着いただろうか。


お土産に渡した最中、ご家族は気に入ってくれるだろうか。

そんなことを考えながら、いただいた手土産を仏壇に供える。


おもてなしは、相手のためというより、

不器用な自分が安心するための儀式なのかもしれない。


それでもいい。

今日一日は、ちゃんと楽しかった。

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