貴族の末っ子に生まれ変わった俺は、隠れて最強の魔法を極める ~目立たないまま、影で王国を守ります~
kuni
第1話
俺の名前は――いや、前世では佐藤太郎だった。三十歳を過ぎたばかりの、どこにでもいるサラリーマンだ。
残業続きの毎日。デスクに突っ伏したまま、気づけば視界が暗くなっていく。心臓が不規則に跳ね、最後に聞いたのは同僚の遠い叫び声だった。
……ああ、過労死か。馬鹿らしいな。
次に目覚めた時、俺は赤ん坊だった。
泣き声が自分の喉から出ていることに気づいて、慌てて口を閉じる。視界はぼやけ、周囲には優雅な天蓋付きのベッドと、豪奢な調度品。どうやら貴族の家に生まれたらしい。
転生か。ライトノベルで読み飙れた展開だな、と内心で苦笑いしながら、俺は新しい人生を観察し始めた。
名前はレイン・エルフォード。アステリア王国でも指折りの名門貴族、エルフォード家の四男――つまり末っ子だ。
長兄のガレン様は剣の天才。次兄のユーリス様は政治的手腕に優れ、三兄のセドリック様は商才を発揮して家を支えているらしい。俺? まだ赤ん坊だから何もしていないが、将来は……まあ、どうでもいい。
俺はただ、静かに暮らしたいだけだ。
それから七年が過ぎた。
今日は七歳の誕生日。そして、貴族の子にとって重要な「魔力測定の儀式」の日だ。
広間の中央に置かれた巨大な水晶球の前に、俺は順番を待っていた。すでに兄たちは測定を終えている。
長兄ガレン様は「剣聖級」の魔力適性を示し、次兄ユーリス様は「賢者級」、三兄セドリック様は「魔導級」。会場に集まった親族や使用人たちが拍手と歓声を上げていた。
そして俺の番。
水晶球に小さな手を当てると、球体はほのかに光っただけで、すぐに色を失った。
司祭が難しい顔で告げる。
「レイン様の魔力適性は……ほぼゼロに近い値でございます」
会場が静まり返る。父上の眉がわずかに動いた。母上はため息をつき、使用人たちは同情の視線を向けてきた。
「無能か……」「末っ子だし、家督争いには関係ないからいいけど」「エルフォード家の名に傷がつくのでは?」
小さな囁きが耳に入る。
俺は内心でガッツポーズを決めた。
(よっしゃあ! これで完全に期待されなくなる!)
目立つのが大嫌いな俺にとって、これ以上ない最高の結果だ。兄たちのように注目されて、期待されて、プレッシャーに押し潰されるなんて御免だ。静かに、のんびりと生きていける。
儀式が終わり、自室に戻る途中、メイドのエマが小走りに寄ってきた。黒髪をポニーテールにした、年上の優しい女性だ。
「お坊ちゃま、大丈夫ですか? 私、何かお手伝いできることがあれば……」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、エマ」
俺は笑顔で答えた。エマは少し心配そうだったが、頭を下げて去っていった。
部屋に戻り、扉を閉めた瞬間――頭の中に声が響いた。
【固有スキル【影の書庫】が発動しました】
「え?」
視界が切り替わる。そこは果てしない暗闇の中に、無数の本棚が並ぶ巨大な書庫だった。棚には古びた革装丁の本がぎっしりと詰まっている。
俺は試しに一冊を引き抜いてみた。タイトルは『古代結界術入門』。
ページを開くと、文字が頭の中に直接流れ込んでくる。そして――完全に理解できた。
「マジかよ……これ、全部読めて、全部覚えられるのか?」
興奮が抑えきれなかった。しかもこの書庫は精神世界にあるらしく、他人には一切見えない。完璧な隠しスキルだ。
それから数日、俺は屋敷を探検し、偶然、自室の壁に隠し扉を発見した。狭い階段を下りると、小さな地下室があった。埃をかぶった机と椅子、古いランプ。誰にも使われていない秘密の空間。
「ここを俺の研究室にしよう」
俺は即決した。
最初の挑戦は、書庫で読んだ『古代結界術入門』の簡易結界。
地下室の入り口に手を翳し、魔力をイメージして流す。
――ぽん、と小さな音がして、薄い膜のようなものが空間を覆った。
「成功した……!」
魔力消費はほとんどない。それでいて、外部からの探知を完全に遮断しているのが分かる。次に試した魔力探知も、屋敷全体の魔力の流れが頭に浮かぶほど鮮明だった。
爽快感が全身を駆け巡る。
(これなら、誰にもバレずに最強になれる)
夕食の時間、食堂の遠くから兄たちの様子を眺めた。
長兄ガレンは剣術の師範から褒められ、次兄ユーリスは父上と政治の話をし、三兄セドリックは新しい商談の成功を報告している。皆が輝いている。
その横で、俺はただ静かにスープを飲むだけ。
「レインは今日も元気がないな」「魔力がない子は仕方ない」「せめて社交くらいは……」
小さな会話が聞こえてくる。
(最高だ。このまま誰も俺に期待しなければ、ずっと自由でいられる)
夜、地下室に戻り、さらに本を読み進める。
ふと、魔力探知に微かな違和感を覚えた。
屋敷の外縁、森の方から――かすかだが、明らかに異質な魔力の波動。
普通の魔物ではない。もっと古い、邪悪な気配。
(まさか……もう何か起きるのか?)
俺は静かに息を吐いた。
「……少し、調べてみるか」
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