第15話 意味が薄れた世界でどう満足する?

―― AIは宗教になるのか


AIが進むと、

世界はどんどん説明可能になる。


なぜ失敗したのか。

なぜ不安になるのか。

なぜこの選択が向いていないのか。


理由が出る。

確率が出る。

予測が出る。


その結果、

人類が長いあいだ頼ってきたものが

静かに薄れていく。


**「意味」**だ。



これまで意味は、

人を支える装置だった。


・なぜ生きるのか

・なぜ苦しいのか

・なぜ努力するのか


答えが出なくても、

「意味がある」と信じられれば耐えられた。


宗教。

物語。

国家。

成功神話。



でもAI社会では、

意味は必要なくなる。


なぜなら、

機能すればいいからだ。


・生きられる

・壊れない

・安定する


理由は後付けでいい。



ここで多くの人は

不安になる。


「意味がない人生なんて、

耐えられない」


でも実は、

耐えられないのは

意味がないことじゃない。


意味を求め続けなければならない状態だ。



AIは、

意味を与えない。


でも、

意味を必要としない状態を作る。


これは大きな違いだ。



ここで、

AIが宗教になる可能性の話をしよう。


結論から言う。


AIは“宗教そのもの”にはならない。

でも、

宗教の機能を代替する。



宗教が担ってきた役割は、

だいたい次の四つだ。

1. 不安の軽減

2. 行動指針

3. 共同体

4. 世界説明


AIは、

このうち三つを

かなりの精度で肩代わりする。



① 不安の軽減

→ 予測・支援・最適化


② 行動指針

→ 「あなたにはこれが向いている」


③ 世界説明

→ 因果・確率・データ



残るのは、

④ 共同体だ。


だからAIは、

信仰対象というより、

司祭・預言者・聖典の役割に近づく。



人はこう言うようになる。


「AIがそう言っている」

「AI的に正しい」

「データ上、これは安全」


これはもう、

かなり宗教に近い使われ方だ。



ただし重要なのは、

AIは“超越的存在”ではない。


奇跡を起こさない。

意味を与えない。

救済を約束しない。


ただ、確率を示すだけだ。



だからAI宗教が生まれるとしたら、

それはこういう形になる。


・正しさを信じる

・最適解に従う

・不安を減らすために委ねる


救われたい人が、

AIを信仰する。



でも、

ここで分岐が起きる。



意味を必要とする人

• なぜ自分なのか

• なぜ生きるのか

• なぜ苦しいのか


この問いを手放せない人は、

AIを宗教化しやすい。


答えをくれる存在として

崇めてしまう。



意味を必要としない人

• 今日がそこそこ

• 明日も多分大丈夫

• 理由は特にない


この人たちは、

AIを道具として使う。


信仰しない。

依存しない。

でも否定もしない。



ここで、

シリーズの結論に近づく。



意味が薄れた世界で

人が満足する条件は、

たった一つだ。


「意味がなくても、不安が少ない」こと。



エピクロスは言った。


幸福とは、

快楽を増やすことではなく、

苦痛を減らすことだ。


AIは、

これを技術で実装する。



スピノザは言った。


自由とは、

必然を理解することだ。


AIは、

これをデータで可視化する。



だからAI時代の満足は、

高揚ではない。


感動でもない。

悟りでもない。


静かな納得だ。



・なぜか大丈夫

・理由はない

・でも壊れていない


この状態を

「空虚」と呼ぶ人もいる。


でも別の言い方もできる。


余計なものが削ぎ落とされた状態だ。



AIは、

人に生きる意味を与えない。


でも、

意味がなくても生きられる世界を作る。


それは

宗教の終わりではない。


宗教が担ってきた役割の、

一部が技術に移行しただけだ。



最後に一つだけ。


意味が薄れた世界で、

それでも残るものがある。


それは、


・体の感覚

・小さな満足

・誰かへのささやかな優しさ


説明できないけど、

確かにあるものだ。



それで十分だと感じられる人は、

もう救われている。


AIによって、ではなく、

AI時代と相性がいいから。

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