ソーダ

春野訪花

ソーダ

 クリームソーダの青。

 乗っかる丸いアイスクリームの白。

 立ち上り、弾けゆく炭酸。

 そこに刺さる赤いストロー。

 ――冷房に冷やされた店内で、彼女はそのストローへと口を付けた。ストローよりも鮮明な赤に彩られた、形のいい唇がソーダを吸い込んで微かに動く。

 あわらにされた真っ白な腕があまりにも目に毒だった。いや、もはや彼女のどこをとっても、僕からすれば毒でしかない。眩しいほどに弾ける花火を間近で見てしまった時みたいに、誤魔化すように目を瞬かせてばかりだ。

 まあ落ち着けよ、と諫めるように、手元のソーダの中の氷がからりと音を立てた。

 彼女の口元が弧を描く。

「そんなに気になる?」

「エ」裏返った。

「これ」

 彼女が差したのはクリームソーダだった。

 ああ、そっちか。

 僕も彼女も、同じソーダを飲んでいる。だけど、金欠である僕はアイスなしのものを選んでいる。透明な氷の隙間を炭酸が駆け抜けていった。

「そ、そっすね」

 別のものが気になっていた、などと言えるはずもなく。適当にそういうことにしておいた。そうしたら。

「一口いる?」

 う゛ん゛。

 変な声が出そうになった。声として放出されはしなかったが。

「あー、えーと……」

 揺らぐ。それはもう、ぐらぐらと。

 咄嗟に縋るようにソーダに手をやり、その弾みで、からん、と呆れたように氷がまた崩れた。

「い……イタダキヤス」

 ん、どうぞ。と、彼女がクリームソーダをこちらに押してくる。

 赤いストローが目につく。

 と、視界にシルバーが差し込まれた。彼女がスプーンを差し出してきていた。

 それはそうだ。

 中身は同じソーダだ。欲しがるとしたら、アイス以外ない。

「あ、ありがとう……」

 残念と言えば残念だが、最後の砦のようなものは守られたような気分で、ほっともする。

 スプーンを受け取り、アイスを一口分掬う。手つかずだった白に穴が一つできる。そうしてそれを口に運んでから、ふと気づく。

 間接キスするの、向こうじゃね?

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ソーダ 春野訪花 @harunohouka

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