第29話「神獣の封印」

 広間を抜けると、天井が一段と高く、空気が重くなった。


 壁の結晶は淡く青白く光り、まるで生きているかのように呼吸していた。

 光が揺れるたび、床に影が踊る。

 視界の端で、何かが微かに輝いた。


「……あれは」

リィナが指をさす。

 そこには、剣が立てかけられていた。

 古びてはいるが、ただの古物ではなかった。

 光を受け、刃が微かに振動する。

 まるで、触れる者を選んでいるかのようだ。


「過去の英雄の武具……か」

ハルドが低くつぶやく。

 俺も近づき、手をかざす。

 刃先に触れた瞬間、胸の奥に熱い感覚が走った。

 血が騒ぐというのは、こういうことなのかもしれない。


 ノアが小さく目を見開き、つぶやく。

「兄ちゃん……触った?」


「……ああ」

俺は答える。

 胸の奥で、何かが呼び覚まされる。

 力、という言葉では足りない。

 魂が覚醒するような感覚だ。


 広間の奥に、三つの光の柱が見えた。

 色はそれぞれ、赤・青・金。

 古代の文様が床に浮かび、光の柱へと伸びている。

 ハルドが息を飲む。


「……神獣の封印か」

 塔に入る前、伝承で聞いた言葉を思い出す。

 世界には三つの神獣がいて、人々に力を与え、顕現することができるという。

 ただし、その力を借りるには、試練を経る必要があると。


 俺は剣を握り直す。

 体に流れる熱が、先ほどの衝撃を思い出させる。

 光の柱に手を伸ばすと、空気が振動し、壁の結晶が共鳴した。


「……俺たち、試されてるのかもしれない」

リィナが言う。

 ノアも小さく頷く。


 赤い光の柱に触れた瞬間、幻影が現れる。

 巨大な獣の姿――炎の神獣。

 全身が赤く輝き、目は知恵と力を宿していた。

 吠え声は聞こえないが、存在感だけで圧倒される。


 ハルドが剣を掲げ、構える。

「一歩も引くな」

 その声に、俺も息を整える。


 光の柱は触れる者の意思を試すかのように揺れ、俺たちの心を覗き込む。

 だが恐怖はない。

 村で、森で、ノアとリィナと共に歩いてきた旅の経験が、胸の奥で力を支えている。


 赤の神獣の光は、ゆっくり俺の手に吸い込まれるように流れ込んだ。

 熱が体中に広がり、力が自然と体の芯に染み込む。

 俺はそれを感じながら、覚悟を固める。

 この力で、仲間を、世界を守る――その思いが、心を揺さぶった。


 塔の奥、三つの光の柱――

 赤、青、金。


神獣の封印が、俺たちを待っている。

 

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