第23話「救済」

 翌朝、霧が出ていた。


 森を抜ける途中、

 小さな村が見えた。


 家は少なく、

 畑も荒れている。


「寄るな」


 ハルドが言う。


「厄介ごとの匂いがする」


「でも」


 リィナが、村を見る。


「人が……少ない」


 俺も気づいていた。


 静かすぎる。


 その時――

 子どもの声が聞こえた。


「――待って!」


 村の外れ。


 一人の少年が、

 大人たちに囲まれていた。


「だから違うって!」


「俺じゃない!」


 大人の一人が、

 少年の胸倉を掴む。


「じゃあ誰だ!」


「昨日の夜、消えたのは!」


 空気が、一気に張り詰める。


「……行くな」


 ハルドが言う。


「関われば、追手に気づかれる」


 正しい判断だ。


 分かっている。


 でも。


 少年の目を見た瞬間、

 身体が動いていた。


「やめろ」


 全員が、俺を見る。


「外の人間か?」


「関係ない」


「その子は、やってない」


 村人の一人が、鼻で笑う。


「証拠は?」


 俺は答えた。


「ある」


 自分でも、驚くほど迷いがなかった。


「昨夜」


「ここから北に三百歩」


「川沿いに、足跡が残ってる」


「大人のものだ」


 ざわつく村人。


「……なぜ分かる」


 俺は、答えなかった。


 答えられなかった。


 考えて出た言葉じゃなかったからだ。


 沈黙の後、

 村人の一人が舌打ちする。


「確かめるぞ」


 数人が走っていく。


 少年が、俺を見る。


「……ありがとう」


 声が震えていた。


 しばらくして、

 村人たちが戻ってくる。


「……あった」


「足跡……外へ続いてる」


 空気が変わる。


 少年の胸倉を掴んでいた男が、

 手を離した。


「……すまなかった」


 解散する村人たち。


 リィナが、小声で言う。


「カイ……」


「どうして、分かったんですか」


 俺は、首を振る。


「分からない」


「気づいたら、言ってた」


 ハルドが、じっと俺を見ている。


「……昔からか」


「え?」


「そういうの」


 俺は、答えなかった。


 少年が、近づいてくる。


「兄ちゃん」


「名前、なんて言うの」


「カイだ」


「俺は、ノア」


 少し笑って、

 言った。


「兄ちゃんさ」


「怖くなかった?」


 俺は、少し考えてから答える。


「怖かった」


「でも」


「助けない方が、

 もっと怖かった」


 ノアは、きょとんとした顔をしてから、

 笑った。


「変なの」


 ――その言葉が、

 なぜか胸に残った。


 村を離れるとき、

 ハルドがぽつりと言う。


「……お前」


「自覚は、あるか」


「何の」


「自分が、選ぶ側の人間だってことだ」


 俺は、歩きながら答えた。


「そんなつもりはない」


「だろうな」


 ハルドは、空を見る。


「だから厄介なんだ」


 その背中が、

 少しだけ小さく見えた。


 旅は続く。


 だが確実に――

 歯車は、回り始めていた。

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