色々犠牲にして怪異だらけの世界を終わらせたので曇った彼女達のやりたかった学園生活をやる

床の下

有島光太郎は幼馴染・天野命と目を覚ます

「あんたが好きなの!!」


 天野命は屋上でうずくまる。


「生きてて欲しいの!あんたが生きてるなら!!それだけでいいの!!!何もいらない!!あんたがいればそれだけでいいの!!!私の全部をあげたいの!!!!」


 天野命は少し顔を上げてまるで捧げるように両手を俺に向けて突き出す。


「だから全部頂戴!あんたの全てが欲しいの!!骨も肉も全部!!!それを抱えて逃げてあげる!!!あんたを抱きしめて何処までも行ってあげる!!!そこで世界の終わりを一緒に見てあげる!!!」


 そのまま膝を地面に擦り付けながら近づく天野命。そして、俺の足に抱き着く。


「行かないで欲しいの、無理だって言って欲しい、弱音を吐いて欲しい、あんたの全てを抱きかかえたいの!!だからお願い…怖いとか言ってよ…」


 足が湿る。


 それが涙と気付くまで時間が掛かったのは感覚を鈍くしたからである。


 俺は天野命を見つめ、そして、空を見上げる。


 眼前には星の数ほど怪異。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は無数に生やした翼を羽ばたかせ、膨大な量の腕を蠢かせ、天野命を遠くに突き飛ばして、空に飛び出す。


 叫ぶ声が聞こえる。恨み節が聞こえる。俺はそれを無視して眼前の敵を全て滅ぼすと決め、襲い掛かった。


 最後の怪異。それは俺の全てを吐き出して絞り出して倒せた存在であった。


―――


「…んあ?終わった?」

「…いや?もう朝」


 自室、ソファの上、俺と天野命はテレビの前で寝ぼけていた。ループ再生されているそれは俺の活躍をドキュメンタリー形式で語る物語。画面には組織の連中が神妙な顔をして「彼こそ英雄だ」みたいな話をごちゃごちゃしている。


 俺の死を誰よりも願っているのにいい気なもんである。


「ってか、これ放送するの?小っ恥ずかしくない?」

「プロパガンダなんだとよ、これからの復興には英雄がいるんだってさ」

「はーん、ばっかみたい!」


 ソファから立ち上がる天野命。素っ裸の彼女は近くにあった俺のシャツを着る。俺も同じく彼女の服を着ようとすると奪い取られる。


「何してんの?」

「いや着ようかと」

「は?あんたバカ?これは私の服、あんたは自分の服着て?」


 理不尽だなと口には出さず、立ち上がり、テレビ台下を開ける。そこには似たような服と多種多様な女物の服が並んでる。俺は似たような服をいそいそと着る。


「ってかさ、あの最後の戦いに向かう所の映像さ、ちょっと誇張が過ぎるでしょ、私、あんな事言ってない気がするんだけど?」

「俺もそう思うけど、これって天野に直接聞いたって話だから…」

「ちょっと?!」


 ソファ前にいた天野命はずかずかと歩き、テレビ台前で座ってた俺を見下ろす。その顔は眉が歪んで口はへの字になっている。


「命って呼べって言ったじゃん、なにそれ?」

「いや、まあ、どうせ死ぬしさ、あんまり距離詰めない方が…」

「はああ?????」


 顔を掴まれる。そして、強引に唇をぶつけられる。口の中に血の味がする。そして顔が離れる。いいい…と声にならない声を零している。


「じゃあ、最初から命なんて呼ぶなよ、親しげに楽しくすんなよ、私のこと優しくすんな、抱きしめる時に優しい声を出すなよ、一緒にいるなよ!!!死ぬって分かってても一緒にいる私の事を考えろよ!!!」

「…ごめん」

「…謝んなバカ」


 今度は触れ合うぐらいに唇が当たる。天野命は常にこうである。出会った頃から真っすぐで怒りっぽくて感情的で暴力的でその癖、全てを欲しがる所がある。


 そんな彼女が側にいたから俺は世界の敵に恐れず迎えた所がある。


「…朝ごはん、何食べたいもんある?」

「おにぎり食べたいな、昔作ってくれたでっかいやつ」

「…ふん!」


 天野命はずんずんと歩きながらテレビ横のキッチンに向かい、昨日炊いてたごはんを桶に入れ、冷蔵庫を開けて具材を吟味している。俺は一息付きながらソファに座る。


 もう立ってるのもしんどい。それでも俺は異能を使い、なんとか機能し続けている。


 俺に残された一年、それは彼女達の為に使いたい。そう思っている。


―――


「…ホントに死んだんだ」


 私、天野命は喪服のまま眼の前にある有島光太郎の墓前に立ち尽くしていた。この石の下には彼の亡骸は一つもない。


 全て研究機関に提供された。


 それは彼の望む所であり、彼は最後まで人類の行く末を考えていた。


「…でもさ、あんたのそういう度を過ぎた優しさが私は最後まで相容れなかった」


 墓石に蹴りを入れる。ここにあいつはいない。あいつがいないのにここにしかあいつの痕跡はない。


「あんたはもっと我儘になれば良かったんだよ」


 更に強く蹴る。


「あんたがいれば良かったのにさ」


 つま先が痛くなる。異能で回復する。更に強く蹴る。つま先が鈍い音を立てる。折れたのだろう。回復する。更に強く蹴る。


「…でもさ、私は諦めない、あんたを…あんたを私だけのものにする」


 私はポケットから瓶を取り出す。そこにはあいつの首の骨が幾つか入ってる。私も世界を救った一員であり、あいつの亡骸を貰う条件を満たしていた。


「…ま、他の連中も同じ事考えてるだろうけどさ」


 


 

 

 

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