ぬいぐるみには意志が宿る?

@Kokonoe_dasei

第1話

『なにこっち見てんだよ』

「あのぬいぐるみ、少し古くさくていいな」

『おい、よせ。俺のことを買うな、どうせ捨てるんだから』



彼……狼のぬいぐるみは生まれながらにして、テーマパークの住人だった。

正確には、彼の意識が芽生えてからになるが。


彼が生まれたのは、今では稼働していな製造工場であり……いや、今はそんなことは関係ない。

今必要なのは、彼がこれまでに見てきたものだ。


彼が見てきたもの、それは同胞達が買われていく姿だ。大抵は、その場の流れで買われていったもの達。


その場の雰囲気に溶け込むため、ただ写真を取るためなどと、理由は様々。

一つだけ共通していることは、家に帰れば使い道なんてほとんどないってこと。


彼は、捨てられることを恐れていた。

『自分はどうせすぐ捨てられる。だって俺は、他と違っているから。それならいっそ、ずっとここに』

これが彼が常日頃考えていること……かもしれない。


「どうするかなぁ、買うか、買わないか……」

『買うな!買わないでいい!』と彼は吠えるが、このテーマパークにはもう、彼の居場所がなくなりかけていることを知っていた。


(客がいなくなった夜、古いものをどうするか、という話が、聞こえてくる。

それは近いうちに、必ず誰かがいなくなるという、サインのようなものだ。

そのたびに、彼は自分の番だという思いを募らせる。


他に意識があるものがいるとしたら、彼らも同じことを思っているだろう。

誰だって捨てられることは怖い。

でも、一番怖いのは、誰にも必要とされないこと、あるいは……)


「よし。このぬいぐるみ買うか」

『……』

彼は心の中で何を思っているのやら。

買われた怒りか、喜びか、またはそれ以外か。


ぬいぐるみは袋の中にいれられ、新天地へとつれられていく。ゆらりゆらり、袋といっしょにゆられて。


ついた先には、彼よりも古いぬいぐるみたちがところ狭しと並べられていた。

けれど、大きさや種類ごとに並べられており、ぎゅうぎゅうというイメージは感じられない。


『君も意思があるのかな?』

どこからか声が聞こえてくる。自身を買った男ではないし、周りには他に人もいない。

いるのは、たくさんのぬいぐるみ達だけだ。


『うーん、彼には意思がないのかな?』

『驚いてるだけかもよ』

『私達も、はじめは自分以外にも……!って驚いたもんね』

困惑で彼が、意思をだせないでいると、さらに多くの声が聞こえてきた。


『少し待ってみようか』

『……意思は、あります』

少し遅れて、彼ははじめの質問に答えることができた。

『そうかそうか、歓迎するよ新しい同胞君』

彼は不思議と心の中がスッキリしていくように感じた。


彼が本当に恐れていたのは、自分みたいに意思がある存在は、いないかもしれない。という孤独だ。

それが捨てられるよりも、彼の心を苛んでいたもの。


彼は孤独の狼ではなく、群れの狼へとなった。

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