赤いスカートと理由探し

乃万さや

第1話


 死にたいってわけではないんですけどね。

 数年前から私の心の中の端っこの方に、常にある言葉です。

 それまではどうだったかというと、「死にたい」とか「もう終わりたい」とか、出てくる言葉はそういったマイナスなものばかりでした。三十手前の今になってやっと、そこから抜け出したなぁと思えるようになりました。

 なぜ変わったのか、それを説明すると三百ページの文庫本になってしまう気がするので、今回は省略します。

 死にたいってわけではない、そんな私はある日、生きたい理由を探してみようと思いました。これをやりたいから、こうなりたいから、だから生きたい。そんなものを見つけてみたくなりました。

 物語の主人公みたいに大きな野望を持っていたいわけではないけれど、ふんわり希死念慮を持っている人物よりも、やりたいことがあって前向きな人物の方が、関わっていく上で魅力的だなと思ってもらえそうだからです。人と関わるのが好きな私は、そんな結論を持ちました。

 そんな私がまず何をしたかというと、一年でやりたいことリスト100、というものを作成しました。

 正直最初の方は全然出てこなくて、五つ書くだけでも精一杯。こんな小さなもの入れても良いのか、そんな完璧主義が顔を出します。色んなサイトを調べて、人のものを真似てみて、やっぱりこれは違うなと書き直してみたりして。書いただけで満足感を得てしまうような時間でした。

 ネタバレをします。100書いた項目は一年間で、半分ほどしか達成できませんでした。

 存在自体を忘れていた期間もあり、そもそも本当にやりたいのか、なんて自問自答もしました。

 

 今回は、その中から一つだけ紹介したいと思います。

 なるべく簡単なものから始めようと序盤で手を出したのは、「色のある服を買う」という項目でした。

 何故これをやりたいことに挙げたのかというと、好みの服を買うことで自分の気分を上げられるのでは、という発想からでした。

 元々好きな色は赤やピンクといった派手めなもの。ただ普段の服はネットスーパーで、黒とか白とかグレーとか、他の服と合わせやすいという理由でそんな色ばかり買っていました。

 着やすさよりも、着たいものを。

 見るたびに絶対良い気分になるぞと確信した私は、服を買うのが楽しみでした。

 とはいえ、金額の張るものを買う余裕はないということと、あまり気合を入れて探してしまうと、リストを達成するためのハードルが上がります。次の項目に手を出しにくくなってしまうのが嫌で、なるべく無理せずに買うものを決めることにしました。

 お店は一箇所で色々見ることができるのが良かったので、ショッピングモールの上から下までをザッと見て、後ほどネットスーパーで購入しました。決めたものは、ウエスト辺りがきゅっとしまっているタイプの、真っ赤なロングスカートです。

 買って家に届いた時、可愛いスカートに心が弾みました。その場で着てみて全身鏡で見た時に、似合ってるし買って良かったと、本音でそう思いました。

 ただ良かったのはここまでで、実際に外に着ていくとなると、今自分が持っているものの中でのコーディネートになるため、組み合わせはほぼ決まったものになります。他のものと合わせてみて、やっぱり形が似合わないな、色が似合わないな、と着回しにくさを実感しました。単体だと可愛いのに、集団だと浮いてしまって馴染めない子、みたいな。

 しかもそれを着て会った友人たちに、「赤色のスカート可愛いね」と言われることがありました。これは嬉しい気持ちが二割、あとの八割は、「ああ次この人に会う時は、このスカートを着ないようにしないと」です。

 いつも同じ服を着ていると思われないようにしたい、という私の思いが、私の嬉しい気持ちを邪魔してしまいました。

 そうなると、着るにもタイミングを選んだり、相手を選んだり、折角買ったのに着るのは面倒だなという気持ちが出てきます。

 可愛かった真っ赤なロングスカートはいつしか何でもない服となり、想像していたよりも気分の上がるものではありませんでした。

 そもそも、好きな色が赤色だということと、赤色の服を着たいという気持ちはイコールではないのかもしれません。なんだか拍子抜けな結果になってしまいました。

 

 やりたいことリストに手をつけて、生きたい理由になったか? 首を縦に振るには、ちょっと何かが足りないかなと感じました。答えを出さなければいけないわけでもないと思う私も居るけれど、それだと最初の目的が達成していないよねと思う私も居ます。また完璧主義がチラリ。

 やって無駄だったなとは思わないだけで、損はしてない良かった、とちょっと安心してしまったのが本音です。

 

 まだまだ、私の生きたい理由探しは終わりが見えません。人生思い出すと、プラスの出来事ばかりでなくとも良いと思える経験は沢山できたし、一緒に遊んでくれる友人にも恵まれて充実していたし、やっぱりもう人生満足かも、そう思うことも片手では足りない気がします。

 まあでも、死にたいってわけではないんですけどね。

 今日も私の心の中の端っこの方で、その言葉はちょこんと座っています。

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