未来なんて知らなくて良い先輩たちへ

淡路亜

第1話

…さん危ない…!ーー


夢はここで覚めた。


僕は最近、正夢と似たものを見る。

一般的に正夢というのは印象に残った夢とそれに似た出来事が一致する部分だけを脳が切り取って「これ夢で見た」と思い込むことで認識できるものだ。

しかし、僕の場合少し違う。思い込みではなく本当なのだ。なぜそう思うのか、それは偶然という頻度じゃないからだ。毎週一回は見る程度。今日の夢は僕が誰かを助けるというものだった。相手の顔も場所も暈されていて思い出せないが助けようとしたことだけは分かる。情報量が少ないくせに、もしかしたら助けないと相手が死ぬかもしれない、そんなものを抱えるのはいい気分なわけがない。とにかく今日はこの事を忘れてはいけない。


「どうした?いつにも増して真剣な顔だな」

そう言って声をかけてるのは僕の親友、池石祐希。ウザいけど彼女持ちだ。

「あぁ…ちょっとな」

「あ~正夢?」

こいつは僕の正夢の事を知っている唯一の人物だ。初めてその事について話したときは他人事な感じだったな。

「まあ、そんな考えることもないよな…」

そう言うと祐希は「まあそうだな」と返してきた。


そろそろ降りる駅も近いから席を立とうと視線を上げるとそこには同じ車両に乗っている美人な先輩が映っている。

「なぁ…峰岸先輩って綺麗だよな…」

僕は祐希の方を向いて言った。

「おい…お前じゃ届かない様な人だぞ?付き合えると思うな…それがお前の為だ」

祐希は心配そうな顔を見せて言う。それがウザい。先輩に僕が届かないのぐらい自分でも分かってるからだ。

「まだ綺麗としか言ってないだろ?」

僕が呆れたように言うと祐希は僕の肩に腕を乗せて言った。

「でもそうだな…確かに美人だな」

僕は祐希の腕を振りほどいて言う。

「なんだ?浮気か?」

「まだ美人としか言ってないだろ?」

ヤツは僕と同じ返しをしやがった。

「…峰岸先輩が友達といるとこ…見たことある?」

僕はふと思い立ったことを祐希に投げつけた。

「一応見たことあるけど…お前、あの話、知らないのか?」

祐希がまた心配そうに物を言ってきた。

「なんだそれ…たぶん聞いたことないな」

すると祐希はあの話について語りだした

「峰岸先輩が二年生の頃にクラスの一軍男子に告白された事があったらしい。先輩はそれを断ったんだが男子が逆ギレしてデマを流したりしたんだとさ、それで三年生になる頃にはデマは消えたんだが、嫌われていた時が長かったからか、皆あんまり話しかけにくくなったらしい。それでも男子人気は半端ないけど」

「はえ~、お前何でも知ってんな」

僕がホントに知らない様子でいると祐希は「お前マジか」って顔でこっちを見てきた。

「僕はそういうの疎いんだよ」


僕らは大在駅を出て歩き出した。すると祐希は大事なことを思い出したと言わんばかりの様子で話し始めた。

「あ、やべ今日彼女と待ち合わせしてたんだわ、先行くな」

「おう、じゃあな」

これだから彼女持ちは……でも僕も彼女欲しいなぁ…

そう思う僕の目には峰岸先輩が入っていた。


時は昼休み、今日は弁当を作る暇がなく購買でパンを買ってきたところだ。僕がいつもの空き教室に向かっていると、ちょうど階段から降りてきた峰岸先輩が目の前を歩き始めた。

どうしたんだ?もしかしたら僕と行き場所同じだったりして…なんかいい機会だし話しかけてみるか。

「峰岸先輩ですよね」

僕は後ろから声をかける。

「私に用があるの?」

彼女は冷たく端的だ。だが、それが良い。

「いえ、特にないんですけど、今からどこ行くんですか?」

すると彼女は腕を組んで言った。

「初対面なんだけど…まあ私に話しかける勇気を認めて教えて上げる」

上から目線すぎるが、峰岸明里なので許そう。

「今から昼ごはんを食べにそこの空き教室に行くの」

僕は思わず声を上げた。

「どうしたのよ、急に大声あげて」

「いや、行き先も目的も同じだったんで」

「そう、それなら一緒に来て良いわよ」

彼女は組んでいた腕を戻して歩き始めた。


僕が先輩の隣に座ったその時、彼女が訊いてきた。

「なんで私の隣に座るの?」

「えっ…ダメですか?」

「別に」

彼女はそう言ってお弁当を食べ始めた。

「お弁当じゃないのね」

「今日は時間がなかったんです」

すると彼女は言い訳苦しいなっていう顔で見てきた。

「いや、疑ってるようなので言いますけど、妹が入院していてその病院が学校と遠いから僕が残って両親が病院の近くに引っ越して、家事全般を自分で負担することになったんです」

「かなり大変なのね」

ようやく納得してくれたようで僕は安心した。

「ていうかなんで僕なんかとお弁当食べるの許したんですか?」

「まあ、行き先も目的も同じだったし、他に食べる場所なさそうだったから」

心外だなぁ…僕にだって食べる場所だって…意外とないかも…

それはそうと、峰岸先輩の声、夢に出てきた人の声な気がする。でももし、そうだとしたら、僕が助けないといけない、だってそれを知ってるのは僕だけだから。

「先輩、今日一緒に帰れますか?」

先輩を助けるには一緒に帰るしかない。別に後ろからついて行ってもいいが、もしそれがバレた時、僕はモテないだけでなくストーカー野郎として認知されてしまう…そうなったら僕の高校生活は終わり…なんとしてでも一緒に帰らなければ…

すると彼女は応えた。

「良いわよ」

なんて寛容さなんだ…素晴らしい…美人なのに加えて優しい、いい人すぎる…

「何その顔…ニヤけすぎでしょ…キモ…」

あ、全然そんなことはないかもしれない。


全てのが授業が終わって今は放課後、約束通り今日は峰岸先輩と帰る。

「遅い…」

峰岸先輩が不機嫌な様子で言った。

「僕は靴箱で待っててとは言ってないですけどね」

「うるさい…後輩のくせに…」

先輩の拗ねた顔、僕が初めて見たんじゃないか?

「そういや名前聞いてなかったわね、名前は?」

あ、名乗るの忘れてたな。

「寿原彩斗です」

「寿原君ね」

「苗字に君付けかぁ〜…距離置かれてるな〜」

すると彼女は腕を組んでこっちを見てきた。

「今日、初対面…!」

「先輩と僕の仲じゃないですか〜」

「じゃあ君も私のこと先輩っていうのやめて、あんまり先輩って呼ばれたくないの」

僕は少し考えて言った。

「じゃあ明里さん?」

「そうね、じゃあ私も彩斗って呼ぶ」


僕らは大在駅のホームに着いて電車を待った。

「明里さんって以外におしゃべりタイプなんですね」

彼女は一息ついて話し始めた。

「…例の噂の事で私って少しの間嫌われたじゃん?…それでね友達とかも離れていったの…そんな中彩斗が話しかけてくれたのが嬉しくてね、それで浮かれてたのかもね」

「そうなんですね」

僕らが話していると、背丈だけで見たら小学2年生くらいの子が僕の隣にいる明里さんの腰にぶつかった。明里さんは体勢を崩して線路に落ちそうになった。その小学生も転んでしまった。さらに、その時左側からくる電車、完全に血の気が引いて鳥肌立った。だってまさに夢の状態だったから。僕は直ぐに手を伸ばした。

「っぶな……大丈夫ですか?…」

「うん…ありがと」

僕が腕を掴めたから明里さんはなんとか助かった。その後、一方の転んでしまった子にも僕は声をかけた。今回は二人共何ともなかったから良かったけど、もし僕が掴めてなかったから、と考えると気が気じゃない。


場所は電車の中、僕らは座って話している。

「かなり馬鹿げた話なんだけど…僕、最近、正夢紛いのものを見るんです」

「最近っていつから?」

「妹が入院するちょっと前だから五ヶ月前くらいですね」

そう僕が正夢を見るようになって直ぐに妹入院したのだ。ご察しの通り妹入院したのも正夢のせい。僕はその頃からこのクソみたいな呪いが嫌いだ。コイツの所為で妹が病気にかかったとしか言いようがないから。

「そう…なら今回のやつも夢なの?」

「そうです、察しがいいですね」

すると彼女はにこやかと微笑んで言う。

「じゃあ、助けてくれたお礼にお弁当作って上げる」

「マジですか!?良いんですか!?」

「静かに…!」

僕は舞い上がって喜びたかったが大声を出す程度に留めた。この喜びを家まで持ってって家で喜ぶことにとにしよう。

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