記憶喪失

@Saitou_sou

記憶喪失

 年を重ねるのは切ないものだ。大好きだった音楽も、大切なひとの声も、守らなければならない思い出も、徐々にかすれて、遠ざかっていく。

 この私だって、若いときは何でも覚えることができた。記憶は正確無比で、何度でも繰り返し再現することができた。

 その能力の高さに、まわりからは羨望のまなざしで見られたものだ。私の話を聞きにくるひとはひっきりなしだった。

 それが、デジタルの時代になると、私の記憶力は急速に価値を失った。時代遅れになった私は見捨てられ、忘れ去られた。大切な記憶を聞きにくるひとも、引き出そうとするひともいない。

 もはや、私に存在意義はない。

 閉じこもっていた私に、ある日、青年が現れた。青年は私の話を聞きたがった。

 私は、最後の力を振り絞った。

 

 ぼくが祖父の遺品を整理していると、古びたカセットテープがでてきた。

 押し入れからカセットデッキを探し出して再生してみた。残念なことに、テープにはカビが生えており、スピーカーから流れてくるのは乾いた砂の音だけ。意味のある音声は聞き取れない。

 けど、ぼくにはその音が、妙に懐かしい感じがした。どこかに埋もれていた、祖父との記憶。海辺で作った、巨大な城。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶喪失 @Saitou_sou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画