第20話
グランヴェル学園に、久しぶりに来客があった。
「……本当に来るのか?」
「来るらしいよ。今は外で待機してるって」
教員たちの間に、落ち着かない空気が流れる。
数年前。
学園を卒業して、即座に籍を入れた二人。
その後の足取りは、 公式記録にはほとんど残っていない。
ただ、噂だけが増えた。
――ダンジョンの消失。
――未踏破区域の安全化。
――国家レベルの脅威の、無血解決。
どれも、 最強の夫婦が関与しているとされている。
「……入ります」
扉が開いた。
現れたのは、二人。
変わらないようで、 確実に“完成”した空気をまとっている。
「お久しぶりです」
セシルが、穏やかに会釈した。
その隣で、エリオが少しだけ緊張した様子で頭を下げる。
「……お世話になりました」
教員たちは、言葉を失った。
強い。
だが、それ以上に――
揺るがない。
学院長が、ゆっくり立ち上がる。
「今日は……視察、だったかな」
「はい」
セシルは、あっさり答える。
「学園の新しい演習ダンジョン、 少し危ないって聞いたので」
「……助言を、もらえると?」
「うん。
放っておくと、 三年後に事故が出る構造だから」
さらっと言う。
予言でも、脅しでもない。
ただの事実確認。
エリオが、横から補足する。
「今の生徒さんたち、 素質はあると思います」
「ただ」
セシルが続けた。
「“守る側”と“守られる側”を 固定しすぎない方がいい」
その一言に、
何人かの教員が息を呑んだ。
かつて、 自分たちが間違えた部分だった。
視察を終え、中庭を歩く。
「……懐かしいね」
エリオが、ぽつりと言う。
「うん」
「俺、ここで 初めて怒った気がする」
「覚えてる」
セシルは、少し笑う。
「かっこよかったよ」
「……今さら言う?」
相変わらず、照れる。
遠くで、生徒たちが二人を見ている。
「あの人たち……」
「噂の、最強夫婦だよ」
「え、夫婦!?」
その声に、
エリオが少しだけ慌てる。
「……言われ慣れないな」
「私は、もう慣れた」
セシルは、自然にエリオの腕に触れた。
「だって、事実だし」
その仕草に、
周囲がざわつく。
でも、二人は気にしない。
夕暮れ。
学園の門の前。
「もう行くのか」
学院長が、問いかける。
「はい」
セシルは、迷わず答えた。
「次のダンジョン、 放っておくと面倒なので」
「……世界の方が、 君たちを必要としているな」
「そうでもないですよ」
セシルは、首を振る。
「ただ、二人で行動してるだけです」
エリオも、頷く。
「……俺たち、 最強になりたかったわけじゃないので」
学院長は、苦笑した。
「結果的に、だな」
門をくぐる直前。
セシルが、ふと振り返る。
「ありがとうございました」
「学園のおかげで、 エリオと出会えたので」
それだけ言って、 二人は歩き出す。
並んで。
自然に。
学園は、もう二人の舞台じゃない。
でも。
二人が選んだ物語は、
世界の方が追いかけてくる。
当て馬だったはずの少女と、 名もなきモブだった青年。
彼らは今日も、
誰にも邪魔されず――
最強で、幸せだった。
負けヒロインに転生したので、当て馬になる前にモブと結婚前提で最強になります 夜光めん @Alev_nen
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