第17話

 制限は、想像以上に露骨だった。


 行動時間の制限。

 学園外ダンジョンへの許可制。

 ペア行動時の報告義務。


 そして――

 指定パーティ編成の再検討。


「……これ、実質バラせって言ってない?」

 エリオが、掲示を見ながら言った。


 声は低い。

 抑えている。


「うん」

 セシルは、あっさり頷いた。


「そうだと思う」


「……いいの?」


「よくないよ」

 即答。


 でも、怒ってはいない。


 それが、逆に怖かった。


「でもさ」

 セシルは、少し考えてから続けた。


「決めるの、学園だよね」


「……そうだけど」


「私たちが、従うかどうかは、別」

 まるで、天気の話をするみたいに言う。


 その瞬間。


 エリオの中で、何かがはっきりした。


 ――ああ。


 この人は、

 最初から“守られる側”じゃない。


 呼び出しは、放課後だった。

 模擬戦用演習場。

 教員立ち会い。

 指定パーティ案の確認、という名目。


 そこに、ハルトがいた。

「……来たか」


 視線が、まっすぐエリオに向く。


 セシルではない。

 エリオだ。


「話は聞いてると思う」


「うん」

 エリオは、短く答えた。


「二人での行動は、効率がいい。 だが、それは学園全体にとって――」


「それ、違う」

 遮ったのは、エリオだった。


 場が、一瞬静まる。


 教員が、驚いたように見る。

 ハルトも、言葉を止めた。

「……何がだ?」


「俺たちが“効率だけ”で動いてるって前提」

 エリオの声は、震えていない。


「そんなこと、考えたことない」


「結果が出ている以上――」


「結果は、後から付いてきただけだ」


 エリオは、一歩前に出た。

「俺は、セシルと組みたかっただけ」


 空気が、張り詰める。

「強いからでも、 便利だからでもない」


 セシルが、少し目を見開く。


「一緒に考えて、 一緒に間違えて、 一緒に前に行けるからだ」

 それは、初めて口にする本音だった。


「それを――」


 視線が、ハルトを射抜く。

「“学園の都合”で切り離すなら」


 一拍。


「俺は、従わない」

 教員が、慌てて口を開く。


「待て、それは――」


「規則は守ります」

 エリオは、きっぱり言った。


「でも、選ぶのは俺です」


 ハルトの顔が、強張る。

「……感情論だ」


「そうだよ」

 エリオは、否定しなかった。


「でも、あんたがやってるのは―― 正義のふりした、横取りだ」

 その言葉に、

 セシルが、静かに息を吸った。


 エリオの袖を、軽く引く。

「……エリオ」


「大丈夫」

 振り向かずに言う。


「言いたいこと、言う」

 そして、最後に。


「俺は、セシルの相棒だ」

 はっきりと。


「それを決めたのは、 学園でも、あんたでもない」


 沈黙。

 誰も、反論できなかった。


 その場を出た後。

 エリオは、ようやく肩の力を抜いた。


「……怒っちゃった」

 ぽつり。


 セシルは、少しだけ笑った。

「うん」


「引いた?」


「全然」

 むしろ。


「……かっこよかった」


 その一言で。

「……!」


 エリオは、また耳まで赤くなった。


 でも。


 もう、迷いはなかった。


 学園がどう出ようと、

 誰が何を言おうと。


 選ぶ相手は、最初から一人だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る