第6話
グランヴェル学園のランク戦前は、いつも騒がしい。
「今年もハルトだろ」
「エミリアと組むんだって?」
「そりゃ強いに決まってる」
食堂の端で、二年生の男子がそう言って笑った。
話題は、いつもの顔ぶれ。
――主席合格。
――学年上位の美女。
――理想的なペア。
誰も疑っていない。
疑う必要もない。
「……で、他は?」
ふと、別の生徒が聞いた。
「他?」
「ほら、ペア制だろ。ランク戦」
少し考えてから、誰かが肩をすくめる。
「雑魚狩りみたいなもんだろ」
「地味な連中は、評価上がんないし」
その時。
「あれ、あの二人は?」
窓際の席で、女子が指をさした。
視線の先――
訓練場の隅で、二人の生徒が並んで立っている。
セシル・アルノルト。
エリオ・フェルナー。
「……誰だっけ?」
「セシルは知ってる。前、ハルトと一緒にいた子」
「エリオは……モブ?」
失礼な言い方だが、誰も否定しなかった。
その二人は、模擬戦の説明を聞きながら、何かを確認している。
声は聞こえない。
ただ。
「……噛み合ってない、よな?」
誰かが言った。
前に出るのはエリオ。
後ろで周囲を見ているのはセシル。
普通なら、逆だ。
セシルは座学ができる。
エリオは、特別な評価がない。
なのに。
「今の、指示してないよな?」
「うん……でも、動いてる」
エリオが動く。
セシルは、何も言わない。
なのに、次の瞬間には最適な位置にいる。
それを見ていた三年生が、眉をひそめた。
「……あれ、嫌な感じだな」
「嫌?」
「命令じゃないのに、完全に合わせてる」
指揮官タイプの上級生ほど、そこに違和感を覚える。
命令がない。
号令もない。
なのに、動きが揃っている。
まるで。
「……もう、出来上がってる?」
その言葉に、周囲が一瞬黙った。
出来上がっている。
――新入生の段階で?
あり得ない。
普通は、学園で学んで、
ランク戦を重ねて、
ようやく辿り着く境地だ。
その時、教員の声が響いた。
「――次、模擬配置テスト」
生徒たちが動き出す。
セシルとエリオも、静かに歩き出した。
すれ違いざま、誰かが呟く。
「……あいつら、勝ちに来てないよな」
「え?」
「評価、気にしてない動きしてる」
ランクを上げたいなら、派手に動く。
目立つ技を使う。
でも、あの二人は違う。
勝つための動きだけをしている。
それも――
相手を壊さない形で。
「……まあ、どうせ本番じゃ分かる」
そう言って、誰もが話題を切り替えた。
だが、その違和感は、確かに残った。
評価表の外側で、
静かに準備が進んでいることを、
まだ誰も理解していなかっただけだ。
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