負けヒロインに転生したので、当て馬になる前にモブと結婚前提で最強になります
夜光めん
第1話
グランヴェル学園の正門をくぐった瞬間、胸の奥がざわついた。
石造りの校舎。
魔導装置が埋め込まれた訓練場。
剣と杖を持った新入生たちの、少し浮ついた空気。
「……あ」
その違和感は、名前を呼ばれたことで形を持った。
「エミリア・フェルナー。前へ」
淡い金髪の少女が、少し緊張した様子で列から出る。
それを見た瞬間、頭の奥で何かが噛み合った。
――思い出した。
ここは、前世で遊んだ乙女ゲームの世界。
ダンジョンと魔法と学園を舞台に、ヒロインが攻略対象と恋をしながら成長していく物語。
そして。
「……私、セシルじゃん」
口に出さなかったのは正解だったと思う。
代わりに、心臓が少しだけ早く打った。
セシル・アルノルト。
正規ヒロインでも、悪役令嬢でもない。
どのルートでも、必ず振られる――
当て馬ヒロイン。
告白イベントはある。
好感度も上がる。
でも、選ばれない。
エンディングで、静かに実家へ帰るだけ。
それが、私の役割。
「……うわ」
最悪だ。
でも、同時に妙に冷静な自分もいた。
転生してからこれまで、特別なチートもなく、平凡に生きてきた。
万能だけど器用貧乏な魔力適性。
目立たない成績。
なるほど。
当て馬としては、出来すぎている。
視線を上げると、主席合格の名前が呼ばれていた。
「ハルト・ヴァイス」
凛とした声。
周囲がざわめく。
……うん、知ってる。
その人、攻略対象。
前世では、ちょっと好きだった。
だからこそ、この役回りはよく覚えている。
(なるほどね)
頭の中で、歯車が切り替わる音がした。
ここで頑張っても、意味はない。
恋愛イベントを踏めば、予定通り振られる。
だったら。
(最初から、物語に参加しなければいい)
攻略対象と関わらない。
目立たない。
静かに学園を卒業する。
そう決めて、視線を逸らした先で――
ひとり、地味な男子生徒と目が合った。
黒髪で、特徴のない顔。
剣も杖も持っていない。
資料らしき紙束を抱えて、少し居心地悪そうに立っている。
……誰だっけ。
記憶を探って、答えはすぐ出た。
(あ、モブだ)
名前も、ルートも、イベントもない。
乙女ゲームにすら、ほとんど存在しないキャラ。
なのに、その目は、今の状況をやけに冷静に見ていた。
ふと、思う。
――ああ、いいかもしれない。
物語に選ばれないなら、
最初から、物語の外に立てばいい。
どうせ最後は、誰かと結婚するだけの未来だ。
なら。
(早めに決めて、強くなった方が、楽じゃない?)
そう考えた瞬間、
胸のざわつきは、すっと引いた。
私は、当て馬ヒロインだ。
でもそれは、
負ける役という意味じゃない。
――物語の外で勝つ、ってだけだ。
そうして私は、
まだ何も知らないモブ男子――
エリオ・フェルナーの方へ、一歩踏み出した。
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