中島、魔法使い辞めるってよ
袋田タキ
第1話
魔王歴634年、長い年月、世界は魔王に支配され続けていた。
中島率いる勇者一行は、魔王軍との激戦の末、ついに魔王城に到達した。
「身体の感覚が麻痺している。ブラックドラゴンの毒霧にやられたらしい、悪いが回復魔法を頼む。」
「わかりました、勇者様。光を与えし我が守護神よ!毒の呪いより解き放て!」
ファーっと柔らかな光に勇者は包まれ苦渋の顔つきからようやくと微笑を取り戻した。
「ありがとう。楽になったよ。お前は大丈夫か?」
ズッシリと重い大盾を掲げニヤリと勇者を見た。
「あぁ、俺は大丈夫さ!まだこの大盾が上げられる。だがな、みんな疲れてるよ。どうだい、奥に見える巨大な扉、あの奥に魔王がいるんだろ?」
「どうやらそうらしい。最上階だからな。中島もどうかい?魔力を温存してくれたとは言えかなり疲れたろ。」
「中島さん、休みましょう。私が回復魔法を使いますから。」
「そうだな!中島には魔王にド派手な先制攻撃一発喰らわしてくれんとな!リーダー、ここはキャンプして体力回復してからラスト、締めようぜ!」
「よし、わかった!休もう。見張り頼むよ。お前、俺、それから最後は早起きの中島。レディはゆっくり寝てくれ!明日が勝負だ!」
朝起きると一通の手紙が残され中島は消えていた。
「勇者様!起きて下さい!中島さんが、中島さんが!」
『魔王を倒してから読んで下さい。不器用な中島より。』
「なんだこの手紙は?」
「中島が消えた?!そんなまさか…。」
「私、ちょっと心当りがあるんです…。魔王城に入る前の町での事なんです。」
「何かトラブルでもあったのか?」
「トラブルではないと思うんですが、最後の決戦に備えて中島さんと回復魔法の練習をしてたんです。以前から回復魔法の練習はしていたのは知ってますよね。」
「ああ。」
「初めは私のイバラのムチが不意に当たってから練習を始めてたんです。浅い傷だからヒールで治してたんです。回復魔法って傷もしっかり治るんだねって中島さんが言っていたので、僕が実験台になるからムチで攻撃してみてよ。それから度々練習台になってもらいました。」
「そうか、夜中に『うっ!あぁ!いいよ!』って中島の声がしてたのはそれか…。でもなんで?」
「さすがに私の武器で練習するのは心苦しくて、中島さんの顔を平手で叩いたりしました。最後の町でマックスヒールを使えたら魔王戦に絶対使えるって中島さんが言うので顔をすごく叩いたり、武器でかなり攻撃してボロボロにしてしまいました。それとも中島さんに攻撃した時、えいえいってツバが掛かってしまいました…。それが嫌だったのでしょうか?」
「そうだったんだ…。いやでもそれが嫌で消える様な人ではないと思うが…。」
「俺は居酒屋で飲んだら酒に強くなるって酒飲ませては吐くまで酔わせたからか…。食べ物の上に粗相したから、食べ物を粗末にするな!とは言って胃薬代わりの激安ポーションを無理やり飲ませていたよ。それか?」
「勇者様は心当りはないのですか?」
「いや。どうだろか。中島をイジメたとか記憶にないよ。強いて言えばゾンビとかアンデッド系はファイアーは良く効くので先頭を任せていた事はあるが。…効率よく古城を攻略したはすだよ。」
「いや。中島怖がりだったじゃないか?」
「そうかな?」
「やっぱり些細な事が心理的プレッシャーを与えていたのではないでしょうか?」
「比較的大人しいタイプだったのかな。今っぽい人?なのかな。…わからん。」
「あ、思い出した、聖剣の錆落とし何時間もさせてたでしょ?」
「聖剣の錆落とすの上手かったんだよ。それが原因?」
「なんだかんだで三人共心当りあるんじゃないですか?」
「そうかも知れんな…。」
シーンと静まる中、中島と初めて会った時の事を思った。膝を抱えいつもいるはずだった中島の席を空け、車座になった。
ふと勇者はゆっくり語り始めた。
「中島と会った町でさ、他の冒険者とイザコザあったろ?その時、中島が現れてさ、無詠唱でファイアーぶっ飛ばしたろ?あれで冒険者イチコロだった。そこそこのランクの冒険者5人を一発。それであぁこの人、すげぇな。天才っているんだなと思ったよ。」
勇者は瞳を閉じ、中島を想った。
「そっすね。俺は逆鱗の大盾の迷宮っすよ。レッドドラゴン相手に一歩も引かなかった。レッドドラゴンが『ほう、我に一歩も引かね人間もおるのじゃな。』って逆鱗の大盾手に入れたじゃないですか、あれはシビれたっすよ。」
戦士はへへっと笑みを浮かべ
「オークからの攻撃に盾を使って守ってやった事もあったなぁ。二人盾の中でここは耐えようぜって言ってたけどなんか余裕あったしな。それにさ、中島が疲れた時に、ほらよってポーション渡してやったら、このポーションは効くぜってウマそうに一気飲みしてた。飲み干した空のポーション叩き付けて割って…。なんか男気あるヤツだったな。」
「そうだったな。レッドドラゴンは凄かったね。中島、もう止めとけって言うまでノーガードでレッドドラゴン睨んてたんだと思うよ。後ろから肩を軽く叩いてやっと正気に戻ってさ、殺気立ってレッドドラゴンと向かい合ってやっぱり疲れたんだろうな。いつもポーション渡すと苦笑いしてひと口飲んで止めて、珍しく回復魔法に頼ってたな。」
「そうなんですよ。いつもポーション飲んでくれたから私、魔力温存できていました。」
僧侶はイバラのムチを握りしめながら
「ムチを勧めて教えてくれたのは中島さんでした。回復魔法だけだった私にムチの種類を詳しく説明し、握り方から振り方を学びました。魔物にはバラムチも効果的で一本ムチではビシッと攻撃する方法を学びました。中でも一本ムチを首元に巻きつけ四つに這いつくばらせるテクニックはやはり中島さんじゃ無いと教えられない技術だと痛感しています。私でもゴブリンと戦える様に指導してくれたムチの師匠でもあるんです。」
ムチを握りしめヒュっとムチを振ってみた。
「そうなんだよ!俺達パーティーは攻撃力随分上がったからな。ホント中島様々だったぜ!」
「君がゴブリンどころかオーク、オーガの人型モンスターに対応して這いつくばらせるから、トドメを刺すのは楽になったよ!」
三人は笑った。魔王城に入ってからシビアな戦いの連続だった。中島がいたらもっと笑えたのに。中島の姿はない。
「私ね、中島さんの献身的な態度が好きでした。中島さん相手にムチの練習させて頂いてビシッといい攻撃が入ると中島さんは『いいよ!今のもう一本!』って痛そうだけど苦しそうな笑顔で励ましてくれて、私もアドレナリンが凄く出てヤル気が出たんです。ある日ムチがグッと首に強く巻き付いてしまって気絶して倒れてしまったけど、すぐに頬を平手で叩いて回復魔法を掛けてあげたら、笑顔で『良かったよ、ありがとう。』って声掛けてくれて…。中島さんも自分を極限追い込んで私の回復魔法の上達の手助けをしてくれた。イバラのムチも平手打ちももう一度やろう、もう一度と一生懸命でした。」
「中島の秘密の特訓してたんだろ?」
「そうです。いつもマンツーマンでした。」
ヒュっとムチが勇者に飛ぶ。
「コイツー。俺は中島じゃないんだぞっ!」
勇者はムチを軽くかわして、また三人は笑った。
中島との冒険が三人のまぶたの裏によみがえる。
幸せだった。中島との冒険は三人には当たり前の幸せだった。
「あぁ!もしかして!」
「なんだっ?!急に大きな声出して!」
「中島が帰ってきたのかっ?!」
「よくよく考えてみたら私、わかったんです!長時間の聖剣の錆落としも厭わない労力、それにレッドドラゴンに一人で立ち向かった逆鱗の大盾の獲得も、私のムチ技とマックスヒールも魔王との最終決戦で使うためって事?!」
「そうだよ!あいつお膳立てしやがって!やりやがったな!」
「よし、わかった!この手紙も魔王を倒してから読んで下さいなんて…。自分の手柄にしない俺達への置き土産って理由か!なんて事だ!中島の計算なのか!」
勇者は立ち上がり大扉に向かって聖剣を振り上げる。
「そうと分かればいくぞ!最終決戦へ!」
ゴゴゴーっと大扉が開く。
ゴクリとツバを飲む勇者、逆鱗の大盾を構える戦士、ムチを構えつつも詠唱の準備をする僧侶。
扉の向こう、大広間に向かって三人は歩き始める。
今まで暗闇だった大広間は、三人が進む度にかがり火がひとつ、またひとつと灯されていく。
大扉がまた音を立てて閉じられていく。
三人はもう後戻りは出来ないとひしひしと感じていた。
「もう、戦に勝つ他にここには出口はないぞ。」
「わかった。」
「はい。」
次々にかがり火が灯され、ようやく奥の玉座に何者がが座っているのが見えてきた。
「クククっ。…ようこそ我が城へ。」
玉座には初老と言うか、男が一人脚を組み、優雅に座っている。
「お前がこの城の主、魔王なのか?」
勇者が初老の男に問う。
「そうじゃ。ワシがこの世界を統べる王、お前らからすると魔王と呼ばれている。」
ハッキリと見える。白髪にミノタウロスの角、耳はエルフの様に尖り瞳は赤い。肌は浅黒く開いた口から牙が見える。
思ったより大きくは無く勇者とそれほど変わらない体格。
「俺達は魔王、お前を倒しに来た!この世の闇を解放し光ある世界へと導く!」
「ほう、お前が勇者か…。若いのう。一人足りんようじゃが。…死んだか?」
聖剣を構えジリっと玉座へ近づく。
「俺達三人で十分だ。稀代の天才魔法使い中島の手を煩わせる必要は無い!」
「なんと!逃げ出したのか…。」
ニヤリと魔王は笑みを浮かべる。
「バカ言うな!中島なぁお前如きに逃げ出す男じゃ無い!俺達に託したんだっ!」
逆鱗の大盾を持ち上げ戦士は吠える。
「そうよ!あなたなんて中島さんがいなくても想いは私達三人と繋がってるんだからっ!」
ギュッとイバラのムチを握る。
「そうか。では我がしもべ達よ!」
玉座に座ったままパチンと指を弾いてみせた。
スケルトンが現れ三人に襲い掛かる。
ビシッとムチを振るったのが合図だった。
「これは中島さんから受け継いだ技よ!」
ビシッ、ビシッっと小気味よくムチがスケルトンを捉え破壊する。
最後の一体は首に巻き付け四つに這いつくばらせた。
そこに勇者の聖剣が一閃。スケルトンの首を飛ばした。
「中々やるのう。スケルトンくらいはちょっとした遊びじゃ。」
魔王はまたパチンと指を弾いた。
今度は暗雲がたちまち現れ燃え盛る小さな隕石が襲いがかる。
「俺の出番だ!」
戦士は逆鱗の大盾をしっかり構え僧侶と戦士の前に立ちはだかる。
しかし、上下左右から燃え盛る隕石を全て防ぐのは難しかった。
何とか僧侶を守る事は出来たが三人全員が逆鱗の大盾が防ぐ事は出来なかった。
勇者は致命的ダメージは受けなかったが腕や脚にダメージを受けてしまっている。「四人で戦ってたら一人はとんでもないダメージ受けてたよ。流石中島、やはり計算の上だったかっ!」
「勇者様、大丈夫ですか?マックスヒールで回復しますか?」
「いや、今はヒールで十分。頼むよ。」
僧侶はヒールを使い勇者のダメージの回復をした。
「勇者よ、まだまた楽しませてくれよ。」
余裕の笑みを浮かべる魔王。またパチンと指を弾いた。
次はワイバーンが現れ襲い掛かる。
「クソっ。中島のファイアーがあれば何とかなったかもな!」
空を飛ぶワイバーンには三人は手こずってしまい、鋭い爪が徐々にダメージを受け始めた。
「中島ならどう攻略したのだろうか?」
「大盾に隠れながらムチで打ち落とすしかありません!」
「わかった!引きつけるら落としてくれ!」
大盾からチャンスを伺い、イバラのムチが飛ぶ。何とか打ち落として勇者がトドメを刺す。コレが見事にハマった。
しかし、勇者のダメージも限界に近づいていた。
「マックスヒール!」
ためらわず僧侶は勇者の回復を優先させた。戦士は疲労が蓄積している。
「中島のポーション、使わせて貰うぜ!」
戦士はたまらずポーションを一気飲みした。
うっ…。と胃腸薬と間違えたのか?と思って空の瓶を床に叩き付けた。
「間違ったがなんとか疲労が回復してるぜ!」
「さて、これから本番じゃぞ。」
魔王は手に持っていた禍々しい魔石を額に埋め込んだ。
とたん、魔王の体が巨大化した。
「あれだっ!あの魔石を破壊すればもしかしたら、がある!」
そう叫んだ瞬間、魔王は真っ直ぐ勇者に突っ込んで来た。
ガシッと突進を止めたのは逆鱗の大盾。しかし魔王の力は強大で三人は吹き飛ばされた。
そこでまたパチンと指を弾く。
稲妻が三人を直撃、意識を失った。
僧侶は無意識に中島との思い出を回顧していた。
あの夏の日…。
「中島さん。いつも練習に付き合って頂いてありがとう。」
「僕はいいんだ、君のムチの技も上達している。魔物から自身で身を守る事も出来る実力があるよ。」
「いえ、そんな…。練習が楽しくてとても充実しています。今日も私のワガママで練習させて頂いて…。」
「そうか。では僕もひとつワガママ聞いて貰いたいんだ…。」
「なんですか?私、出来る事ならやらせて頂きます。」
「じゃあさ、その、君の、素足で…。僕の頭を踏みつけて欲しいんだ…。」
「え?そんな…。そんな事出来ないです…。中島さんの頭を踏みつけるなんて…。」
少しずつ意識が戻る。
痛い。
薄っすら目を開けると、魔王が勇者の頭を踏みつけている。
「なんじゃ…。勇者とは名ばかり…。つまらんなぁ。」
苦痛に歪む勇者の顔が痛々しい。
戦士の方に目を向けるとなんとか息があるようだった。
「今よ…。マックスヒールでまず戦士さんから…。神よあなたの与えし御力で傷を癒し給え、マックスヒール!」
戦士はたちどころに体力が回復するのを感じた。
立ち上がると魔王に踏みつけられている勇者をみて突撃をする。
そう言えば中島と走って坂を下ったなぁ。
中島体力ないから「早く来いよー!」って坂の下で待ってたっけ。
ハハっ。あの日の風を感じるよ。なぁ中島…。
ガッっと魔王に逆鱗の大盾ごとブチ当たる。一瞬だったが魔王の体制を崩す事ができた。
その一瞬を逃さず僧侶はマックスヒールで勇者は体力を回復する事ができた。
「ありがとう、中島。お前が磨き、よみがえらせたこの聖剣で!」
勇者は魔王の脚を一閃した。
ガクっと魔王は膝を付く。
「人間如きがっ!魔法使いが逃げ出したと思ったが、侮ったわっ!」
魔王が腕を上げ、指を鳴らそうとしたその時、ヒュっとムチが魔王の手首に巻き付き魔王の魔法攻撃を防いだ。
勇者はそこを見逃さず、魔王に会心の一撃を放った。
「グオォォー!」
魔王は苦痛の咆哮をあげた。
「今だ!ムチで首を捉えろ!」
「はいっ!」
隙ができた魔王の首をムチがガッチリ捕らえた。
さらに魔王の顔が苦痛に歪む。
僧侶は渾身の力を込め魔王を四つに這いつくばらせる。
急に身体が動いた。
四つに這いつくばらせた魔王の頭を僧侶は足で頭を踏んだ。
「これだったんだ…。中島さんが頭を踏んで欲しいと言った理由…。四つに這いつくばらせた敵の頭を踏んで動きを止める。このために頭を踏ませ技を完成させようとしたんだわ!」
間髪入れずに勇者の聖剣が額の魔石を捉え、破壊に成功した。
「ううむ…。」
「やったのか??」
「ナゼだ…。魔法使いを失ったお前らが…。」
「言っただろう?中島がいたら…。いや、中島のお陰でお前を倒せたんだ。これは中島の力なんだよ…。」
聖剣で魔王の額の魔石をえぐり、そして粉々に砕いた。
急に魔王の体格は元に戻り、ただの初老の男に戻った。
細くなった魔王の首に巻き付いていたイバラのムチがほどけふらふらと魔王は玉座に腰を掛けた。
「ううぅ中島ぁ~!」
戦士は拳を上げ勝ち鬨を叫んだ。
「中島、お前って奴は…。」
「そうだ!勇者様、中島さんの置き手紙…。」
「そうだな、中島の最後で最高のメッセージがありそうだな。」
『拝啓、勇者様、戦士君、僧侶さんへ。
この手紙を読んでいるって事は魔王を倒した、と思ってるよ。
さて、ついに魔王城最深部、魔王の間へ繋がる扉の前までやって来ましたね。634年間も続いた魔王の時代が勇者の手に依って倒され平和な時代がやって来る、明るい未来が待ってる。その時が近づくのを感じます。そんな大切な瞬間に立ち会う事が出来なくてゴメンね。
なんて言ったらいいかな?初めて君達と出会ったあの春風の季節。そう、駆け出しだったパーティーに僕を誘ってくれた。「俺達には中島の天才的な魔力が必要なんだ!」って言ってくれた時、僕なんかでいいのかなと思ったけど、ホント、とっても嬉しかったよ。
あの頃の僕たちは、魔王を倒せばすべてが終わる、世界を平和にするって信じて疑わなかったよね。
僕は生まれて初めて「ファイアー」でスライムを倒した時、みんな「やったな中島!」「オメェはスゲー魔法使いだ!」「カッコいいです中島さん!」なんて町の居酒屋でハシャイでつい飲み過ぎてゲロ吐いてしまったよね…。下戸なのにさ。二日酔いが回復魔法で治らないって初めて知ったよ。
天空の塔の屋上で、聖剣の錆の落とし方について何時間も語り合ったこととか、みんなが勧めてくれて飲んだ安物のポーションの味とか、今でもたまに思い出すんだ。
糞マズかったよ。何の罰ゲームだ!なんて思ったよ。
泉の森の洞窟で僕が溺れかけて、マウストゥマウスで助けてもらった時、ファーストキスは勇者様に捧げたつもりだったけど「今のはノーカンね。」と聖水でうがいしたのを見て少し残念だったな。
絶対私はイヤって僧侶さんが言ってたの、おぼろげながら覚えてるよ。
全員泳げないから頑張って聖剣取って来たのに、そりゃないぜ!なーんて思ったりして。
オークの襲撃の時、大盾に守って貰った時もあったね。
戦士君との仲間意識ってその頃芽生えたのかなぁ?
僕が持っていた買ったばかりの串焼き盛り合わせの方が、貧乏な僕達パーティーのご馳走をオークに食べられちゃうところだった。危なかったなぁ。
そうそう、山を走って降りるなんて信じられないほど次の日、筋肉痛になるんだ。マジで…。
そしてすぐにポーションだろ?信じられないよ。一体どんな神経してるんだって思ったよ。
ドMの僕は回復魔法をかけて貰う時、一度ムチでシバいてから回復魔法をかけて欲しいと懇願した時、君は女神様ではなく女王様だと本気で思った。バリエーションも豊富でビンタもツバ吐かれるのも嬉しかった。ありがとう。
ホントはね、ムチで首絞められながら頭を踏んで欲しかったよ。
僧侶さんのミニスカートの奥が気になってたんじゃなく、踏んでくれたら昇天しそうだったんだ…。パンツが本命じゃないんだよ。わかってくれたかい?
でもね、最近気づいちゃったんだ。
僕が本当に守りたかったのは、世界じゃなくて、君たちと過ごした『あの空気』だったのかもしれない。アオハルって感覚かな。
昨日の夜、勇者様が『明日が勝負だ』って言った時、僕はふと、魔法使いとしての僕の賞味期限が切れる音を聞いた気がしたんだ。
君たちはこれから『歴史』になるけれど、僕はただの『中島』に戻りたい。
びしょ濡れのパンツを変えた雨の日も、安宿の屋上のフェンス越しに見たあのオレンジ色の夕焼けの中を、ゾンビに震える夜も…。そんな毎日を懐かしく思うよ。
最後にみんなに告白します。
僕は天才じゃ無い。
中島より。
PS、今まで稼いだ有り金は全部持って行きます。』
「中島、魔法使い辞めるってよ。…俺、戦士辞めるわ。」
「私も僧侶辞めます。」
「じゃ、俺も勇者辞めるよ。」
「ではワシも魔王辞めようかのう?」
「どうぞ、どうぞ!」
中島、魔法使い辞めるってよ 袋田タキ @fukuroda_taki
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