朧月落魔奇譚

あぽろのすけ

エピローグ 欠落した最終話

――世界は神の欠伸ひとつで、白く塗りつぶされようとしていた。


彼らが積み上げてきた歴史は、あまりにあっけなく無残に崩れ落ちた。隣に立っていた同志の鼓動も、もう聞こえない。


神を演じきった彼らは、皮肉にも本物の神によって、ゴミのように廃棄されたのだ。

その消失の淵で、獅子堂ししどう れいは、折れた煙管を地面に捨てた。



「……あーあ。一世一代の嘘がこのザマか。結局、誰も救われん、史上最悪のバッドエンドやな」



零の声は、崩壊する世界の中で驚くほど乾いていた。

隣に膝をつく己導きしるべ みかどが、血を流す銀色の瞳で、天上の――その向こう側を睨みつけた。



「当然だよ。……この世界法則ルールの中にいる限り、ボクたちは神の掌の上の駒に過ぎない。主人公ですら、神が紡いだ筋書き通りだったんだから」



帝の声には、神に与えられた呪われた瞳で視てしまった筋書き通りの絶望と、狂おしいほどの後悔が混じっていた。



裏切りも、大敗も、すべては神の掌の上。



「なぁ、帝。あんたの眼に映らんイレギュラー……まだそこに残っとるか?」



本来、あの日、両親と共に死ぬはずだった少年。

神の目録リストにさえ載っていない、名もなき敗北者。



「……うん、いるよ。」


「なら次は、オレたちでもっとオモロくしたる。あんたが『知らない』物語に、オレらが書き換えてやる」



零が、挑発的に微笑んだ。

帝がその残った力を振り絞り、世界の因果律レコードを逆回転させる。



「代償はボクがいくらでも払う。」



二人の輪郭が、強い光に溶けていく。

それは終焉ではなく、神の筋書シナリオきを殺すための、史上最大の「嘘」の始まりだった。



「――さよなら、正史ごみくず


「もうやり直しは効かん。ここで決めんで、ミカ。」



ふふ、と。

最後に聞こえたのは、誰かをあざ笑うような、清々しい嘲笑だった。



「じゃあな、名も無き観測神。次はあんたが想像出来ないもん、見せたる」



――白が、爆ぜた。

すべてが純白の閃光の中に消え去り、そこにはただ、逆回転を始めたレコードの軋みだけが残された。


あの日。

死ぬはずだった一人の少年の鼓動が、静かに、そして強く、運命を違えて脈打ち始める。



終焉から、はじまりへ。



神と崇められた少年が絶望を抱え

その隣で、神に見初められた少年の鼓動が止まる。


――物語は、ゴミ箱へと捨てられた。


だが、誰かがそれを拾い上げる。

運命の目録リストにすら載っていない、あの日の放課後へ。



今、運命のページが捲られた。

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