52歳の恋(華やかなレールの上からセクシー女優へ...)
みさき
二つの人生
名門女子校から名門大学へと、桜の花びらが舞うように華やかなレールの上を歩んできた優子。大学生になって初めてできた彼氏は同じ経済学部の先輩で、二十歳の春、そっと初体験を交わした。その後も数人の男性と交際し、大学卒業後は大手電機メーカーへ。管理部門に配属され、二十七歳で同僚と結婚、二十八歳と三十歳で二人の子どもを授かった。子育てと仕事に追われる日々は、安定と充実に満ちていた。
五十二歳、子どもたちが自立し、夫とはすでに愛情より慣れで繋がる関係になっていた頃、優子は二十五歳の青年・拓馬と出会った。取引先のイベントで働くフリーランスのデザイナーだった。久しぶりの胸の高鳴りに躊躇しながらも、彼の新鮮な感性と熱意に引き込まれていった。メール、ランチ、そして深夜の電話…次第にのめり込み、家庭は静かに崩壊していった。
堅実な銀行員だった両親は激怒し、「あんな青年に惑わされて!」と勘当を宣告。実家にも帰れず、優子は拓馬の狭いアパートに身を寄せた。長年勤めた会社も退職した。すべてを捨てたのだから、この恋がすべてでなければならない。そう思うほどに、拓馬の態度は変わっていった。
「優子さん、まだ綺麗だよ。モデルとか向いてるんじゃない?」
最初は「アダルトサイトの撮影モデル」というバイトだった。優しくされることが嬉しく、断れなかった。「生活費の足しに」という言葉に甘え、一度だけならとヌードモデルを引き受けた。それが、いつの間にか「一度だけ」の熟女系AV出演へと繋がり、気づけば複数の作品に出演していた。カメラの前で知らない男たちに体を触られるたび、自分がどんどん壊れていくのを感じた。拓馬は撮影の謝礼を嬉しそうに数えるばかりだった。
「もう…無理。精神的に参る」
優子が涙ながらに訴えても、拓馬の目は冷たかった。
「じゃあ、もういいよ。お前、歳とってるし、最近暗いし。」
五十三歳の冬、アパートの鍵を換えられ、拓馬に捨てられた。
過去の経歴と年齢で正社員の道は閉ざされ、優子は寮完備の地方の期間工として働き始めた。自動車部品工場のライン作業だ。騒音と油の匂いの中、黙々とネジを締める日々。そこで出会ったのが、三十二歳の康平だった。彼もまた、不安定な雇用を転々とする「漂流労働者」だった。
寮の共同キッチンで、インスタントラーメンを作りながら少しずつ話すようになった。優子は過去を隠して生きることに疲れていた。ある夜、二人で寮の屋上に立ち、冷たい缶コーヒーを手にした時、優子は決心した。
「私…AVに出てたことがある。ネットにずっと残ってる。デジタルタトゥーってやつだよね」
震える声で打ち明けると、康平はしばらく黙って空を見上げた。
「…俺もな。少年院出てから、まっとうな仕事に就けずに来た。過去は消せないよ」
彼は優子の方を向き、少し照れくさそうに笑った。
「それでも、いいよ。今の優子さんが好きだ」
二人は同じ寮の小さな個室で同棲を始めた。契約が切れれば次の町へ。工場、倉庫、建設現場…不安定な雇用を繰り返しながら、安アパートを転々とした。貯金は少なく、未来は不透明だ。時には過去のAVがネット上で発見され、康平が悔しそうに拳を握りしめることもあった。
それでも、二人は支え合った。スーパーの夜間割引品で夕食を作り、古びたカーペットの上で未来の不安を語り、そして分かち合える「今」に小さな幸せを見つけた。優子は、華やかなレールの上を歩んでいた頃には感じられなかった、深くて温かい愛を育んでいると感じていた。
ある雨の夜、康平が風邪をひいた。優子がお粥を作り、額に手を当てて熱を測る。
「大丈夫?明日は休もうか」
「うん…ありがとう」
窓の外で雨音が響く。不安はまだ消えない。明日の仕事も、来月の家賃も、過去の亡霊たちも。
でも、隣にいる人の温もりは確かだ。
優子は康平の手を握りしめた。
「また明日も、頑張ろう」
「ああ。二人なら、なんとかなるさ」
完
52歳の恋(華やかなレールの上からセクシー女優へ...) みさき @MisakiNonagase
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