『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので手遅れです
第1話 「君のスキル、汚いから」と言われてSランクパーティを追放されました
『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので手遅れです
@eringeek
第1話 「君のスキル、汚いから」と言われてSランクパーティを追放されました
「悪いがアレク。単刀直入に言わせてもらう。お前はクビだ」
焚き火の爆ぜる音が、やけに大きく響いた気がした。
目の前で腕を組み、さも汚いものでも見るような目で僕を見下ろしているのは、金髪碧眼の美青年。
この国で知らぬ者はいない、『光の勇者』ライオットだ。
場所は世界最難関と言われる『奈落のダンジョン』、その地下九十階層。
湿った空気とカビの臭いが漂う洞窟の一角で、僕たち勇者パーティ『天剣の翼』は野営をしていた。
魔王城へ至るための最後の試練とされるこのダンジョンも、残すところあと十階層。いよいよ大詰めというこのタイミングでの宣告に、僕は持っていたスープのお玉を取り落としそうになった。
「クビ……ですか? えっと、それはつまり、パーティからの追放ということでしょうか」
「それ以外の意味があると思うのか? これだから知能の低い『掃除屋』は困る」
ライオットが鼻で笑う。
その隣では、聖女のミナが困ったように、けれどどこか冷ややかな笑みを浮かべて眉を下げていた。
大賢者と呼ばれる魔法使いのガイルは、分厚い魔導書に目を落としたまま、興味なさそうにあくびをしている。
戦士のボランに至っては、僕が丹精込めて磨き上げたグレートアックスの刃先で、自分の爪の垢をほじっていた。
誰も、僕を擁護しようとはしない。
それどころか、全員の空気感が『ようやく言ってくれたか』という安堵に満ちているのを感じて、僕の胸はズキリと痛んだ。
「理由を……聞かせてもらってもいいですか?」
震える声で尋ねる。
僕は戦闘職ではない。それは認める。
僕のギフトは『ゴミ掃除』。
冒険者ギルドの鑑定水晶ですら『生活魔法以下のハズレスキル』と判定した、清掃特化の能力だ。
それでも僕は、幼馴染であるライオットが勇者に選ばれた時、「お前の家事能力だけは便利だから」と誘われて、ここまでついてきた。
戦闘では役に立てない分、身の回りの世話や荷物持ち、装備のメンテナンス、食事の用意、そして野営地の清掃と、寝る間も惜しんで働いてきたつもりだ。
「理由? そんなもの、自分の胸に聞いてみろよ」
ライオットが大仰に肩をすくめる。
「いいか、アレク。俺たちは選ばれしSランクパーティだ。これから魔王を倒し、歴史に名を刻む英雄になる存在だ。そんな俺たちの横に、お前のようなレベル1の雑魚がいること自体が、パーティの恥なんだよ」
「で、でも、荷物持ちや雑務は必要ですよね? ここまでだって、僕が皆の鎧や剣を……」
「あー、それそれ。それだよ」
ライオットが心底嫌そうに顔をしかめ、手で鼻を覆う仕草をした。
「お前のスキル、『ゴミ掃除』だっけ? 生理的に無理なんだよな、それ」
「え?」
「ゴミを消すんだろ? つまりお前は、常にゴミに触れているようなもんだ。そんな手で俺の聖剣に触れてほしくないんだよ。ミナも言ってただろ? 『アレクさんが触った後の食器、なんとなくバイ菌がついている気がして食欲が失せます』って」
僕は驚いて聖女ミナの方を見た。
彼女は「あら」と口元に手を当て、悪びれもせずに微笑んだ。
「ごめんなさいね、アレクさん。でも、生理的なものは仕方ないと思いません? あなたは『ゴミ』を扱う専門家。私たちは高貴なる『光』の探求者。住む世界も、格も、そして衛生観念も違うのです」
「そ、そんな……。僕は毎日、皆さんが快適に過ごせるように、このダンジョンの泥も汚物も、全てきれいに処理して……」
「だから、それが嫌だと言っておるのじゃ」
魔導書のページをめくりながら、大賢者ガイルが口を挟む。
「お主のスキル発動時の魔力波長、あれは不愉快極まりない。空間そのものに干渉するような異質なノイズを感じてな。繊細な魔法の構築に邪魔なのじゃよ。それに、お主が淹れる紅茶も、雑味を消しているのか知らんが、味がしなくて不味い」
「俺もだぜぇ、アレク」
戦士ボランがニタニタと笑いながら立ち上がった。
「お前が掃除した後ってよぉ、なんか空気が軽すぎて調子狂うんだわ。戦場の血生臭さとか、そういうのがねぇと気合が入らねぇ。ま、要するにだ。お前は便利だけど、それ以上に『キモい』んだよ」
キモい。
その一言が、決定打だった。
三年間。
雨の日も風の日も、彼らが寝静まった後も一人で見張りをし、汚れた下着を洗い、錆びついた武具を新品同様に磨き上げ、彼らが気づかない『邪魔なもの』を処理し続けてきた。
その全てが、彼らにとっては『キモい』行為だったのだ。
「……わかりました」
僕は深く息を吐き出し、腰につけていたアイテムポーチを外そうとした。
パーティ共有の物資が入っているマジックバッグだ。
「おいおい、待てよ」
ライオットが僕の手を制する。
「そのバッグ、置いていけよな? 中には俺たちの回復薬や予備装備が入ってるんだ。お前のような手癖の悪い貧乏人に持ち逃げされたらたまらない」
「持ち逃げなんてしませんよ! 今、返そうと……」
「口答えするな! さっさと置け!」
怒鳴り声と共に、ボランに突き飛ばされた。
地面に転がった僕を見て、彼らは嘲笑う。
泥だらけになった僕の手。
でも、不思議と怒りは湧いてこなかった。
ただ、憑き物が落ちたように、心が冷えていくのがわかった。
(ああ、そうか。彼らはもう、僕を仲間だなんて思っていなかったんだ)
最初から、便利な道具。
そして道具が古くなって目障りになったから、捨てる。
ただそれだけのこと。
「……装備と、最低限の食料だけは持って行っていいですよね? ここから地上に戻るまでに必要ですから」
「はんっ、慈悲深い俺たちに感謝するんだな。ああいいぞ、手切れ金代わりにくれてやる。どうせそんなボロ装備、俺たちには不要だしな」
ライオットは足元に銀貨を数枚放り投げた。
Sランクパーティの報酬からすれば、子供のお小遣いにも満たない額だ。
それでも僕は、それを無言で拾い上げた。
プライドがないわけじゃない。生きてここを出るためには、少しでも資源が必要だったからだ。
「今まで、お世話になりました」
僕は最後に一度だけ深く頭を下げ、野営地の結界の外へと足を踏み出した。
「せいぜい野垂れ死なないように頑張るんだな、掃除屋!」
「運が良ければ、スライムくらいには勝てるかもしれんぞ! ギャハハハ!」
背後から浴びせられる罵倒と嘲笑。
僕は振り返らなかった。
彼らの声が遠ざかり、闇の中に消えていくまで、僕はひたすら歩き続けた。
◇
野営地から十分に離れた通路の一角。
僕は大きな岩に腰を下ろし、ふう、と息をついた。
「……終わったなぁ」
三年間、彼らのために尽くしてきた日々が、あっけなく終わった。
悲しいかと問われれば、意外なほど心は晴れやかだった。
正直に言えば、疲れていたのだ。
彼らの傲慢さにも、終わりの見えない世話焼きにも。
「さてと……これからどうしようか」
手元には、使い古された鉄の剣と、革の鎧。そしてわずかな銀貨。
普通なら、このダンジョンの深層で一人放り出されれば、数分で死ぬ。
ここはレベル90を超える凶悪な魔物が徘徊するエリアだ。
さっきボランは「スライムくらいには勝てる」と言っていたが、この階層に出るスライムは『アシッド・プレデター』といって、一瞬で骨まで溶かす強敵だ。
グルルルル……。
案の定、闇の奥から唸り声が聞こえた。
複数の赤い目が、暗闇の中で光っている。
ヘルハウンドの上位種、『ケルベロス・ナイトメア』の群れだ。
一匹で小国の騎士団を壊滅させる災害級の魔物。それが五匹。
「はぁ……。あいつら、僕が『掃除』係だってこと、本当に理解してなかったんだな」
僕は立ち上がり、襲いかかろうと身構えるケルベロスたちに向け、右手をかざした。
剣は抜かない。
抜く必要がないからだ。
「対象指定、『敵対する生体ゴミ』及び『進行の邪魔になる空間の汚れ』」
僕の頭の中で、スキルのトリガーが引かれる。
幼い頃に発現した『ゴミ掃除』スキル。
周囲からは「ホコリを消すだけの地味なスキル」だと思われているし、勇者たちにもそう説明してきた。
実際、彼らの前では服の汚れや、食べ残しのゴミを消す程度にしか使っていなかった。
だが、このスキルの本質は『清掃』ではない。
僕が『ゴミ』だと認識した対象を、世界という座標から強制的に『削除』する能力。
物理的な質量も、魔法的なエネルギーも、硬度も、防御結界も関係ない。
パソコンのデスクトップにあるアイコンをご箱に入れて空にするように、存在そのものを『無』に帰す力。
勇者たちが気づいていなかったことがある。
なぜ、野営地の周りに魔物が寄り付かなかったのか。
なぜ、彼らの行く手を阻むはずの凶悪な罠や、致死性の毒霧がいつの間にか消えていたのか。
それは全て、僕が息をするように『掃除』していたからだ。
「――『消去(クリーン)』」
僕が小さく呟いた瞬間。
ギャンッ!?
という短い悲鳴すら上がらなかった。
飛びかかろうとしていた五匹のケルベロス・ナイトメアは、空中で唐突に『消失』した。
血の一滴、毛の一本も残らない。
最初からそこに存在しなかったかのように、空間ごと削り取られて消滅したのだ。
後に残ったのは、彼らがドロップした魔石のみ。
「うん、いい艶だ。Sランクの魔石が五つ。これなら当面の宿代には困らないな」
僕は魔石を拾い上げ、ポケットに放り込んだ。
このスキルにはレベルという概念がない。
対象をゴミと認識できるかどうか。それだけが条件だ。
勇者パーティにいた頃は、彼らの経験値稼ぎの邪魔にならないよう、雑魚や野営地に近づく敵だけをこっそり処理していた。
だが、もう遠慮はいらない。
「それにしても……」
僕は、勇者たちがいるであろう方向を振り返った。
「あそこの野営地、僕が毎日『空間洗浄』で結界のほころびを直して、地面の『汚染』を取り除いてたんだけど……大丈夫かな」
このダンジョンの空気には、微量の猛毒が含まれている。
彼らが平気でいられたのは、僕が常に周囲の空気を濾過していたからだ。
それに、彼らの装備。
ライオットの聖剣も、ボランの斧も、本来ならとっくに刃こぼれして使い物にならなくなっているはずのものだ。
それを僕が『メンテナンス』という名の『劣化状態の削除』を行い、新品同様の状態を維持していた。
「まあ、Sランクパーティの彼らなら、自力でなんとかするだろう。僕のような『汚い掃除屋』がいなくなって、さぞ清々しているはずだし」
僕は肩をすくめると、出口の方角へと歩き出した。
足元にある小石や、行く手を阻む崩落した岩壁も、指先一つ動かさずに『掃除』して道を開く。
歩くたびに、道が綺麗になっていく。
まるで王族のためのカーペットが敷かれたかのように、ダンジョンの悪路が平坦な道へと変わっていく。
「さて、どこに行こうか」
縛られるものはもう何もない。
魔王討伐? 世界の平和?
知ったことか。
僕はただの掃除屋だ。
これからは、自分の好きな場所をきれいにして、好きなように生きていく。
「噂に聞いたことがあるな。大陸の最果て、未開の辺境に、美しい温泉が湧く廃村があるって」
温泉。
いい響きだ。
勇者パーティでの過酷な労働で、僕の体はコリ固まっている。
ゆっくりと湯に浸かり、垢を落とし、静かに暮らす。
それこそが、僕の求めていた生活かもしれない。
「よし、決めた。目指すは辺境のスローライフだ」
僕は足取り軽く、ダンジョンの闇を進んでいく。
その背後で、かつて仲間だった者たちがこれから味わうであろう地獄など、知る由もなく。
◇
一方その頃。
アレクを追放した勇者パーティ『天剣の翼』の野営地では、異変が起き始めていた。
「……おい、なんだか急に臭くないか?」
最初に気づいたのは、鼻の利く戦士ボランだった。
焚き火を囲んで祝杯を上げていた彼らは、ふと漂ってきた異臭に顔をしかめた。
「確かに……。生ゴミのような、あるいはカビのような臭いですわ」
聖女ミナがハンカチで鼻を押さえる。
「ふん、あの薄汚い掃除屋の残り香だろう。あいつがいなくなって空気が綺麗になりすぎて、逆に過敏になっているだけだ」
ライオットはワインを煽りながら笑い飛ばした。
だが、その余裕はすぐに消え失せることになる。
「ん? なんだ、これは……」
大賢者ガイルが、自身の杖の異変に気づいた。
杖の先端にはめ込まれた巨大な魔宝石。その表面に、うっすらと曇りが生じている。
指で拭おうとするが、取れない。
それどころか、見る見るうちに曇りは広がり、細かなヒビさえ入り始めた。
「ば、馬鹿な! これは古代竜の結晶だぞ!? そう簡単に劣化などするはずが……!」
「おいライオット! てめぇの聖剣、なんか錆びてねぇか?」
ボランの指摘に、ライオットは慌てて腰の剣を抜いた。
光り輝いていたはずの聖剣の刀身には、赤黒い錆が斑点のように浮き出ていた。
「なっ……!? 嘘だろ!? さっきまで鏡のように輝いていたんだぞ!?」
「きゃあっ! 私のローブに虫が! ダニが!」
ミナが悲鳴を上げて立ち上がる。
彼女の純白の聖法衣に、無数の小さな虫が這い回っていた。
ダンジョン特有の、衣服を食い荒らす魔蟲だ。
「くそっ、どうなっているんだ! 結界はどうした! ガイル!」
「は、張っておるわ! だが、結界をすり抜けて、空気そのものが澱んでいく! まるで瘴気が地面から湧き出ているかのように……!」
「ア、アレクは!? あいつが何かしたのか!?」
「あやつはもうおらん! ……ま、まさか」
ガイルの顔色が蒼白になる。
「まさか、あやつが……アレクが、これらを全て防いでいたとでも言うのか!? あの『掃除』というふざけたスキルだけで!?」
その時、野営地の外から、グルルル……という低い唸り声が聞こえてきた。
一匹や二匹ではない。
無数の気配が、結界の周りを取り囲んでいる。
アレクという『見えない守護神』を失った野営地から漂う、人間たちの無防備な匂いを嗅ぎつけて、ダンジョンの捕食者たちが集まってきていたのだ。
「くそっ、構えろ! 迎撃するぞ!」
ライオットが聖剣を構える。
だが、その剣は以前のような輝きを放たない。
手入れの行き届いていない剣は重く、切れ味も鈍っている。
彼らはまだ知らない。
自分たちの強さが、アレクという『土台』の上に成り立っていただけの、砂上の楼閣であったことに。
そして、掃除屋を失った彼らの冒険が、ここから泥沼の転落劇へと変わっていくことに。
「……くしゅっ」
遥か遠くの通路で、アレクが可愛らしくくしゃみをした。
「誰か噂してるのかな。ま、どうせ悪口だろうけど」
彼は鼻をこすると、光の射す出口に向かって、希望に満ちた一歩を踏み出した。
続く
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