『登場人物』

松ノ枝

『登場人物』

 『私』はある人を追っている。登場人物としてでもあり、『登場人物』としても。いつか伝えたい言葉があるから。その言葉が例え、お話に無かったとしても。


 人類は現在、お話の中を生活圏としており、このことはあるマシンの誕生に由来する。

 人類はある時、自動書記というストーリー自動生成マシンを作成した。このマシンは論理的可能文字を用い、お話を生成することが出来た。

 何故人類がこんなマシンを作成するに至ったのかにはこのマシンが深く関わっている。というのも人類が自動書記を作成したのは自動書記により生成されたお話の中の出来事であったからだ。自動書記は自然発生したものなのか、人類が作成したものなのかは人類がお話の中に閉じ込められている以上、分からない。

 私が居るお話もそのマシンが作り出したものであり、特段変なお話ではない。私はただの社会人であり、この場面は喫茶店でコーヒーを飲むだけのものだ。しかしこのお話で、変な部分が少し前に現れた。

 「コーヒー、美味しいね」

 と目の前に座る女性は言う。彼女は『私』の先輩で、私とは久々に再会した。つい先ほど窓から突如お話に侵入した先輩に私は驚いている。

 「それなら良かった。それと、お久しぶりです」

 少し口調が固いが、それはこのお話の登場人物である私の設定に由来するものなので仕方が無い。

 「久しぶり、どう?調子は」

 と先輩は聞き、昔と変わらない明るさを見せている。

 「良くも悪くも無いです。いつもと変わりませんよ」

 当たり障りのないような答えに先輩は少し口元を歪ませる。不機嫌というか、文句を言いたげな顔で、『私』はすみませんと内心謝る。こうした答えになったのはお話の設定に囚われてのものであり、単に先輩の前では本音で話せないからだ。設定が無かったとしても照れ隠しでこういう口調ではあっただろうが。

 「そう、元気にしてそうで良かった。このお話は何?」

 「ここはただのラブストーリーですよ」

 とお話の事を話す。このとき、私はこの組み合わせを少し憎らしく思った。先輩と ラブストーリーは『私』にとって苦くも甘いような感覚を思い出し、少し苦手だからだ。

 案の定、先輩が口にした。

 「ラブストーリーね…、そういえば君との出会いもラブストーリーだったわね」

 と論理的可能文字で会話する先輩はどこか私の反応を見て、楽しそうに笑う。対する 私はバツが悪そうにコーヒーを飲んでいる。

 「そうでしたね、あのころは私も『登場人物』に成りたてでしたのでお粗末な出来でした」

 先輩の言う昔のお話は先輩が『登場人物』として設定に縛られていた頃のもので、あの頃は今の様に先輩は複数のお話を旅する人では無かった。何より論理的可能文字列内を生きる人であり、舞台裏を平然と行き来するような人ではなかった。

 「懐かしいね。今とは大違いだ」

 と先輩は少し口角を上げ、どこか残念がるような目でこちらを見る。

 「君はあのお話をどうも気に入らない様子だね。私はあの頃の君、可愛かったけど」

 「その可愛いが嫌なんです」

 気恥ずかしさから私はカップで口元を隠す。しかし不思議と悪い気分ではない。こうして、先輩と話しているのはいつぶりだろうか。こうして話していると昔に戻れるような気がしてくる。

 「そういえば、舞台裏に田中さんが居たけど。あの人、なんで死んでるの?」

 田中さんは私と先輩の先輩にあたる『登場人物』で、今はお話に出ていないので、舞台裏にいる。このお話では生きている設定なのだが、死んでいる状況に先輩は不思議がっている。私もお話が始まっても出てこず、死んでいることには多少の驚きはあった。

 「前のお話で殺人事件の被害者をしていたので、その設定を引きずってるんです」

 舞台裏は人類が自動書記によるお話の裏側として見つけた領域で、お話に登場するものが描写や記述されていない時にいる場である。これは舞台裏が論理的不可能文字列で構成されているからだ。

 「というか舞台裏行ったんですか」

 「行ったよ。あそこはいつも変なものが多いよね」

 舞台裏に自己意識を持ったまま、言った先輩に私は少し引く。

 舞台裏はお話を構成する文字列が誰かに読み取られている範囲以外の全てがある。 論理的不可能文字列は論理的可能文字列もといそれによって構成されたお話の中を存在するものからすれば認知機構の外側にあるもので、現行人類の論理では捉えることが出来ない。

 先輩は人類の中で数少ないお話の旅人であり、『お話』の設定に囚われない人物だ。しかし舞台裏に行こうとして自ら赴けるのは、お話の内側に生きる人類としては中々に恐ろしい所業である。

 「行ったこと無いんで分かりませんよ、それより良いんですか?こうして話していて」

 「大丈夫、大丈夫。自動書記は私を見つけるのに苦労するし、ストーリー取締局もそんなに早くは来ないよ」

 この人が毎回こういう調子の時は悪い方向に進んでいく気がするが、まあそれはそれで悪くない。昔を思い出して懐かしい気持ちになれる。

 「そうですか、なら良いんです。…先輩、今まで何してました?」

 先輩はじっと私の顔を見て、少し笑うと「そうだね」と言って、話し始めた。


 私が舞台裏に行ったのは後輩とのラブストーリーが終わった後だった。それまではお話が終わると、次のお話が始まるだけで、周りに時間や空間、設定や他の『登場人物』が漂っているような領域に居ると気づいたことは無かった。当時は直感的にここが舞台裏かと感じ取れた。

 自身がお話の外側に出たと気づいたのは、自動書記を認知出来たことに由来すると思う。あのマシンは、物理的に存在はせず、お話を形而上から生成していて、人類を閉じ込めている。しかしマシンを認知してから、私はお話に閉じ込められず、設定に囚われなくなっていた。恐らくあのマシンは論理的不可能文字列を認識できず、舞台裏でも生きる私は論理的不可能と可能の両方の文字で構成されるようになったからだろう。

 それから私は後輩に会いに行った。何故だろうかと今でも思うが、兎に角会いたいと思っていた。といっても後輩はお話の中でしか生きれないし、私を認識できないので、あまり自由に会話は出来なかった。

 お話を渡り、ストーリー取締局という多ストーリーの秩序維持機関に追われ、旅を続けているときにふと気づいたことがある。お話は決定論的であると。

 お話は今こうして話している『お話』も含めて、自動書記が記述した文字列に沿って進んでいる。つまりお話はプロローグからエピローグまで全て決まったことしか起こらない。何とも面白みのないことだが、仕方ないことでもある。まあ、お話を見る存在によってはお話の流れというものは違ったりする。起こることとしては決定論だが、お話の進み方は見る側で千差万別であるのは、少し面白い。

 これも外に出て気づいたことで、こうして話している『お話』やお話全般は論理的可能文字列をどの方向から読み取るかで進み方が違う。従来通りにプロローグからエピローグであったり、逆であったり、途中からだったり、読む側によって『登場人物』たちの苦労も変わる。通常通りに進むなら良いが、たまに逆もあるので、『登場人物』は逆に動く。普通なら早めに演じ、舞台裏に行った『登場人物』は最後の方で出てくることになる。私も何度か奇妙な感覚にはなったが、このことだったのかと合点がいった。やけに疲れた気がするのだ。

 さて、旅の中で何をしていたかについては基本的に内容が無い。無いわけでは無いが、言えることとしては自動書記が私を認識しはじめたという事くらいだ。

 自動書記は既に人類全体が認識している自動書記ではない。というのも論理的不可能文字列には手出しできないはずなのだ。しかし私を認識しはじめたという事は事実で、この時、お話の方にも影響があり、舞台裏には手を出せない様であったが、自動書記は論理的不可能文字列を可能文字列として処理し始めていた。不可能文字列を今まで処理できずにいたマシンは不可能を不可能として処理することを選んだのだ。このことで自動書記は以前より論理の階層を昇り始めた。至極厄介だなと思ったのを覚えている。旅を自由に出来ないことを意味していたから。

 そこからは自動書記との戦いで、認知されまいと試行錯誤する私と認知しようとする自動書記のいたちごっこ。自身を記述する論理を上昇させ、不可知の領域へ逃げたりと忙しい日々であった。チューリングジャンプの如くに跳び続け、追いつかれたら更に跳ぶ。そんなことを続けて、私は今、後輩とコーヒーを飲んでいる。


 「今のが旅の話ですか、…自動書記、そんな大変なことになってたんですか」

 お話の文字列に自分語りとも言えるお話を挟み込んだ先輩は大変だったと愚痴をこぼす。十中八九変な旅をしているとは思っていたが、自動書記と戦っていたのは予想外であった。

 「舞台裏は今、大丈夫なんですか?」

 不安から聞いてみると、先輩は少し笑いながら、応えた。

 「大丈夫。安心していいよ。あのマシンが論理を昇る度に、舞台裏はお話の拡張と共に拡がるから」

 先輩曰く、お話は自動書記の生成する論理的可能文字列なので、不可能を可能にする論理に行けば、そこの可能に対しての不可能文字列があって、結局領域は一時的に狭まっても元に戻り、拡張されるらしい。

 私の不安をよそに、先輩はいざとなれば自分が論理的不可能を拡張するから大丈夫と笑って見せる。笑える要素がどこにあるのか、私はさっぱり理解できない。

 「なるほど、良く分かんないですね」

 「ははっ、まあ、ここじゃ描写出来ないしね。『登場人物』のままじゃわかんないよね」

 何だか下に見られている気もするが、その通りなので言い返せない。

 先輩には理解できることだが、『登場人物』である私には解らない。それが私は少し嫌になる。遠く論理の彼方へ消えてしまいそうで、もう会えないような気持ちになって。

 「…先輩」

 「何?」

 「『お話』の外へ行くと、何が出来るんです?」

 以前から気になっていたことで、お話の中で生きているが故に外を夢想することがあった。でもお話の内部から外部は観測出来ないし、夢見たとてどうも解像度が低い。行った事も見たこともないからだ。しかし先輩は行った。聞ける機会がある以上は聞いておくべきだろう。聞けなくなる前に。

 「うーん、そうだね」

 と先輩は飲み終えたコーヒーカップを両手に乗せて、覆い隠すようにする。

 「これは別にトポロジーの適応ではなく、お話の設定、もといコーヒーカップの論理的可能文字列を書き換える行為なんだけどね」

 覆い隠した手をゆっくりと開く。すると手の中にあったカップはドーナツへと変化していた。

 「出来ることと言ったらこんなことかな」

 「…」

 私は開いた口が閉じられずにいた。このお話はSFではないし、ただのラブストーリーでトポロジーなんて単語は普通無いはずなのだ。それなのに先輩はカップをドーナツへと変えた。形だけでなく、コーヒーカップをドーナツそのものへと。

 「…じゃあ田中さんの死亡設定も変えられます?」

 「出来ると思うよ。でも休ませてあげよ。田中さんもう歳だし」

 それには静かにうなずく。わざわざ意識が無いとはいえ、舞台裏で休んでいる人物を叩き起こしたくはない。それに屍者を生者と偽るようで心が痛くなる。『登場人物』に屍者も生者も設定次第なのだが。

 「そうですね、これは何をしてこうなりました?」

 と私はドーナツとなったコーヒーカップを指さす。ドーナツはコーヒーカップの様に白く、ポアンカレのトーラスの如き様相である。

 「君も知っての通り、自動書記によって記述されているお話は論理的可能文字列だ。これは今目の前にある机もこの店も宇宙も文字列ってこと。このドーナツもね。私は『お話』の外側に行ったから、論理的不可能文字列も理解できる」

 「ここで重要なのはお話の構成文字列を書き換えるのは『登場人物』でも『お話』の中にいる限りは論理的不可能ってこと。舞台裏も理解できないしね。そして、このお話を構成している論理は論理の階梯のどこに位置するのかが大事なのさ。さっきのドーナツはこのお話の論理が私を構成する論理より階梯的に下だったから、私は論理的不可能を可能に出来たの」

 「何となく分かったかもしれません。…凄いことだというのは伝わりました」

 先輩は私の言った凄いという言葉に笑顔を見せる。褒められて嬉しいということだろう。笑顔が見られることは良いのだが、私には一つ懸念がある。

 「このカップ、ちゃんと元に戻してくださいね。弁償は嫌です」

 「あっ、…分かってるよ。戻すよ」

 ドーナツを右手に持ち、口に入れようとしたまま、先輩は一瞬止まる。先輩は渋々ドーナツをカップに戻したが、多分元に戻す気なかったんだろうなと私は感じていた。ここで言わなければ弁償は私にあったかもしれない。

 「旅は楽しいですか?」

 「楽しいよ」

 先輩の問いは何となく予想がついていて、この予想があっていたのは嬉しい。先輩が変わらず私の知る先輩であることだから。しかし悲しくもある。

 「…昔よりですか?」

 「……それは君と出会ったお話のこと?」

 「こっちの質問が先ですよ」

 すまないねと先輩は言い、少し考えてからこちらを向いて応えた。

 「そうだね。昔は楽しかったよ。断言できる。私にとってあの頃は目に見えるものが全て輝いて見えていたから、まあ、主人公だったからとも言えなくもないけど」

 「あの頃は君も初めて『登場人物』になった頃だからね。あのラブストーリーでの君は『君』そのものに近くて、とても…」 

 と言いかけ、先輩ははっとした顔を見せる。私の顔を見てはどこか恥ずかしそうにしている。

 「…いや、さっき舞台裏を知った後に君に会いに行ったって言ったじゃない。何で会いに行ったか、今、ふと気づいちゃってさ」

 「何だったんです?」

 「まあ、ただ単純に私の秘めた想いに気づいただけさ」

 なるほどと相槌を打ってみるが、さっぱり分からない。

 「ではこっちの回答ですが、はい、出会ったお話のことです。…まあ、先輩と私の昔が一致してたようなので良かったです」

 先輩が恥ずかしがったからなのか、自分も何か恥ずかしい発言をしていないか心配になる。

 「先輩は旅を終えたらどうしますか?」

 「うーん、旅を終えたらまた別の旅でもするかな」

 先輩らしいなと感じる。いつも何かを求めていて、それに向かって走って、私はいつもそれを後ろから追いかけている。この人は待ってと言っても構わず走っていくだろう。

 「先輩の言う楽しい未来って何です?」

 「そうだね、君はこのお話に未来はあると思う?」

 お話の未来、多分先輩と私とでは本質的に見えているものが違うのだろう。それは未来でさえも。でも私としては、こう思う。

 「あると思います」

 「そう。君はそう言うと思ってたよ」

 と先輩は席を立ち、私の肩に腕を回す。そのまま先輩は窓の方へ行き、つられて私も席を立つ。窓からは日光が差し、私の顔を照らしている。

 「じゃあ目を瞑って」

 言われた通りに私は、目を瞑る。すると先輩は私の閉じた瞼に触れて言う。

 「じゃあ開けて」

 またも言われたとおりにすると形而上に何かが見えた。

 「あれが自動書記さ。まあ、君の論理でぎりぎり視える範囲までだから、輪郭だけだけどね。どう?私の視界は。面白いでしょ」

 重ねられた先輩の視界で、形而上の輪郭は絶えず動き、それは機械仕掛けの生成を行っていた。お話を編み上げ、論理の階梯を昇っている。遥かな果ての論理の自動書記、その影の影の影、あるいは影ですらない殻を視ることが私の論理の限界だった。

 ほんの一部だったが、先輩の視ているものを視れて、私は少し嬉しかった。しかし先輩の視界はもはや私と違う論理で稼働しているのだと実感したのは少し辛い。

 「あれが生み出すお話には未来が無いと私は思うよ。登場人物は言わずもがな、『登場人物』も『お話』の中では未来が無い。人類が『お話』の中に閉じ込められてから、楽しい未来なんて消えてしまった。遠い現実にね」

 かつて人類が居た現実はお話と論理の階梯によって遠く、手の届かない場所になってしまった。しかし現実には『お話』に無い、決定論に縛られない未来がある。

 「私は『お話』もお話も好きさ。でもそこには設定があって、設定に囚われた『登場人物』は本当の自分を見せてくれない。初めて会った君は本当の君に近くてね、おっと、これは恥ずかしいから無し」

 「でも設定には無い、『登場人物』じゃない君を見てみたいと思っているのは事実さ。『君』のイデアとでも言おうかな。そういうものを見たいね。個人的には設定に囚われているのは自由じゃないから苦手でね。嫌いじゃないけど。今は何より現実を見たい。そこに楽しい未来があるはずだからさ」

 先輩は悲しげとも嬉しさともとれる表情で語っている。私はその思いに追いつけるだろうか。追いつきたいと思いはする。

 「さて、このお話に長居しすぎたかな。久々に会えて楽しかったよ」

 「先輩、次はどこへ」

 先輩はストーリー取締局の接近を感知したのか、席を立ち、代金を置いて、窓へと向かう。窓、もといストーリーインターフェイスはお話を繋げ、次のお話へと開け放たれている。

 先輩は窓の縁へ手を掛け、こちらを向いて言う。

 「さあね、私を後輩と呼ぶ先輩のお話かもしれないし、私が月光になったお話、数学に転生したお話かもしれない。わかんないね、まあ、旅は分からない方が面白いから」

 先輩はいつもの笑顔を私に向ける。その笑顔に私はどれだけ焦がれている事か、多分先輩は知らないだろう。

 「それと、一応言っておこうかな」

 と先輩がどこか恥ずかしげに言う。

 「」

 先輩の口は確かに動いた。動いた様に見えた。ただお話として書かれなくて、書けない文字だった。「」だけが記述されて、中身は空で、私はその言葉を理解できなかった、論理的に。ただ先輩の赤みがかった顔から何となく愛情表現に近いものだと感じた。多分、私が先輩に思っていることと同じだった。そんな双方向の想いに私は少し嬉しくなる。

 「…先輩」

 少し恥ずかしがりながら次へ行こうとする先輩を私は呼び止める。ここで言わなきゃ言える機会は来ない気がしたから。

 「…どうした?」

 と先輩は振り返る。先輩が勇気を見せたのだから、私も見せなければと思うが、いざ言うとなると中々に勇気がいるなと私は感じている。

 「追いつきますよ、いつか。だからその時は僕から言わせてください。さっきの言葉」

 この論理において可能でなく、不可能な文字であったからこそ、あの言葉には意味がある。私はそう思う。今も昔を思い出して一人称が僕になるほどだ。それだけ私の想いは強いのだ。だから先輩の言葉を理解出来なくても、僕だけ言わないは出来ない。したくない。例え、お話にならなかったとしても。

 この想いが先輩との初めてのラブストーリーの設定の引きずりなのか、私の想いなのかは分からない。私は『私』のイデアからのものだと思う。それに設定だけで済ますのはあまりに切ない。

 「そう、じゃあ追いつきなさい。返事、待ってるから」

 そういい、先輩は窓から飛び出した。次へ行く寸前の先輩は耳まで赤く色づいていたように見えた。

 遠くからストーリー取締局の声が聞こえる。先輩のお話への侵入を感知したようだが、一足遅い。

 先輩が去り、私は店を後にする。このお話ではこのまま会社へ行く設定だが、先輩に約束したからか、少し反抗したくなってきた。

私は論理を昇ったことなど無い。だが先輩の視界を通して上の論理、その輪郭は捉えた。だから道が無いわけじゃない。追いつけないわけじゃない。

 いつの日か、私は先輩からの言葉を返す時が来るだろう。論理の階梯から外れ、 自動書記のお話の外側の現実で。だから私はあの人の背中を追いかけている。登場人物としてでも、『登場人物』としても。いつか本当の私でも、『私』でもない僕として会うために。

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『登場人物』 松ノ枝 @yugatyusiark

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