勇者の遺体はバラ売り中。~余命半年の解体技師、廃棄された「最強勇者の心臓」を移植してこの国の腐肉を解体する~

いぬがみとうま

勇者の遺体、バラ売り中


  一


 地下解体室の空気は、常に凍りつくような冷気と、鼻を突く防腐剤の臭いに満ちている。

 ここには太陽の光など届かない。ただ、魔石灯の青白い光が、石造りの床を無機質に照らしているだけだ。


「……【切断(インシジョン)】」


 俺――アインが指先を這わせると、指先から極薄の魔力の刃が伸びた。

 それは鋼のメスよりも鋭く、どんな名刀よりも滑らかに、かつて『人類の希望』と讃えられた男の右腕を切り裂いていく。

 皮膚を割り、皮下脂肪を避け、血管と神経を一本ずつ、顕微鏡レベルの精度で分離させる。


 以前は電動のこぎりのような魔道具を使っていた時期もあった。だが、あんな粗野な道具では、神経の束を傷つけてしまう。

 投資家(スポンサー)たちは、機能美すら損なわない『完璧な商品』を求めているのだ。


 パチン、と乾いた音がして、右腕が胴体から離れた。


「右腕、切断完了。速やかに保存液へ。毛細血管の末端まで魔力を循環させろ」


 俺の声は、解体室の壁に反響して虚しく響いた。

 作業が終わった途端、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れ、胸の奥を鋭い杭で刺されたような激痛が走る。


「が、はっ……ごほっ、ごほっ……!」


 口元を押さえた指の間から、どろりとした黒い塊が溢れた。

 床に飛び散ったのは、魔力の滓(かす)が混じった、俺自身の成れの果てだ。

 

 先天性『魔力心不全』。

 魔力を生み出し、循環させるためのポンプである心臓が、生まれつき欠陥を抱えている。魔法を使えば使うほど、俺の心臓は魔力の逆流に耐えきれず、自らを削り取っていく。

 

 医師には宣告されている。半年だ、と。

 

 この痛みを知るたび、俺は自分の人生の虚しさに笑いそうになる。

 俺は『治癒士』として生まれた。人々を癒やし、傷を塞ぐための力を授かった。

 その結果がこれだ。

 自分を治すこともできず、高額な抑制剤を買い求めるために、死体の部位をいかに美しく切り刻むかに心血を注いでいる。


「おい、アイン。また吐血か? あまり床を汚すなよ。掃除の手間が増える」


 同僚の解体技師が、死体を運ぶための台車に腰掛けて笑った。

 彼にとって、俺がいつ死ぬかよりも、その日の掃除当番が誰かの方が重要なのだ。


「……わかっている。すぐに片付ける」


「それより聞いたか? 今回の右腕、既に5億ゴールドの予約が入ってるらしいぜ。買ったのは王都でも指折りの公爵家だ。なんでも、留学から帰ってきた三男坊に移植して、手っ取り早く『勇者』に仕立て上げるんだとさ」


 男は汚れたタオルで手を拭きながら、愉しげに話を続けた。


「笑っちゃうよな。昔は勇者っつったら、死ぬ気で修行して、血反吐を吐いて勝ち取る称号だった。今や金さえ積めば、オークション会場でパーツとして売ってる。腕を一本付け替えれば、その日のうちに伝説のスキルが手に入るんだからな」


「……それがこの国の望んだ形だろ。勇者は希望ではなく、確実な利益を生む『投資商品』。魔王を倒す可能性をバラ売りして、少しずつ配当を受け取るビジネスモデルだ」


 この国、聖教国レヴァールでは、勇者はもはや概念ではない。

 勇者の肉体には、その者が生前に培った経験値、スキル、そして魔力の回路が刻まれている。

 それらは『聖遺物――アーティファクト』として分類され、他者に移植することで、その能力をそのまま引き継ぐことができるのだ。

 

 投資家たちは、資質のある若者に金を出し、勇者のパーツを移植させる。

 その若者が実戦でレベルを上げ、肉体が成熟し勇者として完成する。魔王軍との戦いに敗れ死んでしまうと――遺体は投資家の所有物となり、バラ売りされる。

 勇者の腕一本でも買えば、数年後に四本の勇者の四肢となるわけだ。

 

 1本の腕が5億から20億へ。

 英雄の死は、国家にとって最大の経済成長の機会なのだ。



「次は目玉商品だぞ。お出ましだ、歴代最強の勇者レオン様だ」


 重厚な扉が開かれ、漆黒の棺が運び込まれてきた。

 その中に横たわっていたのは、昨日までこの国のすべての子供たちが憧れていたはずの男、レオンだった。


 魔王城へ向かったはずの彼が、なぜ無残な骸となって帰ってきたのか。公式発表では『魔王の強力な一撃に敗れた』とされている。

 

 だが、俺の眼は騙せない。

 

 レオンの遺体を一瞥しただけで、違和感が走った。

 致命傷となっている背中の傷口。そこには魔王の禍々しい魔力の痕はなかった。


(……味方に刺されたのか)


 その事実に気づいても、俺は口を閉ざした。

 ここで正義感を振りかざすほど、俺の余命には余裕がない。


 俺は慣れた手つきでレオンの胸元をはだけ、解体作業に入ろうとした。

 四肢を切り分け、商品価値のない内臓を摘出し、廃棄用のゴミ箱へ放り込む。それがいつもの仕事だ。

 勇者の心臓は、魔力の源泉ではあるが、移植の難易度が極めて高く、拒絶反応で内蔵は機能を停止しているため、通常は『廃棄』される。


 俺がその『ゴミ』に触れようとした、その時。


 ドクン。


 止まっているはずのレオンの心臓が、俺の指先を跳ね返した。


(――!?)


 周囲を見渡すが、同僚は次の死体の搬入準備で席を外している。

 

 ドクン、ドクン。

 

 鼓動は次第に激しくなり、俺の壊れかけた心臓の音と同調し始めた。

 

『……生きたいか?』


 声が聞こえた……きがした。


 俺は震える手で、胸元を押さえた。


 勇者の心臓が、黄金色の光を放ち始める。 

 俺は、血混じりの唾液を吐き捨て、笑った。

 

「……レオン。貴方の心臓。この俺が貰います」




  二




 深夜。解体室の鍵を閉め、俺は一人、手術台の上に横たわった。


 手元には、黄金色に脈打つレオンの心臓。

 そして、自分の体。

 

 麻酔などない。意識を失えば、魔法の制御が解けてその瞬間に死ぬからだ。

 俺は、指先に極限まで圧縮した魔力の刃を形成した。


「……【切断(インシジョン)】」


 震える指を胸に当て、一気に引き下ろす。

 

「が、ああああああああああああああああッ!!」


 絶叫が、防音処置の施された室内で跳ね返る。

 肋骨を割り、自身の胸腔を強引にこじ開ける。そこには、赤黒く変色し、石灰化したように硬くなった俺の心臓が、今にも止まりそうに震えていた。

 

 意識が遠のく。

 出血がひどい。だが、ここで止まれば終わりだ。

 俺は自身の汚れた心臓を、文字通り引きずり出した。

 魔力の供給が絶たれ、全身の細胞が死への恐怖で悲鳴を上げる。

 

 その隙間に、燃える太陽を押し込むように、勇者の心臓を叩き込んだ。


「【縫合(スーチャー)】……【縫合】ッ!!」


 ここからが本番だ。

 勇者の強大な魔力回路と、俺の貧弱な血管を繋ぎ合わせる。

 一本でも繋ぎ間違えれば、魔力の奔流で俺の体は内側から爆発する。

 

 俺は極限の集中力で、数千、数万という毛細血管と神経を、一本ずつ、神業的な速度で結びつけていった。

 

 繋がる。

 繋がる。

 繋がる。

 

 最後の主要動脈を繋ぎ終えた瞬間、俺の世界は白一色に染まった。


「あああああ、あああああああああああああああッ!!」


 心臓が、爆発的な拍動を開始した。

 

 それは、今までの俺の鼓動とはまったく違う。

 地響きのような重低音。

 全身の血管を、超高温のマグマが駆け抜けるような熱さ。

 

 俺の肉体が、レオンの膨大な黄金の魔力を飲み込み、同化していく。

 壊れ、焼き付いていた俺の肉体が、勇者の生命力によって強引に修復されていくのがわかった。

 

 皮膚が新しく張り替えられ、筋肉が鉄のように硬く引き締まる。

 視界は数キロ先を飛ぶ虫の羽ばたきまで捉え、聴覚は壁の向こう側で走る鼠の足音まで拾い上げる。

 

 そして、情報の濁流が脳に流れ込んできた。

 

 レオンの記憶。

 

 貧しい村で剣を振り、勇者に選ばれた日。

 魔王を倒せば世界が平和になると信じて疑わなかった、純粋な日々。

 

 ――そして、あの最悪の日。

 

 魔王城の玉座の間。あと一太刀で魔王を討てるという瞬間。

 背後から、信頼していた戦友たちが、投資家たちの命令で彼を刺した。

 

『すまないな、レオン。お前が魔王を倒すと、魔王軍との戦争特需が終わってしまうんだ。武器商人や魔法具メーカー、そして我ら貴族……皆、戦争が続いてほしいのさ。お前はここで、最高の「商品」として死んでくれ』

 

 仲間たちの声が、脳内でリフレインする。

 

 レオンは怒っていた。

 絶望していた。


 だが、今の俺にはわかる。

 彼が最も許せなかったのは、自分が守ろうとした世界が、これほどまでに醜く、腐りきっていたことだ。


「……あぁ、そうか。なるほど」


 俺は、血の海の中で立ち上がった。

 

 不思議と、心は穏やかだった。

 胸の奥で脈打つ黄金の鼓動が、俺の冷え切った魂を熱く焦がしている。

 

 治癒士――アインは死んだ。

 勇者――レオンも死んだ。

 

 なら、今ここに立っているのは――

 

「……最高の、復讐劇を始めようか」




  三




 翌日。王都で最も絢爛豪華な施設、国立迎賓館。

 

 そこは、香水の香りと宝石の輝き、そして下卑た欲望が渦巻く伏魔殿と化していた。

 

「皆様、お待たせいたしました! 本日のメインディッシュ、歴代最強の勇者レオンの『聖遺物』オークションを開始いたします!」


 司会者の扇情的な声が、ホールに響き渡る。

 集まったのは、この国の富の8割を牛耳る貴族や豪商たちだ。彼らはワインを片手に、ステージ上に恭しく並べられた『肉塊』を眺めている。

 

 ガラスケースの中、俺が昨日まで扱っていたレオンのパーツが、美しく展示されていた。

 

「まずは右腕です! 伝説のスキル『天光斬』の記憶が刻まれたこの一品! 開始価格、3億ゴールドから!」


「4億だ!」

「6億!」

「8億出そう。我が家の近衛騎士に移植し、次期勇者として売り出す!」


 飛び交う数字。それは、誰かが人生を賭けて磨き上げた力の値段だ。

 俺は、会場の裏手にある待機室から、魔水晶が映し出す映像越しにその光景を眺めていた。

 

 最前列の特等席には、見覚えのある顔がある。

 マルセル公爵。

 このオークションの主催者であり、勇者レオンを暗殺した首謀者。

 

 彼は満足そうに頷き、隣の商人に囁いている。

 

「……素晴らしい。レオンの死後、我がファンドの株価は20%上昇した。死してなお、彼は我々に富をもたらしてくれる。勇者とは、実によくできたビジネスだよ」


 男は笑いながら、最高級のワインを口に含んだ。

 

「魔王は適度に強く、適度に脅威でなければならない。倒してしまえば、勇者という商品の需要が消える。だから、我々は勇者を育てるが、決して勝利はさせない。……永遠に続く戦争、永遠に続く投資。これこそが、完成された平和の形だ」


 彼の論理に、周囲の貴族たちが同調し、乾杯の音頭を上げる。

 

 俺は、自分の胸に手を当てた。

 レオンの心臓が、激しく、熱く打ち鳴らされている。

 怒りではない。

 これから始まる『復讐』への、抑えきれない悦びだ。

 

「……聞こえるか、レオン。奴らは、お前の命に値段をつけて喜んでいるぞ」

 

 脳内で、低く笑う声がした気がした。


 俺は、静かに部屋を出た。

 

 会場の警備兵たちが俺を不審者として止めようとするが、俺の姿を見た瞬間、彼らの言葉は凍りついた。

 

 俺の体から溢れ出す、黄金の圧。

 それは、この国の誰もが知っている、あの最強の勇者の魔力そのものだった。




  四




 オークションは佳境を迎えていた。

 レオンの四肢すべてが落札され、総額は60億ゴールドを超えようとしている。

 

「……それでは、最後に。商品価値はないと判断されましたが、勇者の胴体も記念品として――」


 司会者の言葉を遮り、ホールの扉が重低音を立てて弾け飛んだ。

 

 爆煙の中から現れた俺の姿に、会場の貴族たちが一斉に視線を向ける。

 

「な、なんだ貴様は! ここは選ばれた者のみが入れる神聖な場所だぞ!」

 

 マルセル公爵が不快そうに立ち上がった。

 

「神聖? ……死体を切り刻んで金に変える場所が、いつから神殿になったんだ?」


 俺の言葉に、会場が騒然となる。

 

「警備兵! この無礼者を直ちに捕らえろ! 殺しても構わん!」


 公爵の号令と共に、数十人の重装騎士たちが俺に殺到した。

 いずれも勇者のパーツを移植された、強化冒険者たちだ。

 

 だが、俺は一歩も動かない。

 

「……戻れ。お前たちの、本当の主のもとへ」


 俺が指を鳴らした瞬間。

 

 パリンッ、パリンッ、と。

 展示ケースの強化ガラスが、内側から粉々に砕け散った。

 

「な……に……!?」


 誰もが、己の目を疑った。

 

 展示されていたレオンの右腕、左腕、そして両足。

 それらが、見えない糸で操られるマリオネットのように宙に浮き、俺の周囲を旋回し始めたのだ。

 

「馬鹿な……死体が動いているのか!?」


「体は、持ち主の命令に従うものだ」

 

 俺の胸の中で脈打つ心臓。そこから放たれる黄金の魔力糸が、バラバラにされた四肢へと伸び、再び命を吹き込んでいる。

 

「金で買った力、使い心地はどうだ? ……あぁ、そうか。お前らには教わらなかったか。勇者の肉体には、『意志』が残るということを」


 俺は、宙に浮く『右腕』に意識を向けた。

 右腕は、展示品として並べられていたレオンの愛剣を、磁石に吸い寄せられるように掴み取った。

 

「【天光斬】」


 俺が呟くと同時に、右腕が単独で一閃を放った。

 

 黄金の閃光がホールを駆け抜け、俺に襲いかかろうとしていた重装騎士たちの盾を、鎧を肉体ごと両断した。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」


 先ほどまで優雅にワインを飲んでいた貴族たちが、腰を抜かして這いつくばる。

 

「撃て! 魔導師隊、全開で撃てッ!」


 二階席に控えていた魔導師たちが、一斉に火球や雷撃を放つ。

 

「……遅い」


 今度は『両足』だ。

 宙を舞う両足は、空気を足場にするように空中を蹴り、弾丸のような速度で二階席へと飛び込んだ。

 

 ドゴォォォォンッ!

 

 凄まじい衝撃音。

 勇者の脚力による蹴りは、魔導師たちの障壁ごと壁を粉砕し、彼らを会場の外へと蹴り飛ばした。

 

 残されたのは、血の海の真ん中で震えるマルセル公爵と、数人の投資家たちだけだ。

 

「ま、待て……! 話をしよう! 君、名前は何という? その服装……そうか技師か? 君のような優秀な技師なら、我が家の筆頭顧問として迎えよう! 年俸は……そう、1億ゴールドだ! どうだ、悪い話ではないだろう!?」


 マルセル公爵は、必死に卑屈な笑みを浮かべ、俺に手を差し出してきた。

 その手のひらは、数え切れないほどの勇者の死によって肥え太った、醜い豚足のようだ。

 

 俺は、自分の首元まで浮遊してきた『右腕』を、自身の肩にそっと添えた。

 

「……金か。お前らには、それしかないんだな」


 俺の体は、自らの【切断《インシジョン》】【縫合スーチャー】の魔法によって少しずつレオンの四肢を自分自身へと繋ぎ合わせていく。

 皮膚と皮膚が溶け合い、神経が、筋肉が、完全に一つになっていく。

 

「俺が欲しいのは、金じゃない。……お前たちが切り刻んで値踏みした『命』が、どれほど重く、どれほど痛いものか。……それを、お前ら自身の体で証明してもらうことだ」


「何……を……」


 俺は公爵の目の前に立ち、そっと彼の手を取った。

 

「【切断(インシジョン)】」

 

 俺の指先から伸びた魔力の刃が、公爵の右腕を、撫でるような速さで切り離した。

 

「ぎゃあああああああああああああああああッ!!」


 噴き出す鮮血。

 だが、俺は間髪入れずに次の魔法を唱える。

 

「【縫合(スーチャー)】」

 

 切り離された断面を、一瞬で魔法的に閉塞させる。

 死なせない。痛みだけを永遠に引き延ばすために。

 

「いいか、公爵。これからお前のパーツを、この会場に残った投資家たちに競り合わせる。……お前の右腕は、いくらになるかな? お前の足は、お前の目は、お前の舌は、いくらで売れる?」


 俺の背後で、完全に俺の一部となったレオンの四肢が、黄金のオーラを纏って咆哮しているように見えた。

 

「命に値段をつけたのは、お前らだ。……なら、自分の命が金に変わる喜びを、死ぬまで味わっていろ」




  五




 一週間後。

 聖教国レヴァールの王都は、未曾有の混乱に陥っていた。

 

 勇者オークションの主催者であったマルセル公爵家は、一夜にして滅亡。

 公爵は、全身を細かく切り刻まれ、自身の部位ごとに『値札』を貼られた状態で、広場の噴水に晒されていた。……もちろん、最高級の治癒魔法によって、死ぬことすら許されずに。

 

 そして。

 

 勇者の遺体を管理していた『聖遺物処理班』の地下施設から、すべての『商品』が持ち去られた。

 

 王都の外れ。かつてレオンが修行していたという、古びた教会の跡地。

 

 俺はそこにいた。

 

 俺の体は、今や完全にレオンの肉体と融合している。

 鏡に映る俺の姿は、アインでもなく、レオンでもない。

 継ぎ接ぎの傷跡を黄金の魔力が埋める、異形の英雄だ。

 

「……眠れ、みんな」

 

 俺の前には、数え切れないほどの小さな墓標が並んでいる。

 回収した、歴代の勇者たちの四肢。


 投資家たちの玩具にされていた彼らの『命』を、俺はようやく土に返してやることができた。

 

『……感謝するぜ、アイン。これでようやく、俺たちの戦いが終わった気がするよ』

 

 胸の奥で、レオンの意識が静かに囁いた気がした。

 

「いや……まだ、始まったばかりだ」

 

 俺は、遠く王城を見上げた。

 あそこにはまだ、勇者ビジネスの恩恵に与る王族や、次の『商品』を育成しようとする組織が残っている。

 

 世界は依然として腐っている。

 魔王という脅威を飼い慣らし、勇者という希望を食いつぶす、このシステムそのものが。

 

「……魔王は倒さない」

 

 俺は、自らの右腕に力を込めた。

 拳を握るたびに、黄金の雷鳴が轟く。

 

「救世主なき今、俺がこの国にとっての『新しい魔王』になってやる。……投資家も、貴族も、王も、全員まとめて地獄の底まで叩き落としてやるよ」

 

 俺は治癒士だ。

 腐った患部は、切除切り捨てるしかない。

 どれほど痛み、どれほど出血しようとも、根こそぎ抉り取ることこそが、俺にできる唯一の『治療』だ。

 

 俺は、闇夜へと足を踏み出した。

 



 勇者の遺体、バラ売り中。

 ただし、その支払いは――お前たちの魂で、済ませてもらう。


(完)




――

あとがき

ダークファンタジーを書いてみました。

いかがだったでしょう?


オイラ的には、書いててとてもワクワクしておりまして、長編を書きたいな。なんて、思っております。


もし、皆さんからも好評であれば書いてみたいです。


――


カクヨムコンテスト11(短編)にエントリーしております。

応援お願いします。(短編書きマンなので、作者フォロワーおねがいします)


率直なご評価をいただければ幸いです。

★★★ 面白かった

★★  まぁまぁだった

★   つまらなかった

☆   読む価値なし


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