闇の絆 彼女の母

みさき

タカシと彼女と母の関係

地方から上京した男子大学生のタカシ(22歳)は、コンビニの深夜アルバイトで出会ったミキ(49歳)に次第に心を奪われていった。彼女の優しさ、人生経験から滲み出る深み、そしてどこか寂しげな眼差しが、タカシの心を強く揺さぶった。交際が始まり、やがて肉体関係に発展した。タカシは、ミキが既婚者であり、大学生の娘がいることを知っていたが、その娘が誰なのかは知らなかった。


一方、タカシの大学にはシオリ(22歳)という明るく人気のある女子学生がいた。シオリは両親(父53歳、母ミキ49歳)と20歳の弟の四人家族を何よりも大切に思っており、大学で知り合ったタカシと交際を始めていた。彼女は、真面目で優しいタカシのことを心から愛し、いつか家族に紹介したいと願っていた。タカシはシオリのことを大切に思っていたが、彼女の母親の名前が「ミキ」であることには、ありふれた名前だと考え、特に気にも留めなかった。二人はそれぞれ、別々の顔を持つ相手と、深く、そして秘密裏に愛し合っていた。


運命の歯車が回り始めたのは、雨の降る金曜日の夜だった。シオリとデートを終えたタカシが、彼女を自宅マンションまで送り届けたときのことである。傘を差しながら玄関先まで歩み寄ると、ちょうどドアが開き、買い物袋を抱えたミキが現れた。


時間が一瞬で凍り付いた。

タカシの手に持った傘が、微かに震えた。

ミキの顔から血の気が一気に引き、抱えていた袋が緩みかけた。


「…こんばんは」

タカシがなんとか声を絞り出した。声は渇いていた。


「あ、こんばんは…シオリのお友達ですか?」

ミキの声は普段より少し高く、ぎこちない笑顔を浮かべた。彼女の目は一瞬タカシを見つめ、すぐに娘のシオリへと移り、「よくそんな雨の中、送ってくれたね」と、母親としての自然な口調を取り戻そうと必死だった。


「うん、タカシくんが送ってくれて助かったよ。ママ、これが私の彼氏のタカシくん。タカシくん、これが私のママ」

シオリは何も気づかず、嬉しそうに二人を紹介した。


「は、初めまして…」

「…初めまして。シオリがお世話になっております」

形式的な挨拶が交わされた。タカシの脳裏には、ほんの数日前、別の場所で交わしたミキとの甘い言葉や熱い抱擁が走馬灯のように駆け巡った。目の前の優しそうな母親と、自分を知り尽くした恋人とが、同じ人物であるという現実が、胃の底に重く沈んだ。


ドアが閉まり、シオリの姿が見えなくなると、二人は一瞬だけ視線を交わした。そこには恐怖、混乱、そして禁断の情熱が渦巻いていた。ミキは無言で小さく首を振り、タカシは唇を堅く結んだ。


その夜、ミキからメールが届いた。

「これ以上は無理。会うのはやめましょう。シオリを傷つけることになります」


タカシは即座に返信した。

「やめられない。会わないでくれと言われても、もう遅い」


次の週末、ミキは公園の暗がりでタカシと落ち合った。彼女の目は泣いていた。

「あの子がどれだけあなたのことを好きか、あなたは知らないの。そして私がどれだけあの子を愛しているか…」

「僕もシオリのことは好きだ。でも…君への気持ちはそれとは別だ。もう誰にも邪魔されない、僕たちだけの場所に逃げよう」


ミキは最初、抵抗した。母親としての理性が叫んでいた。しかし、タカシとの関係が、彼女の長い結婚生活で忘れかけていた「自分自身」を呼び覚ましていたことも事実だった。夫との会話はなくなり、子育ても一段落し、ただ家庭を維持するための空虚な日々。タカシは、そんな彼女に激しい命の風を吹き込んだ。


「誰にも…絶対に気づかれないように」

ミキが囁くように言った。声には決意と絶望が混ざっていた。


「誓うよ。これは僕たちだけの秘密だ」

タカシは彼女の手を強く握り返した。


こうして、二人の関係はより深い闇へと沈んでいった。シオリの前では完璧な恋人と母親を演じ、密会の時だけが真実の自分を解き放つ時間となった。タカシはシオリとデートするたびに、その背後にミキの影を感じ、罪悪感と背徳の興奮に苛まれた。ミキは娘の恋愛話を聞くたび、胸が締め付けられるような苦しみを覚えながら、それでもタカシとの次の約束を心待ちにした。


彼らは、張り詰めた糸の上を歩むように、危険で壊れやすい日常を生きていた。一つの嘘が次の嘘を生み、秘密は雪だるま式に膨らんでいく。シオリの無邪気な笑顔が、彼らの闇をより深く、より暗くしていくのを感じながら――それでも、彼らは引き返せないところまで来ていた。

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