無双の盲目徘徊老人 悪を斬る!

館野 伊斗

第1話 盲目の男

「やめろ! この!」

 少年の叫び声が、白昼の裏路地に虚しく響き渡る。

 

 少年は正に今、派手なシャツ男二人に、誘拐されようとしていた。

 暴れ回るが、少年の足は既に宙に浮いている。


「おい、早く車に入れろ! 人が来るぞ!」


 その時───。

 男達の鼓膜が、異質な音を捉えた。



 カッ・・・・・・カカッ・・・・・・カッ・・・・・・



 少年も含めた男達の動きが、止まる。

 耳慣れない音が、近づいてくる。

 

 音の方に視線を向けると、杖を握った初老の男が、近づいて来ていた。

 使い込んだ藍色作務衣に雪駄。頭髪は白髪交じりで短く、濃い丸サングラスをかけている。


 音を立てているのは年季の入ったその木製の杖───。

 真っ直ぐな杖を握り、歩く先の地面を確認しながらゆっくり進む姿から、盲人だと思われた。


 だが───。

 その男が醸し出すその雰囲気が、ただ者では無いと男達に感じさせていた。

 

 初老の男は近づき───。

 そしてゆっくりと・・・・・・、通り過ぎた。


「え? 行っちゃうの? 助ける雰囲気だったじゃん!」

莫迦バカ! 声を出すな! こいつも始末しなきゃならねぇじゃねえか!」


 少年を抱き上げる男が言う。

 同時にもう一人が胸から銃を取りだした。


 誘拐犯は脅しのつもりでその銃を取りだした。

(こいつは見えてない。こんな爺ぃ、脅せば何も喋らねぇだろう)

 そのまま脅そうと銃を持ち上げた瞬間───。


 誘拐犯の周りを閃光が、縦横無尽に奔った。


 チンッ・・・・・・


 その音は、背後から聞こえた。


 少年を抱き上げる男のズボンが落ちて、黄ばんだパンツが丸見えになる。

 パラパラ・・・・・・。

 もう一人の男の衣服が木の葉のように分裂し、ヒラヒラと落ちていった。


 全裸に気付いた男は、両手で股間を隠す。

 もう一人は慌ててズボンを持ち上げた。


「クソッ! 覚えてやがれ!」

 男達は通りに停めてあった車に乗り込み、去って行った。



 少年は誘拐犯が去って行くのを見送り、初老の男の方へ振り向いた。

「ありがとう! 爺さん!」

「いや、あっしはただ・・・・・・蠅が飛んでいたもんでね。追い払っただけでさぁ・・・・・・」


 少年は照れ隠しの冗談と思った。

 ふと足下を見ると、見たことの無い「虫」がいた。

 それは羽を無くした蠅だった。


「これ、爺さんがやったの?」

 少年は驚きながら、顔を上げる。

 初老の男は既に立ち去り、数メートル先をゆっくり歩いている。


 少年は追いかけ、

「ねえ! 一体どうやったのさ」と話しかけた。

「さて・・・・・・。それよりお前さん、交番にいきなすっては?」

「信じてもらえないよ。どうやって助かったっていうのさ。一緒に来てくれるのかい?」

「なるほど・・・・・・。確かに説明出来やしませんね・・・・・・」

 話ながらも盲人の歩みは止まらない。

 少年は横に並んで歩いていた。


「爺さんは何処から来たの? この辺じゃ見かけないけど」

「さあ・・・・・・。気の向くまま、脚に任せて旅する根無し草でさぁ・・・・・・」

「え? ずっと旅をしてるの!? 日本中!?」

 初老の男はコックリと頷く。

 

「今日泊まるとこ、どっかに当てがあるの?」

「いえ、ねぇですが・・・・・・」

「じゃあ、うちに泊まっていきなよ! お礼もしたいしさ!」

 杖の音が止み、初老の男は立ち止まる。


「───いいんですかい?」

「もちろんだよ。じゃ、決まり。行こ!」

 少年はそう言うと、初老の男の前を歩いて行った。



◇◇◇◇

「おじいちゃーん。お客さーん!」

 家に着くなり、玄関を開けながら少年は中に向かって叫んだ。

 老齢の男性が居間から出てきて、少年と隣に立つ人物を見る。


「この人、僕が誘拐されそうなところを助けてくれたんだ!」

なんじゃて! 誘拐!?」


 表情を引きつらせ、改めて玄関先に立つ男を見た。

(こんな目が見えない老人が、孫を助けた?)


 外見上、他人を助けられるようには見えない。どちらかというと助けられる方だと思うのだが、孫が言うのなら噓では無いだろう。


「それは危ないところを・・・・・・。汚い家ですが、上がって下さい」

「それじゃあ・・・・・・失礼いたしやす」


 そう言って雪駄を脱ぎ、ヨイショと言いながら廊下に足を乗せた。

 杖をつきながら、案内されて居間のちゃぶ台の前に用意された座布団に座る。


「すげぇんだよ! 厳つい男二人を一人で追い払ったんだよ! どうやったのか見えなかったけど」

 少年の祖父はお茶を入れ、戻ってきた。


 初老の男の前に湯飲みを置きながら、

「ほんとうに有り難うございました」

 と謝礼を言う。


「この爺さん、旅をしてるんだけど今日泊まるとこ決まってないんだって! 此処に泊まって貰っていいでしょ?」

「それはもう。恩人ですから好きなだけ泊まっていって下さい。空いている部屋もありますんで」


「すいやせん。───それより旦那さん、立ち入ったことを聞くようですが、お孫さんはなんで誘拐されそうになってたんで・・・・・・?」

「それは・・・・・・。多分私が町内会長をしているせいだと・・・・・・」


「突然この辺一帯を再開発するって話が出てさ。全員引っ越せって言うんだよ。確かにこの辺の家は古いけど、住めるんだぜ。借家の人なんて同じ家賃で探そうとすると田舎になっちゃうし、そうなったら仕事に行けないんだよ。最悪転職しなきゃいけない。それで爺ちゃんが中心になって反対してるんだよ」

 少年が口を挟んで一気に説明した。


「この町はなんの取り柄も無い所ですがね。私達には先祖代々守ってきた住み慣れた土地ですから、いきなり移住しろと言われてもねぇ・・・・・・」


「それにしちゃあ、やり方が少し強引すぎやしませんかい・・・・・・?」


「そうなんですよ。昔は地上げ屋なんていうのがいましたけどねぇ。ここらの土地を手に入れても地価が上がるような場所じゃないですし、何故あんなごろつきまで使ってまで此処を欲しがるのか判らんのです」


「・・・・・・そういうことですかぃ・・・・・・」


 

◇◇◇◇

 

 食事を済ませ、少年は背中を流してやると言って、男を浴室に連れて行った。


「じゃあさ、旅してるってことは仕事も家も無いってこと!?」

「まあ、そういうことでさぁね・・・・・・」

「それって浮浪者で徘徊老人じゃん。俺が市役所に行って、生活保護申請してやろうか?」


「あっしには今の暮らしが性に合ってまして。それに、時々こうして泊めて下さる方もいやしてね。人の親切がしみるんでさぁ・・・・・・」

 杖を置き、作務衣を脱ぎながらそう言う。


「目が見えなくて不便じゃ無い?」

「世の中には見えなくてもいいこともあるんでさぁ・・・・・・。それに・・・・・・」

 作務衣を手に持ち、上を見上げる。


「鳥のさえずり、風の音・・・・・・。見えない分ハッキリ聞こえるってもんです・・・・・・。目が見えないからこそ見えるものもござんしてね・・・・・・。例えば人の本性・・・・・・。坊ちゃんなんざキラキラしてまさぁ」


「爺さんの名前は?」

「一徹って呼ばれおりやす・・・・・・」


 一徹はそう言って肌着を脱ぐ。


「すげぇ傷・・・・・・」


 一徹の身体は年の割に引き締まっていた。無駄な贅肉も無く、肌も張りがある。そして───その全身は傷だらけであった。


「どうしたんだい? その傷」

「階段で転びやして・・・・・・」

「いや、流石にその言い訳は無理あるでしょ」


「───人には、人様に言えねぇ恥ずかしい過去があるってことでさぁ・・・・・・」


 そう言いながら、浴室の引き戸を開ける。

 白い湯気が、脱衣所に流れ込んできた。



◇◇◇◇


 町外れの料亭では、ある密会が行われていた。


「それで、間違いなく『あれ』はあるんだろうね」


「最新鋭の探査機で調べましたから。大丈夫ですよ」


 料亭の座敷に、二人の男が机を挟んで座っていた。オールバックに白スーツ姿の若い男。その前には頑固そうな中年男が、コンパニオンに挟まれてにやけた顔で座っていた。


「じゃあ、ガッポリ儲かるって訳か。たまらんのぉ~」

「あ・・・」

 興奮した男はコンパニオンの肩から腕を回し、乳房を鷲掴みにする。


「それでいつ頃着手出来る」

 襟元から手を突っ込んで、掌全体で揉みしだき、女の堪えるような甘い吐息を感じながら、二重の興奮で中年男は血走った眼で答う。


「今週中には目処が立ちます」

「そうかそうか。頼むよ? もう土地の一部を妻名義で登記したからね」

「任せて下さい」


 男達の酒池肉林の饗宴は始まったばかりだった。



◇◇◇◇


「若、上手くいきましたかい?」

「ああ、もうあいつは俺達の言いなりだ。偉くなったのに今のご時世パワハラもセクハラも駄目で、以前と違って袖の下どころか接待もなくなったとぼやいてたからな。酒と女、そして金。うちからの内密な提供ってことで一気にたがが外れたようだ。あのゲス野郎はもうこの件から抜け出せねぇ。さっきは部屋にカメラも仕掛けておいたしな。───それより土地の買収は?」


「それが、あのジジィのせいで進んでいませんで・・・・・・」

「早くしろ! でもこの前みたいな犯罪紛いの事を真っ昼間にすんじゃねえぞ」

「すみません。あの小僧もジジィも、頑固で生意気で。俺、キレると周りが見えなくなるもんで・・・・・・」

「夜の電球か! お前は! ・・・・・・そうじゃなく、うちがやろうとしていることも、不当な手段を使ったことも誰にもバレねぇように頭使えってんだ」

「俺は若みたいに商才もなければ人を説得する弁もねぇもんで・・・・・・」

「フッ、俺はオールマイティ万能なんだよ」

「若がそんなお茶好きとは知りませんでした」

「何が」

「『全部オール』『自分のマイ』『お茶ティー』」

「誰かこいつ連れてけ。解任クビだ」

 男は両脇を抱えられて連れて行かれた。

 若と呼ばれた男は、それを見ながら呟いた。


「あのジジィは女も金にもなびかねぇからな・・・・・・。あの人にお願いするか・・・・・・」



◇◇◇◇


 少年は一徹と校門前で待ち合わせし、合流した。そのまま祖父の家へ向かう。

 今日は学校行事の打ち合わせがあったため、もう日が暮れかけていた。


「今日は何してたんだい?」

「この町を散策しておりやした・・・・・・。良い町でさぁ・・・・・・。ところで坊ちゃんの他の家族は何処にいなさるんで?」


「あいつらって会社名はちゃんとしてるけど、ヤクザなんだよ。爺ちゃんが危ないからって親戚のところに避難させた。町の外で議員さんとかと会ってるみたい。俺は学校もあるし、爺ちゃんが心配だから残った」


 話しながら家の近くまで辿り着き、角を曲がった時だ。近所のおばちゃんが待ちわびていたように駆け寄って来た。


「大変よ! 会長さん、連れて行かれちゃった!」

「え!?」


 一徹に声をかけようと振り向くと、そこに一徹の姿は無かった。



◇◇◇◇


 夜の帳が下りた。

 

 若と呼ばれる男の組が用意した仮住まいだが、豪華な日本庭園まである和風家屋。その屋敷の一室に町内会長はいた。


 広い座敷に町内会長と若と呼ばれる男が、黒光りする卓を前に対面して座り、周りをごつい男達が取り囲んで立っている。


 若の隣には、眼鏡を掛けた銀行員のような男も座っていた。身なりは会社員のようだが、眼光が一般人では無い。


「この契約書に署名と捺印、なければ拇印を貰えればいいんですよ」


 眼鏡男はそう言った。

 町長は半ば強引に屋敷に連れて来られた。最後の話し合いという名目で。


「断る」


「何故ですか。この何も無い町に一大産業を持ってこようという話ですよ? 普通、逆に企業誘致をお願いするところを、こちらから提案してきた訳です。ですから通常より高く土地は買いますし、住宅も仕事も提供する訳です。住民の半数は同意してくれてますよ? 貴方は町の住人が豊かになるのを拒否する訳ですか?」

 この男は土地買収のプロだった。


「お前らが噓八百で丸め込んだんじゃないか。仕事も最初のうちだけで、解雇し追い出すつもりじゃろう。お前達のやり口は調査済みじゃ。結局お前達が搾取するんじゃ。年寄りばかりじゃからな。そもそも、何を作るのか説明が無い」


「この土地に温泉があることが判りました。湧出量・温度ともに日本最高レベルです。温泉発電も利用して経費を浮かし、且つ他の自治体からも注目されます。観光客が押し寄せること間違いありません」


「温泉・・・・・・! そういう話なら、なおのこと認める訳にはいかん!」


「仕事も設備や施設費もこっちが全部出すんだ。調査に発電機開発。これまでどれだけ金を使ったと思っている!」

 若が、たまりかねたように怒鳴る。


「試掘は・・・・・・県知事の許可は取ったのか?」

「市長の了解と仲介役了承は取ってある!」


「駄目じゃ! この土地に触れることは許さん!」


 眼鏡男は少し間を置いて、こう言った。

「あなたのお孫さん。生まれつき慢性腎臓病で週3回透析を受けているそうですね」

「・・・・・・!」


「我々なら、優先的にドナーを、回せますよ?」

 町内会長の握った拳が震える。


「クッ・・・・・・! それでも駄目じゃ・・・・・・」


 会議室に沈黙が訪れた。


 眼鏡男は「フウ・・・・・・」と溜息をついた。

「仕方ない。私も地上げでのし上がった男。この手段はとりたくなかったのですが、もうあなたをるしかないですね。その後親指を切り落として拇印を取る。責任を感じたあなたは失踪したということにする。残りの住人はその契約書を見せればこちらの要望を飲んでくれるでしょう・・・・・・」


 その言葉と共に、周りの男達が町内会長の身体を押さえた。


「止めろ! 龍神様の呪いが舞い降りるぞ! この町全体にだ!」


「何を迷信めいたことを・・・・・・」


 眼鏡男はそういうと、後ろの男が隠し持っていた日本刀をスラッと引き抜いた。立ち上がり、町長の側へ歩み寄る。


 バンッ!!


「止めろ!」

 襖が開き、大声が響く。

 そこには少年が立っていた。


 組の屋敷に少年は忍び込んでいた。幸い、この部屋に組員を集めていたので、警備は緩かった。


 少年はそのまま男達の間を走って、祖父の元へと駆けつけた。

 眼鏡男は、躊躇すること無く少年の首を狙って刀を振り下ろす。

 それを見た祖父は、孫の身体に覆い被さった。


「グッ!!」


 畳の上に、血飛沫が飛び散った。

 少年の上から力なく老人の身体はずり落ち、畳に倒れ込む。


「爺ちゃん、しっかり!」

 抱き起こし揺すっても、全く反応が無い。


「お前も見られたからには片付けねばな・・・・・・」


 眼鏡男は刀を振り上げ───。


 ふと、その動きが止まる。



 カッ・・・・・・カカッ・・・・・・カッ・・・・・・



 異質な音に、眼鏡男の視線が彷徨う。

 総毛立つような冷気に、眼鏡男は音が止まった方向の障子を袈裟切りに刀を奔らせた。


 障子が、斜めにずれてゆく。

 そこには目を閉じた初老の男が、庭と月明かりを背にして立っていた。


 一徹が、現れた。


「何処行ってたんだよ! この徘徊老人!」

 少年が叫ぶ。


 男達が胸に手を入れる動作に入った瞬間、一徹の右手が動く。

 辺りは突然、闇に包まれた。


 右手に握られた小刀は、電柱と屋敷を結ぶ電力引込線を切断していた。

 ちょうど雲が月を隠し、視界がゼロになる。


「グッ」

「ウッ」


 男達の呻き声が聞こえた。


 パンッ


「撃つな!」

 誰かが混乱状態で発砲し、仲間に当たった。


「何か音を出せ! 奴の頼りは耳だけだ!」

 盲人だと判断した眼鏡男は指示を出す。


 突如、大音響が響き渡った。

 誰かがステレオのスイッチを入れたのだ。他にも携帯から音楽を流す者もいた。

 

「グエッ・・・・・・」


 しかし、男達の呻き声は終わらない。


 カクテルパーティー効果というものがある。騒がしい中でも自分に重要な情報を選択的に聞き分ける能力だ。五月蠅い中でも自分の悪口だけは聞こえたりする、誰にでも備わっている能力だが、一徹の場合特殊だった。


 荒い息。

 畳と足が擦れる音。

 聞き分ける能力もさることながら、反響音によってこの部屋の物体の位置や動き、材質まで目に見えるように判るのだ。


 加えて男達の発する殺気で、『誰』だとも判る。

 一徹の独壇場だった。


 眼鏡男は一徹を近づけさせまいとと、刀を振り回していた。


「外道・・・・・・」


 地獄から響くような恐ろしい声と同時に、目の前を何かが横切った。

 杖に仕込まれた刀が一閃した。


 思わず眼鏡男は顔に手をやる。

 あるはずの突起が無く、掌が両の頰を叩く。

 指の間に生暖かい粘液が溢れた。


(鼻が無い!)


「ひいぃぃぃぃぃ・・・・・・!」

 痛みより先に、鼻を失った恐怖が男を包んだ。


 暫くすると、男達の動く音が止んだ。


 駆け寄った組員達が投光器で部屋を照らす。

 座敷には、無残に倒れた組員達の姿があった。


 一徹の姿を捉えた若が銃を抜き、一徹に向け発砲する。

 閃光が奔り、真っ二つになった銃弾が畳の上に落ちた。


「オイ! 全員で撃て!」

「一徹さん!」

 少年が叫ぶ。


(一徹・・・・・・?)

 眼鏡男は目を剥く。

「若! 相手が悪すぎる! 止めなせぇ!」


 眼鏡男を支えていた男が答う。

「何故あんなボケ老人を?」


莫迦バカ、あいつを知らねぇのか!? 伝説の男、一徹さんだ。奴の恨みを買うと、組を潰されるぐらいじゃ済まねえぞ!」


 その時、サイレンの音が響き渡った。

 赤色灯が闇を照らし、続いて庭の方で大勢が近づく気配がした。


「すまないが、勝手に入らせて貰ったよ?」


「知事・・・・・・?」


 そこには清潔で紳士的なスーツ姿の男と、料亭で接待を受けていた中年男が立っていた。背後には警官隊を引き連れている。脇を救急隊員が駆け抜けた。

 

「市長、君が申請した掘削許可申請だが、却下します」

「え、何故・・・・・・」


「知ってるよ。君、この町が再開発されるんで、親戚名義で土地を買っただろう。それに接待を受けてはならない立場なのに過度な接待も受けていたとか? 市民から情報提供があったよ」


「知事・・・・・・! この町を活性化させる案件ですぞ!」


「許可したら、君がこの組と繋がっていることが問題になる。それに君もこの連中もこの土地生まれじゃないから知らないだろうが、龍神様の話は私も知っている。それは『この方』にもここに来る途中説明した」

 

 警官隊の背後から、和服を着た恰幅の良い男が腕組みをして出てきた。


「親父・・・・・・」


「若頭。おめぇだ。一徹さんが止めてくれて良かった。ヤクザが素人さんに手を出しちゃいけねぇ。それにこの件、お前にゃあ荷が重すぎる。手を引け」


 若は反論しようと口を震わせたが、ガックリと膝をついた。


「そしてこちらは世界的巨匠、マルゲリータ監督だ。この町を気に入りここでロケをしたいそうだ。ゆくゆくはこの町で毎年映画祭開催することを予定している。町の復興計画は前から進んでいたんだよ。彼との会食中に親分さんから此処で事件が起こることを聞いてね。駆けつけたわけだ」


「Hi~」と明るい声で、TVで見たことのある外人が現れた。



◇◇◇◇


 こうして組の連中はこの町から去り、平和が現れた。


 町内会長は一命を取り留めていた。


 一徹は、また旅に出るという。

 彼の個性を気に入ったマルゲリータ監督から出演依頼を受けたが、断った。


 病室のベッドの上で、去るという報告に来た一徹に、町内会長は龍神伝説の説明をした。


「昔、この土地で温泉を掘り当てた男がいた。しかし、その日のうちに村人全員が悶え苦しみ死んだんじゃ。生き残った村人が穴を埋め、この土地に穴を掘ることを禁忌とし、龍神伝説としてほこらを建てた。それが私の先祖じゃ」


 恐らく濃度の高い硫化水素が温泉と共に流出したのだろう。そしてこの町は周りより標高が低く凹んだような地形だった。空気より重い硫化水素は町に溜まり、数秒で呼吸困難を起こす「ノックダウン」により多くの死者を出した。更には底の方で濃度は増し、濃度の濃い硫化水素は引火性が高く、火に包まれた村は消失した。


「この町を救ってくれてありがとう・・・・・・アンタはこの町の救世主じゃ・・・・・・」

「一宿一飯の恩義ってやつでさぁ・・・・・・。そんな大層なもんじゃござんせん・・・・・・」


 町内会長は微笑むと、静かに目を閉じ眠った。


 病室から出て行く一徹の後ろ姿に、少年は寂しそうに言った。

「行かないでくれよ・・・・・・一徹さん」

 僅かに少年の方を振り向き、笑顔を見せると、そのまま一徹は病室を後にした。


 カッ・・・・・・カカッ・・・・・・カッ・・・・・・


 廊下に杖の音が木霊していた。




 彼が事件を呼ぶのか、事件が彼を呼び寄せるのか。

 明日もどこかで、正義の仕込杖の音がするだろう。






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本作「超能力な人々」のスピンオフとなります。

本編はSFコメディです。一徹さんは18話と最終話に出演。


本編はこちら↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093090727298286


スピンオフ別作品「心の声が聞こえる男と初恋のひと」はこちら↓

https://kakuyomu.jp/works/822139842063665357


よろしければ、どうぞ読んでみて下さい。

よろしくお願いします!

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