『追放された落ちこぼれ魔法使い、実は世界最強の賢者でした~無自覚チート能力で異世界を救ったら、美少女たちに囲まれて困ってます~』

@tamacco

第1話 才能なしと言われた日

王立魔法学園の講堂は、いつもより重苦しい空気に包まれていた。


「レン・アルトリウス。前へ」


学園長の冷たい声が響き渡る。僕は周囲の視線を感じながら、ゆっくりと教壇の前へと歩いていった。


ざわざわと生徒たちのささやき声が聞こえる。僕のことを哀れむような、あるいは見下すような視線。三年間、ずっと感じ続けてきたそれらの視線が、今日は特に痛い。


「レン・アルトリウス。君には魔法使いとしての才能が認められない。よって、本日をもって王立魔法学園からの退学を命ずる」


学園長の言葉は、予想していたとはいえ、胸に突き刺さった。


僕は十六歳。この学園に入学して三年。魔法の基礎を学び、日々鍛錬を重ねてきたつもりだった。でも、僕の魔法は誰からも評価されなかった。


「レンの魔法は地味すぎる」

「あんな基礎魔法ばかり使って、何の意味があるんだ」

「応用魔法が使えない時点で、魔法使い失格だろ」


クラスメイトたちの言葉を、僕は何度も聞いてきた。


確かに、僕が使えるのは光の玉を作り出す「ライト」、小さな風を起こす「ウィンド」、水を出す「ウォーター」といった、入学初日に教わるような基礎魔法ばかりだ。


他の生徒たちは、巨大な炎を生み出す「メガフレア」や、地面を隆起させる「アースクエイク」、雷を落とす「サンダーボルト」といった派手な魔法を次々と習得していく。


でも、僕にはそれらの魔法が使えなかった。正確に言えば、使おうとすると魔力が暴走して失敗してしまうのだ。だから僕は、基礎魔法を極めることに専念してきた。


「才能がない者に、これ以上学園のリソースを割くわけにはいかない。分かるね?」


学園長の言葉に、僕は静かに頷いた。


「はい。分かりました」


抵抗しても無駄だということは、分かっていた。この三年間、何度も何度も、自分には才能がないのだと突きつけられ続けてきたのだから。


「では、今すぐ荷物をまとめて退寮しなさい。今日中にこの学園を出ていくように」


学園長の言葉と同時に、講堂がざわめいた。


「やっぱりな」

「三年も粘ったのは逆にすごいけど」

「これで落ちこぼれが一人減る」


そんな声が聞こえてくる。僕は何も言わず、深々と頭を下げて講堂を後にした。


寮の部屋に戻ると、すでに荷物はほとんどまとめてあった。ここ数日、追放が近いことは薄々感じていたから、準備だけはしていたのだ。


ベッドに腰を下ろし、窓の外を眺める。美しい学園の庭園。魔法の光で装飾された噴水。空を飛ぶ魔法訓練をする上級生たち。


ここでの三年間は、決して楽しいものではなかった。でも、魔法を学べたこと自体は、僕にとって貴重な経験だった。


「レン」


ノックもなしに扉が開き、一人の少女が入ってきた。リーナ・フォンブルグ。伯爵家の令嬢で、僕の数少ない友人だった。


「聞いたわ。追放されたって」


リーナは同情するような目で僕を見る。


「うん。まあ、予想通りだよ」


「ひどすぎるわ。あなたは誰よりも真面目に魔法の鍛錬をしていたのに」


「才能がなかったんだから仕方ないよ。リーナこそ、僕なんかと関わってると、君まで変な目で見られるよ」


リーナは首を振った。


「そんなこと気にしないわ。それより、これからどうするの?」


「とりあえず、辺境の村にでも行こうかと思ってる。冒険者ギルドに登録して、魔物退治の仕事でもしながら生活するつもりだよ」


「冒険者? でも危ないわ」


「大丈夫。基礎魔法でも、魔物退治くらいならできると思うから」


僕は笑顔を作った。リーナを心配させたくなかった。


「本当に大丈夫なの?」


「うん。心配しないで。むしろ、ここを出られてほっとしてるくらいだよ」


それは本心だった。この学園では、毎日が針のむしろだったのだ。才能がない、落ちこぼれだ、邪魔だと言われ続ける日々。それが終わると思えば、少しだけ気が楽になる。


リーナは寂しそうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。


「連絡は取り合いましょう。手紙でも」


「ああ、もちろん」


それから僕たちは、しばらく他愛もない話をした。リーナが帰った後、僕は最後の荷造りを終えて、寮を出た。


学園の門をくぐる時、振り返って校舎を見上げた。


この三年間は無駄だったのだろうか。


いや、そんなことはない。ここで魔法の基礎をしっかりと学べたのだから。これからの人生で、きっとその知識は役に立つはずだ。


僕はそう自分に言い聞かせて、学園に背を向けた。


王都から辺境の村までは、馬車で三日の道のりだ。僕は学園から支給された最後の給金で馬車賃を払い、揺られながら窓の外を眺めていた。


同乗している商人や旅人たちは、僕のことなど気にも留めていない。それが心地よかった。学園では常に注目され、評価され、批判されていたのだから。


「あんた、冒険者かい?」


馬車の向かいに座っていた初老の男が話しかけてきた。


「ええ、まあ。これから冒険者になろうと思ってます」


「そうかい。若いのに感心だねえ。最近は魔物も増えてるって聞くから、気をつけるんだよ」


「ありがとうございます」


魔物が増えている。それは学園でも聞いていた情報だった。ここ数年、世界各地で魔物の出現頻度が上がっているらしい。理由は誰にも分からない。


でも、それは僕にとってチャンスでもあった。魔物退治の依頼が増えれば、冒険者としての仕事も増える。


三日後、僕は辺境の村「ミルフォード」に到着した。


人口五百人ほどの小さな村だ。石造りの家々が並び、中央には小さな広場がある。のどかな田園風景が広がっていた。


まず向かったのは、村にある冒険者ギルドの支部だった。木造の二階建ての建物で、一階が受付とラウンジ、二階が宿泊施設になっているらしい。


扉を開けると、カランカランとベルが鳴る。


「いらっしゃい。冒険者登録かい?」


受付にいたのは、三十代くらいの女性だった。ギルドマスターのエリカという名前だと、彼女は自己紹介した。


「はい。登録をお願いします」


「分かった。じゃあ、この用紙に名前と年齢、それから使える魔法や戦闘スタイルを書いて」


僕は用紙を受け取り、記入していく。


名前、年齢、出身。そして使える魔法の欄に、僕は「基礎魔法全般」とだけ書いた。


エリカは用紙を受け取ると、少し首をかしげた。


「基礎魔法全般? 応用魔法は使えないのかい?」


「はい。基礎魔法しか使えません」


「そうかい。まあ、この村なら基礎魔法でもなんとかなるだろう。ゴブリンやスライムくらいしか出ないからね」


エリカはそう言って、僕に冒険者カードを手渡した。


「これで君も立派な冒険者だ。ランクはGからスタート。依頼をこなして実績を積めば、ランクは上がっていくよ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、さっそく依頼を見てみるかい?」


エリカが指さした掲示板には、いくつかの依頼書が貼られていた。


「薬草採取、報酬五百ゴールド」

「スライム十匹討伐、報酬三百ゴールド」

「ゴブリンの巣の調査、報酬千ゴールド」


どれも初心者向けの簡単な依頼だ。


「じゃあ、このスライム討伐の依頼を受けます」


「了解。場所は村の西の森だよ。気をつけてね」


僕は依頼書を受け取り、ギルドを出た。


新しい人生の、最初の一歩だ。


西の森は、村から徒歩で十分ほどの場所にあった。木々が鬱蒼と茂り、少し薄暗い。


森に入ってすぐ、最初のスライムを見つけた。青くてぷるぷると震える、ゼリーのような魔物だ。


「よし、やってみよう」


僕は手のひらに魔力を集中させる。基礎魔法の「ライト」。光の玉を作り出す、最も簡単な魔法だ。


でも、僕のライトは少し違う。学園では「無駄に魔力を込めすぎだ」と言われ続けてきたが、僕にとってはこれが普通だった。


手のひらに、眩しいほどの光の玉が生まれる。そのまま、スライムに向かって放つ。


光の玉はスライムに直撃し――


次の瞬間、轟音とともにスライムが蒸発した。


いや、蒸発どころか、周囲の木々まで吹き飛ばされている。


「え?」


僕は呆然と、その光景を見つめた。


スライムを倒すつもりが、森に大きな空き地ができてしまった。


「やっぱり、魔力の制御が下手なんだよな、僕」


僕はため息をついた。学園でも、よく魔力を込めすぎて訓練用の的を破壊してしまっていたのだ。


「まあ、スライムは倒せたからいいか。あと九匹」


僕は魔力制御に気をつけながら、次のスライムを探し始めた。


でも、そのときの僕は知らなかった。


自分が放った「ライト」が、実は失われた古代魔法「ホーリーノヴァ」という、竜すら一撃で倒せる超高等魔法だったということを。


そして、この小さな村での冒険が、やがて世界を揺るがす大事件へと繋がっていくことを。


続く

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