最強ドラゴンメイドの恩返し~かつてと現在、二つの恩を返すべく元竜王は残り少ない寿命を没落男爵家に捧げる~

まんじ

第1話 墜落

いつかこんな日がやって来ると思っていた。


だが、それは案外思ったより早くに訪れる事に。


やはり、あの時使った極限の力が原因なのだろうな。


「ぐ……く……ここまでか」


激しい攻撃を受け、私はその場に崩れ落ちる。


「我の勝ちだ。竜王……いや、ドラメイドよ」


「ふ、ふふふ。見事。次代の竜王はお前だ。バハムートよ」


私の名はドラメイド。

一万年という長きに渡り、最強のドラゴンとして竜王の座に君臨し続けて来た。


だが、どんな生物にも寿命がある。

それは最強種のドラゴンもまた同じだ。


老い。

それが私を弱らせ。

そして今、新たな若きドラゴンが私を倒し。

新たな竜王へと至る。


それは自然の摂理。

当然の事なのだ。

そして、破れた竜王はただ土に還るのみ。


「トドメを刺すがいい」


竜王戦で破れた者は、新時代の竜王の手で始末されるのが習わしだ。


最強である事。

そして最強に挑む事は。

常に命がけでなければならない。


「ドラメイドよ。私は貴方を尊敬している。本来、ドラゴンの寿命は五千年ほど。だがあなたは一万年物長きに渡り、頂上に君臨し続けた。落ちてなお、貴方は敬服に値する。寿命も残り少なかろう。最後の時を、どうか穏やかに過ごして欲しい」


私への敬意……か。

美しくはあるが、それは同時に甘さでしかない。

そしてその甘さは、いずれ竜王である己の足を引っ張る事になりかねない。

彼はそれに気づいているのだろうか?


「慣例を破れば、周りの者はお前を王と認めぬやもしれんぞ?」


「ならば……王として力でねじ伏せて見せよう。最強の竜王、ドラメイドに勝った私が」


バハムートは誇らしげにそう告げる。


彼の判断を甘いと断じたが、それは私の誤りだった。

バハムートもそれが分かった上で、障害を踏み潰す意思を持って行動しているのだ。


ならば、敗者である私がこれ以上余計な苦言を呈すのは、彼に対する侮辱でしかない。


「そうか……ならば、バハムート……いや、新たなる竜王よ。そなたの温情、受け取らせて貰おう」


私は新たな竜王に一礼し、その場を飛び立った。


「私に残された時間は短い。さて、余生をどう過ごすべきか。ああ、そういえば借りがあったな……」


私は空に浮かぶドラゴンの聖域。

そこから飛び出す。


「少々きついな」


竜王戦で受けたダメージは大きい。

正直、聖域で休息していきたかったが、私はそうはしなかった。


一言で言うなら、それは元竜王としてのプライドだ。


破れた無様な姿を、他のドラゴン達に晒したくなかった。

だから休息を取らず、そのまま聖域を出たのである。


「あれからもう五百年か。奴はもう生きてはいまい。だが、その子孫ならば……」


私は昔の事を思い出す。


かつて、世界を震撼させる脅威が生まれた事があった。

魔王と呼ばれる、魔物の王だ。

そして魔王はその強大な力をもって、この世界の蹂躙を開始した。


―—魔王の目的は、力で世界を手に入れる事。


奴の求める世界。

そこには当然、ドラゴンの聖域も含まれており。

魔王軍と、我らドラゴンの間でも激しい戦いが繰り広げられる事に。


魔王軍は強かった。

戦いでは多くのドラゴンが命を失い。

そして私もまた、数の暴力によって、死の瀬戸際まで追いつめられる事になる。


そんな私を救ったのがあの人間。

光の女神に選ばれ、勇者となったアーク・ペンドラゴンだ。


彼に命を救われた私は、アークの率いる光の軍団に同行し。

そしてついには魔王を討ち果たす事に成功する。


「アーク。これを」


魔王討伐後、私は自らの鱗の欠片を彼に手渡した。


「これは?」


「お前には、命を救って貰った借りがある。だから……何かあったらそれに魔力を流して、私に合図を送れ。借りを返すため、いつ何時だろうとその呼びかけに応え、私は参じよう」


「ありがとう」


あれから五百年。

結局、今に至るまでアークからの信号を受け取る事はなかった。

そのため、借りは返せずじまいだ。


如何に神に選ばれた勇者であろうと、もう亡くなっているだろう。

だが、その子孫ならばいるかもしれない。

そして残り少ない命ならば、最後にかつて受けた借りを返すため、私はアークに手渡した鱗の欠片の反応のある場所へと向かう。


本人には返せなくとも、子孫にその借りを返すべく。


「ぬ……く……不味いな」


数時間程飛び、目的地まであと少しという所で肉体に異変が起きた。

いや、違うな。

異変自体はもっと前から感じていた。

私はそれを無視して、飛び続けただけだ。


「少々、傲慢だったようだな」


竜王戦で受けたダメージは、私が考えるよりも大きく。

そして老いて衰えた力は、特に回復能力は、私が考えるよりもずっと深刻だったのだ。


「いつまでも若かりし頃の感覚が抜けず、間抜けを晒す事になろうとはな」


やはり聖域で休んでから立つべきだった。

だが、もはや後悔しても遅い。


老いた肉体は限界に悲鳴を上げ。

急速に力が抜けていき、私は飛行すら困難な状態に陥ってしまう。


こうなると、待っているのは墜落だけだ。


「下界の生物に余計な恐怖を与えないよう、雲の上を飛んだのが……仇になったか」


降下して着地する猶予も、もはやない。

そして今のボロボロの肉体で墜落すれば、私は間違いなく死ぬ事になるだろう。


「はぁ……我ながら、度し難い愚かさだ」


バハムートに温情を貰い。

折角、かつての借りを返す機会を得たと言うのに。

自らの傲慢さ故、そのチャンスを棒に振る事になってしまった。


「傲慢による墜落死など。ふふ……長らく竜王の座に君臨した私が、これほどつまらない死に方をする事になろうとはな」


自嘲気味に笑う。

もはや笑うしかないからな。


「とは言え、だ」


仮にも一万年物の間、私はドラゴンのトップに立っていた。

そんな者があっさり諦め死を受け入れるなどと、軟弱な選択を取る訳にもいかない。

ダメ元であろうが、足掻けるだけ足掻かせて貰おうか。


竜王戦では、あっさり命を諦めていた?

あれは神聖な儀式だからな。

見苦しい真似などできるはずもないだろう?


「そういえば……」


『衝撃というのは、質量と速度で決まる』


「そんな事を、あの賢者は言っていたな」


かつて共に魔王を倒した、エルフの賢者の言葉だ。

なにかと知識を披露しては悦に浸る、癇に障る奴ではあったが……


「質量とは、肉体のサイズや重さを纏めた概念だったな」


つまり、体が小さく軽くなれば、墜落の際の衝撃を減らせるという事だ。

そして衝撃が減るならば、上手くすれば生き残る事も……


変身ポリモーフなら、なんとか使えなくもないか」


ポリモーフは、姿を変化させるドラゴン固有の魔法だ。

この魔法の優れている点は、サイズだけでなく、重量も見た目に合わせて軽くなる点にある。


更に言うなら、体が小さくなった分エネルギーの消費なども小さくなるで、勇者と行動を共にしていた時期、私は常にポリモーフで人化していた。


聖域内においてドラゴンは栄養摂取が不要だったが、外ではそういう訳にはいかなかったからな。

そして巨体のドラゴンが取る食事量は膨大だ。

腹が減るたびに大量の食糧を用意するわけにもいかず、変身して少食にしていたという訳である。


「ポリモーフ」


落下しながら、私は魔法を発動させる。


「く……うぅ……」


その際に発生する苦痛に、私はうめき声を上げた。

本来、変身に苦痛は伴わない。

だが今の私は、肉体がボロボロの状態である。

そんな状態での無理な変身であるため、肉体が悲鳴を上げているのだ。


「さて……後は神に祈るだけだな……」


人の姿への変化が終わった。

もはや、指一本動かす力もない。

だから最後に出来るのは、願う事のみ。


「神よ。私にもう少しだけ……時間を頂きたい」


―—地面が眼前に迫る。


そして肉体に凄まじい衝撃が走り。

そこで私の意識は途絶えた。

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