冤罪で捕まったら終身刑でした。看守さんが理不尽過ぎるし看守長は暴力で強制してきます。我慢ならないので国ごとヤッちゃっていいよね?

火猫

第1話 プロローグ

 冤罪という言葉は、ここでは免罪符にならない。


 むしろ――死刑宣告よりも残酷な前置きだ。


ここは、流刑島。


地図にすら正式名称が載らない、王国最南端の岩塊。


送られた者は二度と帰らない。

生きていようが、死んでいようが関係なく。


「……は?」


目を覚ました瞬間、アマギ・マシロは鉄の匂いに包まれていた。


湿った空気、錆びた格子、腐った藁の寝床。


事故死した記憶はある。


暴走車両に撥ねられ、視界が白く弾けた――そこまでは確かだ。


だが、それ以降の人生に覚えはない。


「起きたか、新入り」


鉄靴の音。


檻の外に立つ看守は、嘲るような笑みを浮かべていた。


「お前は終身刑だ。罪状は――王太子殿下のお気に入り、聖女様を転ばせた罪」


「……は?」


二度目の「は?」は、喉からこぼれ落ちただけだった。


だが、説明はそれだけだった。


反論の余地も、裁判も、証拠もない。


道端の小石で聖女が転んだ。

その近くに“たまたま”居た。


それが理由で、終身刑。


「運が悪かったな」


看守はそう言って笑った。



理不尽は、日常として牙を剥く。


この島に正義はない。


あるのは、暴力と賄賂と沈黙だけだ。


看守たちは平然と囚人の私物を奪う。

家族から送られた食料も、薬も、手紙も。


「文句あるか?」


逆らえば、看守長が出てくる。


その巨体は鍛えられたモノでは無い。

鈍く光る棍棒。

殴る理由など本人はどうで良かった。


気に入らない、それだけで十分だった。


殴られ、打ち捨てられた死んだ囚人は病院に運ばれる。


治療のためではない。


死亡診断書を“病死”に書き換えるためだ。


そして――海に打ち捨てられる。




「次、俺の番が来たら黙って見てろ」


マシロはそう言って、わざと看守長を煽った。


怒号が飛び交う。

そして拳が飛ぶ。


俺の顔面へ一発。


だが、軽い…軽過ぎる。


拍子抜けするほど、軽かった。


そこに命の重さなど一片も無かった。


「あ?」


殴られたはずなのに、痛みがない事に違和感を感じた。


それどころか、悲壮感まで出た。


――ああ、そうか。


思い出した。


俺は。


物理法則を踏み潰す身体強化だけで、前の世界を滅ぼした存在。


破壊帝。

人類初の魔王。

最凶の男。


「じゃあ、やっちゃっていいよな?」


次の瞬間、左手は空を切る。


看守長は“存在していた痕跡”だけを残して、消えた。  


ワンパンである。


血も悲鳴もなかった。


ただ、床がひび割れ、空気が震えただけ。


そこに存在したのは、静寂。


囚人たちが、息を止めてこちらを見ているのを感じた。


マシロは、ゆっくりと立ち上がった。


「さて」


唇に、薄く笑みが浮かぶ。


「蹂躙、始めようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る