最後のキスは雨の味

タイヨウ

最後のキスは雨の味


 雨の日、私たちは部室でキスをする。

 始まりがいつだったかは覚えていない。ただ偶然、お互いその行為に興味があっただけ。

「……なんか味する?」

「んー……特に何も」

 「初めてのキスはレモンの味」、なんてよく言うけれど、そんなことなかった。

 でもお互い嫌な気はしていなかった。

 他の部員にバレないようにキスする、だなんてなんだか背徳感があって面白かったのだ。

 今日も、部室の窓には雨が打ちつけていた。

 私たちは唇を重ねた。

「今日はなんか味する?」

 何度も同じことを聞いてくるので、私はまた同じことを返す。

「んー、別に何も」


 雨は今日も降っていた。窓に残る雨粒の向こうの景色が歪んだ。

 肩に手を置いて顔を近づける。

 唇が触れる。

 そして、離れる。

「……今日はなんか味した?」

 また同じことを聞いてくる。だから、私はまた同じ言葉を返す。

「うーん……何にも」

 至っていつもと変わっていないはずだった。

 なぜか、泣きそうな目と、目が合った。

「は?え、なん…は?なんで泣いてんの?」

「……あんたとのキスは、いろんな味がする」

 チョコの味。りんごの味。いちごの味。

「でも、でも…!あんたは…」

 ついに目から涙がこぼれ落ちた。抑えていた感情が溢れるかのように次々と流れていく。でも私は、何を言っているのかよく分からなかった。

「……私とキスしたって、あんたは何にも思わないんでしょ」

 その目は真剣で、それでもまだ、顔には涙の跡が残っている。

「……今日は、雨の味がした気がする」

 最後に意味不明な言葉を呟いて、部室を出て行く。

 バタン、といつもより乱暴に、大きな音を立てて扉が閉められた。

「……はぁ?何あいつ…?」

 ポケットからガサガサと飴を取りだす。

 レモン味と書かれた包装用紙が、初めてのキスを連想させた。

 窓の雨粒がツー、とガラスを滑る。湿気の残る空気の中で、今日のキスの味を思い出す。

 ガリ、と口の中でレモンの飴を噛み砕く。

 雨はまだ、降り続ける。

 チャイムの音が、無感情に一人の部室に響いた。

 雨の味はまだ分からない。それでも、湿った空気の中で、今日のキスの味だけが胸に残った。

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最後のキスは雨の味 タイヨウ @taiyo0607

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