スタジオに返すな!

紅鷺える

スタジオに返すな!

 歯磨き、着替えを早々に済ませ、七時前には家を出る。

 理由は至ってシンプル、そうでもしないと学校に遅刻するからだ。しかも片道四十分の道のりを攻略するのに、移動手段が自転車しかない。両親は僕より早い六時には家を出るので、頼れるのは愛車と自身の脚力のみである。


「さみぃ〜……いや、最高気温が二度て。寒すぎやろ」


 このシーズン、外が寒ければ連動して家の中も寒い。なんなら外より寒い時も。

 現に遅刻ギリギリラインである七時まで、テレビで天気予報を見つつ、こたつの中で一生くねくねしている。二つの点で区切られた数字の左側が『6』から『7』へと変わりやがった瞬間、僕は即こたつの電源を切っ楽園にさよならして、学校へと向かわねばならない。


 こたつの布団を湯船よろしく肩までかけて、テレビを注視する。僕が今欲しい情報は地元の気温と降水確率、そして明確な現在時刻のみ。

 お天気お姉さんのビジュは二の次である。天気予報自体は毎日のように確認しているが、その読み手の顔はロクに見たことがない。声は好き寄りかも。


「あ、予報終わった! ヤバいもうくるじゃん! スタジオに返すな!」


 お姉さんがスタジオにお返しすると、そろそろ七時台に突入するサイン。毎朝このタイミングで一日を……主に登下校でのチャリンコタイムを乗り切る覚悟を決める。

 さあ、あとは表示された時計に従うのみ。MCも進行役のアナウンサーの名前も知らない。ゲストに誰が来ているのかなんて、知るよしもない。


 ――そして、その瞬間はやはり訪れる。ついに『7:00』の表示がされたのである。僕はこたつの電源を切り、代わりに今日一日を強く生きるためのスイッチを入れる。

 テレビも消し、忘れ物、自転車の鍵、その他もろもろの確認も完了!


「……いってきます!」


 もう誰もいないリビングにそうつぶやいて、震える手で鍵をかける。


「さっむいなぁ……ああもう、サドル凍っとるやん!」


 さすがは最高気温二度。楽はできないことを悟り、立ち漕ぎで登校するのだった。

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