あの日の記憶
朝から雨。
予報より、少し早かった。
彼女は支度をしながら、
何度も窓の外を見ていた。
「雨、降ってるね」
それから、少し間を置いて、
彼女は言った。
「ね、あなた」
声は、いつもより低かった。
「本当に、大丈夫?」
すぐには、何のことかわからないふりをした。
彼女は続ける。
「私はさ」
「自分の人生に、
ずっと付き纏わされてるあなたが、
かわいそうで仕方ないの」
窓の外を見たまま、
彼女は言った。
「あなたは、
私を見捨ててもいいんですよ」
「だって、
あなたはあなたの人生を、
生きるべきでしょ」
しばらく、雨の音だけが続いた。
僕は、
玄関で靴を履きながら言った。
昨日も話したけど、
もし悪い結果でも、
君を見捨てることはない。
最後まで、諦めない。
「その代わりさ」
僕は、振り返って言った。
「泣かないで」
「できれば、
笑っていて欲しいだよ」
彼女は、
一瞬だけ困ったように笑って、
「……ずるい」と言った。
傘は一本だけ持って、
僕たちは家を出た。
雨は、
そのあともずっと降っていた。
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