真冬の赤とんぼ

楼きがり

茜色の空の下、四角いビルの上で

「赤とんぼって童謡あるじゃん」


「あーうん、あるね。あれでしょ、『ゆうやぁけこやけぇの赤とんぼぉ♪』ってやつ」


「そうそれ。俺、小さい頃嫌いだったんだよ」


「は?なんでよ、別に嫌いになる要素なくない?」


「あーいや、今のは語弊があった。嫌いとかじゃなくて、怖かったんだよ」


「怖い?子ども向けの童謡が?」


「うん。別に曲調は好きなんだけどね。問題は歌詞のほう。例えば一番の『おわれて見たのはいつの日か』とか、赤とんぼの大群に追われてる描写を想像しちゃうんだ」


「あー、なるほど」


「あと、『まぼろしか』という現実かどうか区別できない不安定さも、『絶えはてた』という言い表せない絶望感も相まって恐ろしかったんだ」


「確かに。でもね、それ本当は」


「知ってる。全部小さい俺の勘違いだったんだよ。

昨日、ノスタルジーに浸る的な感じでふと聴きたくなってさ。

柄にもなく涙が溢れてしまったよ」


「驚いた。万年枯れてた君の涙腺がまた潤うとはね」


「俺、一応人間だからな?

…それで、この歳になってやっと、この歌の本当の意味に気づいたんだ」


「本当の意味?」


「ああ。表面だけを汲み取れば、『幼少期を懐かしむ哀愁感』と『両親、姐や、里と別れる寂しさ』を表しているんだと思う。

…だけど、これだけを作詞者は伝えたかった訳じゃないと思うんだ」


「…君の言いたいことは、なんとなくだけど分かる気がするよ」


「そうか。

…俺ん家、母子家庭でおまけに一人っ子でさ。

実家はドがつくほどの田舎で周りは娯楽の一つもねぇ。

だけど、今度久々に訪ねてみることにするよ」


「…きっと、お母さん喜ぶと思うよ」


「そうだな…そうだといいな」


「…あ!赤とんぼだ!」


「ばーか、ありゃ夕日で染まった飛行機じゃねーか。あと真冬に赤とんぼなんて飛ぶかよ」


「あはは!真冬の赤とんぼだ!」


「…たく、お前というやつは」

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真冬の赤とんぼ 楼きがり @takadono-Kigali

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