三世紀離れた二人の約束
春瓜れい。
第1話 出会い
運命の人……
誰しもが一度は耳にする言葉だと思う。
私はその運命の人を見つけたい。
なぜなら母がよく私に言い続けていた言葉だからだ。「運命の人を必ず見つけて幸せになりなさい」と。
しかし今、この地球に母はいない。
数年前に重い病で帰らぬ人となり、あの日々は無くなってしまったのだからだ。
私はなんとしても母との約束を、運命の人を見つけるという約束を守りたい。そう思い、東京に行くことにした。
行くと言っても三日間だけの旅行のようなものだ。その期間で探すという無理難題を私は賭に出た。きっと運命の人に出会うと……
実は私は初めての東京だ。なぜなら私は神社暮らしで一度も県外に行ったことがない。だからこそ運命の人に出会うと信じている。
そう思い、私は自分の部屋できれいに掃除してある畳の床に置いてあった古びたかばんに荷物をもうこれ以上入らないくらいいっぱい詰め、かばんを強く引き上げた。
「よし、これからどんな人に出会えるか楽しみだ!」
私は自信に満ちた表情を浮かべ、古いふすまを開けた。ふすまはギシギシと音を立て、スムーズに開かないが、慣れたものだ。
寒い吹雪が降る中、私は鼻歌を歌いながら雪を蹴るように歩き、一歩一歩をゆっくりと進んでいった。
きっと大丈夫、そう確信していた私は思いもよらなかっただろう。運命の人は意外な人だったことを。
ーーー
午後一時半。東京駅に着き、溢れるばかりの人に驚きを隠せなかった。私の知っている田舎の駅とは想像がつかないからだ。
東京にこれほどにも人がいるとは思うわけがない、私は右手で頭をつかむように頭を抱える。これでは誰が運命の人か全く分からない。
でも、せっかく来たものだ。とことん探して探して探しまくる。そう私に鼓舞を打った。
私は目頭に力を入れて、辺りをじっと見渡す。きっと心に響く人がいるはずだと、そう信じて前へと進んだ。
十キロ近く歩き、スクランブル交差点までたどり着いたが誰一人、運命の人と思える人がいなかった。そのとき、足にチクチクと痛みを感じた。さすがに十キロ近く歩くと足に針が刺さるような激痛が走る。
私は少し休める場所を探そうとしたその時、一人の男性に声をかけられた。
「すみません。」
私が振り返るとそこには一人の青年が立っていた。その容姿は私よりも背が高く、金色の髪が日差しによく反射している。
私はじっと相手をにらみ、相手に聞いた。
「誰ですか?道案内なら私は分かりません。他を当たってください。」
そういうと彼は笑みがこぼれ、こちらを見つめた。「道案内?えっと……僕は道には迷ってはいないよ。」と、私に話した。
それを聞いた私は不思議に思い、さらに彼に聞いた。「じゃあ何のようですか?私は忙しいんですよ。」
すると彼は真剣な表情で、
「忙しくても聞いてほしい。僕は三世紀先から君を見つけに来たんだよ、あすか」自分の名前を聞いた瞬間、背筋に冷風が吹くように寒気がした。
自分の名前を言われるとは全く思っていなかったからだ。そもそも、三世紀先というのも何を言っているのか分からない。格好いいと思っているのか本気なのか。
「なんで私の名前を知っているのですか?」私は不思議に思い、彼に聞いた。
すると彼は苦笑いを見せて、私に近づいた。
私は怖さを感じ、警戒して彼を見ながら少し後ろに引いた。
「僕は昔、君のお母さんに会っている。そして君に会って結婚をすると彼女と約束をしているんだよ。」
母と会っている?私はそう思った。なぜなら母は私が物心つく前に亡くなっている。
そんなことがあり得ないからだ。
「いい加減な事をいっても私は結婚しません!忘れてください。」
そういい、私は振り返り、信号を渡った。
もうあのようなナンパには関わらないようにした。その方が自分の身のためだ。
ーーー
宿泊が出来る所を探して一時間、さすがにもう限界がきて、近くにある公園で一休みすることにした。
ベンチに腰を下ろし、夕方にもかかわらずお昼に食べるはずだった弁当を開け、一人静かに食べた。冬の寒さと冷えたおにぎりの冷たさに涙がこぼれた。
「こんなにつらい思いするなら探さずに神社の手伝いでもすればよかった。」
中の具材の昆布を弱々しく噛み砕き、涙を流しながらごくんと飲み込んだ。
私がベンチから立とうとしたら、声をかけられた。
「ねえ、君一人?俺と遊ばない?」
前の男性とは違う、危険な香りが漂う黒髪の男性だった。
「別に、私はもう行かないといけないので。」そういい、離れようとしたとき、後ろから腕を捕まれた。
「そんなこと言わないでさ、素直に聞きなよ、かわいいんだからさ」
全力で振り払おうとするが、体格が違うため、離れることが出来なかった。
「離して」
そう言っても離してはくれない。
涙が再びこぼれ、諦めようとしたとき。
母の顔が頭によぎった。
(お母さん、助けて!)
そう思った瞬間、怒鳴り声が聞こえた。
「おい!お前、何してるんだ!」
振り返るとそこにはスクランブル交差点で出会った不思議な男性だった。
「やべ、彼氏かよ。逃げろ!」
そう言い、黒髪の男性は私の手を離し、慌てて逃げていった。
「えっと、ありがとうございました。」
私はうつむいて、はにかむ表情で感謝を伝えた。
「別にいいよ、困ってる人がいたら助けるのは当然だからな。それよりもお前が無事でよかった」
まだ付き合ってもないのに、まるで彼氏のような感覚で私の頭をなでた。
普通なら嫌だけど、なんだか彼には不思議と嬉しかった。もしかしたらこれが運命の人なのかも知れない。
でもまだ確信が持てない。
「本当に私の母に出会ったのですか?」
そう私が彼に聞くと、彼は頭をポンポンと優しくたたき、優しい表情で私を見た。
「お前のうちに行ってみたら分かるかもな」
そう言い、地面に落ちて泥だらけのかばんを拾い、私に渡した。
「……ふふ、拭いてから渡してよ。」
すると、彼は少し考えて焦りの表情を浮かべた。
「やっべ!ごめん気づかなかった。」
私は思わず腹がよじれるほど笑い、しゃべれないほど笑い続けた。
彼は慌てふためいて、辺りを見渡した。
「あはは、面白いね。こんなに面白い人初めて出会った。」
私はなんとか言葉に出来るくらいの口調で彼に語りかけた。
私たち二人は公園で真冬の寒さを忘れるくらい笑い合った。
「そういえばさ、名前は?聞いていなかったからさ。」
私は彼に聞いた。
名前もなしにこんなに笑っていたのだから。
「僕?僕の名前はまもる。梅田まもるだよ」
まもるという言葉を聞いたそのとき、私は母の言葉を思い出した。
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