貴方は「星が見たい少女のゲーム」を知っていますか?

おやさいたべてね

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 最近、と言ってももうすでにだいぶ前なんだけれど、僕がよく使っている、ほぼ日常の一部と言っても過言ではないSNSで自分がフォローしていない誰かの投稿も見られる機能がついた。


『邪魔な機能だ』

『見たくない投稿が見えて不快だ』



 ──なんて言っている人も見かけるが、僕は暇つぶしに誰かしらの言葉や画像が見られるので重宝していたりする。

 わざわざ探しに行かなくて良いのもありがたい。

 しかしこの機能は、一度更新をすると多くの新しい投稿が現れるため、それまで画面にあったものは波に攫われるようにして消えてしまうのである。

 分かりやすく言うと、「おっ、これは面白そうだな」と思った投稿が、うっかり更新してしまうとたちまちどこかへ流れて行ってしまい、二度と読めなくなる。

 ――あっ、読みたかったのに!

 そんなことを思って、必死にその投稿を検索したりして探そうとするけれど、運良く見つけられることのほうが少ない。

 人の記憶というのはそんなものだ。見かけた投稿の言葉を思い出して打ち込んでみても、該当のものは見つからないことの方が多い。

 

 そんな機能で、先日、僕はとある投稿を見かけた。


 個人でゲームを作ってます。星が見たい少女のゲームです。よろしくお願いします。

 誰かに見られたらいいな。


 文章はこんな感じだったと思う。何分、当たり障りのない文章すぎて、あまり覚えていない。それよりも四枚、開発中のゲーム画面の画像が掲載されており、そちらの方が僕の興味を引いた。


 一枚目は、操作キャラっぽい女の子が学校を移動している画像。

 二枚目は、屋上でその女の子が立っている画像。

 三枚目は、夜、電柱の下で黒い影がぼんやり映っている画像。

 四枚目は、玄関と靴の画像。


 どの画像も粗いポリゴンで、あの頃を思い出させるノスタルジックなものだった。

 僕はいわゆるPS時代の人間で、「学校であった怖い話」や「夕闇通り探検隊」、「トワイライトシンドローム」、「クロックタワー」なんかをプレイして育ったものだから、その画像がとても魅力的に見えたのだ。

 もちろん急いで投稿主のアイコンをタップし、アカウントへ飛んでフォローをしようとした。けれどすぐにSNSが更新されてしまい、その投稿はどこかへ消えてしまったのだ。

 これには心底、がっかりした。それなりの時間、検索画面と格闘して探したのだが結局、見つからずじまいだった。


 個人制作のゲームは完成までがとても長いことが多いし、僕だって完成する頃には忘れている可能性がある。だからこそ、フォローして進捗を追っていたかったのだが、それも出来なかった。残念で仕方がない。


 もし、この文章を読んで「知っている」という方がいれば詳細を教えてほしい。出来れば、制作者のSNSアカウントも含めて。




 ◆




 友人にこの間、見失ってしまった制作中ゲームの投稿のことを話すと、なんと彼もそのゲームの投稿を見かけていたらしい。けれども友人は、僕と違う投稿を見ていたようだ。


 ゲームの冒頭を文章にまとめたものと、いわゆるスタート画面の画像が一緒になった投稿らしかった。

 うろ覚えで申し訳ないが、と先に述べたあと彼は僕に冒頭の文章を共有してくれた。

 細かい部分は違うだろうが、このような内容だったらしい。


 その少女にとって、夜はとても恐ろしく、一刻も早く過ぎてほしい時間だった。得体の知れないものから逃げることに必死だったから。

 いつからこんなことになったのだろう? 昔は、夜が大好きだった。綺麗な星空を見上げていたというのに。

 毎日、何かに終われている。夜、振り向くと必ずいる黒い影。

 どこまで逃げても、追ってくる。



 ――いわゆる「逃げゲー」というものだろうか?

 ちなみにスタート画面は、夜空を背景に、「続きから」「初めから」「設定」という最低限の選択肢があったそうだ。そこにタイトルでも載っていれば良かったが、なかったとのこと。


 しかし、この冒頭であれば僕が見た画像とも辻褄が合う。

 僕はこのゲームを、夜は得体の知れぬ怪異から逃げ、昼間は学校生活を行う、日常と非日常を行き来するという内容のものだと予想した。――益々、興味がわいた。


 もっと情報がほしい。誰か、知っている人がいたら是非、連絡をくれると嬉しい。




 ◆




 毎日、時間さえあればあのゲームとその制作者について検索していた。それなりの情報は揃っていると思うし、これで見つからないというのは可笑しな話だ。いっそ自分の幻覚か、夢だった方が納得できる。

 しかし僕だけではなく、友人もそのゲームについて知っているというのが僕に無駄な希望を持たせた。

 このゲームは僕の頭の中だけでなく、友人の頭の中にも存在している。幻覚や夢ではないという、裏付けがされているのだ。

 しかし、ふた月ほど経ってもそのゲームは見つからない。自分のSNSアカウントでも呼びかけたが、元から拡散力の低いアカウントだったため、ちっとも見られずに終わった。


 しかし、三ヶ月ほどたった今日。

 とあるダイレクトメールが僕のアカウントに送られてきた。


『そのゲームの制作者と友人の者です。友人は、見つけてもらってとても喜んでいます。本当に、ありがとうございます』


 という内容だった。

 本当であれば、その制作者のアカウントを教えてほしいとすぐにそのダイレクトメールへ返信した。しかし、それ以降の返信はなかった。

 やはりただの悪戯だったのだろうか? 僕は落胆しながら、それでもダイレクトメールを送ってきたアカウントのページへ飛んだ。


 制作者の友人だと言うアカウントは、投稿そのものは少なかったが、少しだけ日常について語られていた。


『今日は、友達とクレープを食べに行った』だとか、『どうして池袋の東口と西口はあんなに分かりにくいトラップがあるの!』だとか、本当に日常のひと欠片が散らばっているだけで、とてもではないが僕に悪戯を試みるような人間の投稿ではなかった。

 そして最新の投稿は、文章のない夜空を映した写真の画像だけ。


 ――星が見たい少女のゲームです。

 僕はその時、あの投稿にあった文章を思い出した。


 何かが繋がりそうな気がして、慌てて友人に電話で相談した。すると、こんな言葉が返ってきた。


「俺、制作者のアカウントを見つけたよ」


 なんと。僕は早く教えてほしいとせがんで、少し言い辛そうに教えてくれた。

 探していたアカウントは確かに存在した。僕らが見かけた画像や文章もあったが、それ以上にそのアカウントには写真の投稿が多くあった。どの写真も暗闇を何もない撮っており、投稿文章は「いる」だけ。


 アカウントは誰もフォローしておらず、フォロワーは七人。

 最新の投稿は、昨日だった。その投稿も、ビルとビルの間の暗闇を撮った画像と、「いる」という言葉のみだ。

 何が「いる」のか。そしてそれは、制作中のゲームを思い出させた。


 僕は駄目元で、このアカウントのIDを添えて、ダイレクトメールをくれた制作者の友人と言う人にメッセージを送った。


『何度もすみません。このアカウントは、友人さんのものでしょうか? この「いる」というのはどういった意味かどうしても気になってしまいました。教えてくれませんか?』


 ゲームを売るためのマーケティング活動であれば、それでもいい。

 祈るように返信を待っていると、翌日の昼頃に、スマートフォンへ通知がきた。



『いると気付いていただけて幸いです。友人はいると、あなたはそれを知っている。それだけで、彼女はまだこの世界にいることができるんです』


 奇妙な文面だった。けれど、僕はその文章を読んでから、吸い寄せられるようにあの奇妙なアカウントをフォローしていた。

 何故か自分は、このアカウントを、彼女を、知っていなければならないと強く思ったからだ。どうしてかは分からない。まるであの文章に、洗脳でもされたようだった。


 それからというもの、僕のSNSには毎日、暗闇の画像が流れている。たまに、制作中のゲーム画面も流れてくるが、その画面に僕の家の部屋のような場所があるような気もしたがそれは気のせいだろう。

 彼女は確かに存在していて、暗闇に何かもいるのだ。それだけで十分な気がした。

 もう、ゲームのことなんてどうでも良かった。



 僕はたまに、夜空を写真に撮って、SNSへ投稿するようになった。もしかしたら、彼女に届くかもしれないと思って。

 友人にこのことを話すと、同じようにアカウントをフォローし、同じように夜空の写真を撮っているという。

 そうしてじわじわと制作者のアカウントは、フォロワーを増やしていっている。いつかこのSNSが夜空でいっぱいになりますように。彼女の存在を、みんなが知り得ますように。


 得体の知らない影なんかに、負けないで!


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