この物語は、歌から生まれた
忍忍 @SAL室長
一曲目 Secret of my heart
00
誰だって逃げたい時もあるけれど
それだけじゃ何も始まらない。
01
私は決めていた。
ここでレヴィとはお別れしなきゃ。
胸の奥が、ずっと痛い。
でもこの痛みは、想定内。
それがどれだけレヴィを傷付けるとしても。
どれだけ、私自身を切り刻むとしても。
だって、そうでもしなきゃあなたは私の隣に立とうとするでしょ?
止めても、拒んでも、怒鳴っても、泣いても。
レヴィは必ず、私の前に立つ。
レヴィ、あなたは私のことをよく知っているから。
そして私は、あなたがどういう人なのかを知っているから。
だからこそ、私はこの場所でレヴィを待ってる。
逃げるなら、背中を向ければいい。
でも私はそうしない。
ここで、ちゃんと目を見て、言葉を交わして、
それが、私の選んだやり方。
雲一つないいい天気。
皮肉なほど、気持ちがいい。
風が頬を撫でる。
少し冷たくて、心地いい。
賑やかな街から少し離れただけで、
こんなにも穏やかな場所があったなんてね。
空気は澄んでいる。
でも、いつもより重たい。
魔力が落ち着かない。
私の内側で、何かがざわついている。
それでも私は、街がある方に背を向けて深呼吸をした。
振り返らなくたって、わかる。
——来た。
「……タニア」
名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がきゅっと痛む。
反射的に、肩が強張る。
走ってきたんだよね。
そんな、もう無茶がきかない身体で。
その目は、もうほとんど見えてないくせに。
それでも来る。
止まらない。
そういう人。
「来たんだね、レヴィ」
できるだけ平坦な声で。
優しくもしない。
冷たくもしない。
感情を乗せないことが、今の私にできる精一杯だ。
足音が近づいてくる。
まだ少し遠い。
焦っている足音。
呼吸が乱れているのが、音だけでわかる。
私は、ゆっくりとレヴィの方を振り返った。
目が合う。
——もう、そんな顔しないでよ。
その顔を見るだけで、わかってしまう。
レヴィは、もう半分、追いかける覚悟を決めている。
レヴィはもう気付いてるんだよね。
私がこれから何をしようとしているのか。
私が、どうしてこの道を選んだのか。
それでも聞くんだよね?
確認しないと、踏み出せないから。
「……どこ、行くんだよ」
低く、掠れた声。
何かを押し殺している声。
また胸が痛んだ。
でも、それでいい。
これは私が背負うって決めたものだから。
「七竜に加わることにしたの」
言葉を置く。
落ち着いた声だったと思う。
ここに来る前に、何度も練習した言葉。
噛み砕いて、整えて、感情を削いだ言葉。
震えてないよね。
大丈夫だよね。
うまくやれてるよね?
「私のためなんだろ? 私の身体が、もう長くは保たないって……ミーシャに言われたからなんだろ」
一瞬だけ、まつ毛が揺れた。
やっぱり、バレてるよね。
でも、もう関係ない。
「私がやりたいと思ったことなの。レヴィのためじゃないよ。これは私のため」
嘘じゃない。
でも、真実でもない。
「だったら! どうして何も言わずに出て行こうとしてんだよ」
声が荒れる。
わかってる。
怒ってるわけじゃない。
ただ、怖いんだよね。
置いていかれるのが。
うん。
私にも、痛いほどわかる。
「タニアが行く必要ねえだろ……」
私は小さく息を吐く。
ため息か、諦めか、覚悟か。
きっと、全部。
「ううん。私が行かなくちゃ」
言葉を選ぶ。
「レヴィ、あなたのことは……私が守るから」
お互いに何度も言ってきた言葉。
お互いに何度も信じてきた言葉。
ずっと、私を支えてきてくれた言葉。
——ごめんね。
「守る?」
レヴィが顔を歪めて笑う。
乾いた声。
「タニアが私を守る? 今の私は、そんなに弱く見えてんだ? 私はもう、何も知らない子どもじゃない」
「うん、知ってるよ」
即答する。
これも、準備してきた答え。
「だからこそ、よ」
私は続ける。
「レヴィはさ……誰かを守ろうとする時、その中に自分を入れないでしょ?」
褒め言葉じゃない。
隣で見てきたから、わかる。
視線を左に泳がせる癖。
図星を突かれた時の癖。
子どもの頃から、変わってない。
「それの何が悪いんだよ……私は強くなった。だから、私が守らなくちゃ……」
「ふふ……悪くないよ」
私は笑った。
「そういう選択をするレヴィが、私は大好き」
これは嘘じゃないよ。
私の本心。
「でもね、悪いのは……それを積み重ねた先にある未来なの」
まっすぐ、目を見る。
「今のままじゃ、レヴィ……消えちゃうよ」
レヴィが一歩、踏み出す。
距離が縮まる。
説得しようとする時の動き。
でも、引かない。
引いてなんかあげない。
「タニア、私は消えねえよ」
「ううん、消えちゃう」
迷いなく言う。
誰かのために戦って、誰かのために傷つくレヴィをよく知ってるから。
「なんで信じてくれねえんだよ!」
「信じてるよ」
泣かないで、レヴィ。
本当だよ。
信じてる。
信じてるからこそ、
あなたが何を選ぶかが、わかる。
「信じてるから……だから、ここで終わらせるの」
終わり。
守る。
残す。
「レヴィの未来は、私が守ってみせる」
レヴィが息を呑む。
「もう、あの炎は使っちゃダメだよ?」
レヴィは俯いて、肩が震える。
「……できるわけねえだろ」
「できるよ。私がそうしてみせるから」
私はレヴィに背を向けて歩き出す。
「私が戻る場所は、残さなくていいから」
笑えてたかな。
——まだ、泣いちゃダメ。
背中越しに、熱が伝わる。
ずっと隣で感じてきた魔力。
「……行かせるかよ」
レヴィの魔力が膨れ上がる。
優しいくて力強い、私が憧れたレヴィの魔力。
「ごめんね」
全部に対して。
私は振り返って、もう一度だけレヴィを見る。
まっすぐな目。
燃え上がる炎。
誰よりも優しい、私の家族。
「タニア……行かせない」
「じゃあ、止めてみる?」
そうだね、言葉を尽くしても止まらないのは、同じだよね。
私も、レヴィも。
「負けても泣かないでよ? レヴィが思ってるより、私って強いんだからね?」
「……んなこと知ってる。でも、行かせねえ」
格好いいなぁ。
「そっか。じゃあ最後の勝負……だね」
「気絶させてでも止めてやる」
私が七竜の加わること。
それがなにを意味するのか、レヴィはちゃんと理解してるんだね。
たくさんの戦いに参加して、命を奪うこともたくさんあると思う。
でも、いいの。
私ね、今日までずっと幸せだった。
辛い別れもあったし、癒えない傷もたくさん背負ったね。
でも、隣にレヴィがいてくれたから。
私はここまで歩いてくれた。
だから、今度は私の番なの。
レヴィの身体に宿った白い炎が、レヴィの命を削ってるって知った時、自分の無力を呪った。
何が天才よ。
何が聖属性よ。
私には、大切な家族を守る力が何もないって。
でも、ミーシャさんが教えてくれたの。
過去に聖属性の力を完全に制御して、その極地に至った勇者がいたって。
その記憶を、私なら読み解くことができるって。
レヴィの身体を治す魔法は、ない。
でも、聖属性の【回帰】の特性を制御できたら。
レヴィの削られたものを、私が元に戻せたら。
私は、そのためだったらなんだってする。
ねえ、レヴィ。
今ね、私……何も怖くないの。
私が一番怖いのは、レヴィを失うこと。
でも、その未来を壊すために、私にできることが残ってた。
迷う理由なんて、なかった。
レヴィは、いつだって誰かのために戦う。
どれだけ困難な状況でも。
どれだけ傷を負っても。
でも、それで救われた人たちは、レヴィが何を失っていっているのかを知らない。
何も知らないまま、今日も笑ってる。
こんな世界で……。
理不尽で、救いがなくて。
傷だらけの世界。
それでも、こんな世界より、私にとってはレヴィの方が大事なの。
レヴィが守ろうとする世界は、レヴィのことを守ってくれない。
だから、私が守るの。
––––だから、こんな世界は私が壊す。
「レヴィ、今でも……戦うことは好き?」
レヴィの顔が一瞬引き攣るのがわかる。
前は、笑って即答できてたのに。
それだけたくさんの命が散っていくところを見てきたし、それだけたくさんの想いを背負ってるもんね。
知ってるんだよ。
私だって、一緒に背負ってきたから。
「少し、休もう? 十分、レヴィは頑張ってきたよ」
言葉とは裏腹に、私もレヴィも戦闘態勢をとる。
もうお互い言葉は尽くしたからね。
だからこれは、最後に覚悟を見つめ直す時間。
「目も霞んでるんでしょ? 魔力の操作だって、思うようにいかないんだよね?」
「……」
知ってたよ。
一人で抱え込んで、ずっと苦しんでたこと。
あの日、クロノスさんが姿を消してから、その症状は加速した。
私も皆も、あちこち探し回ったけど、結局クロノスさんは見つからなかった。
怖かったよね。
苦しかったよね。
でも、レヴィ。
ちゃんと周りに目を向けて。
あなたは一人じゃない。
カエルムもフリージアも、ミゼルもいる。
それだけじゃない。
レヴィは、たくさんの人の心を灯して、繋ぐ人だから。
「私はここでレヴィを倒して、私の道をいくよ」
「だから……行かせねえって言ってんだよ!」
ありがとう。
私のために泣いてくれて。
ありがとう。
私のために怒ってくれて。
レヴィは私の中で、何よりも大切な人。
さよなら。
大好きなレヴィ。
この物語は、歌から生まれた 忍忍 @SAL室長 @nin-nin28
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