天気去報

ritsuca

第1話

「なぁ、この日の天気、わかる?」

 唐突に福島が言い出したのは、台所に並んで食器を洗っている最中だった。

 寒い時期は鍋に限る。そして、鍋は一人でつついても面白くないし美味しくない。と福島が言い出したので、年明けから連日、二人で夕食を食べている。

 思うところがないではないが、身体は温まるし、乾燥しがちなこの季節に鍋の蒸気はありがたい。ひとりで食べるよりも様々な食材を入れられるのも良い。言い訳を並べ立てて今日も美味しく食したところに、この問いかけである。

 隣の福島を見ることもなく、宮城は即答した。

「この日って、どの日。というか俺は医者であって気象予報士ではないんだが」

「医者でなく認識者としての見解を聞きたいんだよなぁ」

「そっちか」

 頷いてゴソゴソとポケットを探る隣を見るともなしに、小さく嘆息する。

 宮城の本業は町医者だ。一方、福島は探偵を生業にしている。と言っても派手な事件というものはそうそうなく、日常の中の違和感を明らかにするような依頼が殆どらしい。

 そのような依頼の中で、いくら証拠を集めても確証が十分に得られないとき、福島は文字通り、今日のように宮城の力を借りようとする。力というのは『認識者』としての能力で、腕力ではない。

 認識能力にもいくつか種類があり、宮城は残滓――物に残された想いや記憶を読み取るのに長けている。この能力は、福島の探偵業と相性が良かった。

「そっち。これが落とされた日の天気を知りたいんだ」

 これ、と差し出されたのは、透明なチャック付き袋に入った髪留め。宮城はこれまで使ったことがないが、髪留めはそんなに簡単に外れるようには身に着けないものである……筈だ。ということは、これが落ちるということは持ち主に余程のことがあったのか、それとも。

「ふーん……わかればわかる。わからなかったらわからない」

「つまり、いつも通り、ってことだな。それなら頼むわ」

 思案を巡らせた宮城の答えに、助かった、と福島は先ほどの髪留めをポケットに仕舞う。

 いつも結局この流れで、宮城は福島の頼みを断れない。これで今日も寝るのが遅くなる、と宮城は頭の中でこれから明日朝までの段取りを考え始めた。

「洗い物が先」

「あいよ」

 これも拭いて、と渡された皿を受け取って、福島はにこりと笑った。

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