『読心』スキル覚醒 ~俺を追放したSランク美女たち、全員内心では俺を溺愛していた(しかも重い)~

仙道

第1話:追放と、空腹と、青い果実

「ナオト、お前は今日でクビだ」


宿屋の一室に、氷のように冷たい声が響いた。 声の主は、Sランクパーティー【聖女の加護】のリーダーであり、剣聖の異名を持つユリだ。銀色の髪をポニーテールにまとめ、切れ長の瞳で俺を見下ろしている。


「……え?」


俺は間の抜けた声を出すことしかできなかった。 テーブルを囲んでいる他のメンバー――魔法使いのルナ、斥候のミオ、聖女のアイリスも、無言で俺を見ている。誰も助け舟を出そうとはしない。


「聞こえなかったか? お前はもう不要だと言ったんだ」


ユリは淡々と続ける。


「お前には戦闘力がない。魔法も使えない。ただ荷物を持ち、雑用をこなすだけだ。Sランクの領域に踏み込む我々にとって、お前のような非戦闘員を守りながら戦うのはリスクでしかない」

「で、でも、俺だって荷物持ちとして……」

「荷物ならマジックバッグがある。雑用ならギルドの職員を雇えばいい。お前である必要性がないんだ」


ぐうの音も出なかった。 俺は異世界転移者だ。だが、転移特典のようなチートスキルは何も持っていなかった。剣の才能も、魔法の適性もない。 それでも、彼女たちが拾ってくれたから、必死に食らいついてきたつもりだった。装備の手入れをし、野営の準備をし、食事を作り、彼女たちが万全の状態で戦えるように尽くしてきたつもりだった。


「荷物をまとめて出ていけ。手切れ金だ」


ユリが革袋をテーブルに放り投げる。チャリ、と重い音がした。


「……分かった」


俺は短く答え、金貨の入った袋と、自分のわずかな荷物を掴んだ。 これ以上、何を言っても無駄だということは、彼女たちの目を見れば分かった。俺を見るその目には、一切の感情がなかったからだ。


部屋を出る時、背中に視線を感じたが、振り返ることはしなかった。



街を出て、あてどなく歩いた。 手切れ金はあるが、この世界でスキルなしの人間が生きていくのは容易ではない。宿に泊まれば金はすぐに尽きる。まずは、金をかけずに食料を確保する必要があった。


「腹減ったな……」


森に入って数時間。獲物は見つからない。 俺には狩りの技術もない。斥候のミオがいれば、一瞬でウサギの一匹でも仕留めてくれただろうが、今は一人だ。


日が傾き、森の中が薄暗くなってきた頃、岩肌にぽっかりと口を開けた洞窟を見つけた。 今夜はあそこで野宿するしかないか。


洞窟の中は湿っぽく、カビ臭かった。 奥へ進むと、岩の隙間に奇妙な植物が生えているのが見えた。 葉はなく、蔓のような茎の先に、握り拳ほどの大きさの実が一つだけなっている。 その実は、薄暗い洞窟の中で、ぼんやりと青白い光を放っていた。


「なんだこれ……」


見たことのない果実だ。 毒があるかもしれない。普通なら絶対に口にしない。 だが、今の俺は空腹と絶望で正常な判断力を失っていた。 それに、もし毒で死んだとしても、それはそれでいいかもしれないという投げやりな気持ちもあった。


「いただきます」


俺はその青い実をもぎ取り、かぶりついた。


ガリッ。


硬い。そして、強烈な苦味と酸味が口いっぱいに広がる。 決して美味いものではない。だが、水分を含んだ果肉が喉を通る感覚に、俺の体は歓喜した。 俺は夢中で実を貪り食った。


完食して、一息ついた直後だった。


「ガッ……!?」


頭が割れるような痛みが走った。 視界が明滅し、耳鳴りがキーンと響く。 胃の中で何かが暴れまわるような熱さがこみ上げ、全身の血液が沸騰するような感覚に襲われた。


(毒だったか……やっぱり……)


地面に倒れ込み、のたうち回る。 意識が遠のいていく中で、俺は最後にユリたちの顔を思い出した。 役立たずと罵られ、捨てられた惨めな最後。


(くそっ……)


俺の意識は、そこでプツリと途切れた。



チュン、チュン。


鳥のさえずりで目が覚めた。 顔を上げると、洞窟の入り口から朝日が差し込んでいる。


「……生きてる?」


俺は自分の体を見下ろした。 手足は動く。痛みもない。それどころか、昨日の空腹感も消え失せ、妙に体が軽かった。 あの青い実は、ただの滋養強壮剤のようなものだったのだろうか。


洞窟を出て、森を抜ける。 とりあえず街に戻ろう。今後のことはそれから考えればいい。


街の門が見えてきた頃、俺はある異変に気づいた。


『今日の昼飯、どこの屋台にしようかな』

『あの衛兵、また居眠りしてるよ。隊長に言いつけてやろうか』

『足が痛い。早く交代の時間にならないかな』


声が聞こえる。 それも、一つや二つではない。 門番、通りすぐる商人、冒険者。彼らの口は動いていないのに、声だけが頭の中に直接響いてくるようだった。


「なんだ……?」


俺は立ち止まり、周囲を見回した。 近くにいた商人の男と目が合う。男はニコリと笑って会釈した。


「おはようございます、いい天気ですね」


口から出た言葉はそれだ。だが、同時に別の声が聞こえた。


『けっ、貧乏そうな格好しやがって。客じゃなさそうだな』


俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。 今のは、この男の本音か?


すれ違う女性、遊び回る子供、屋台の店主。 彼らの表面上の会話と、裏腹な本音が、情報の洪水となって俺の脳内に流れ込んでくる。


『このリンゴ、ちょっと腐りかけだけど磨けば売れるだろ』

『あーあ、旦那が早く死んでくれないかしら』

『僕、本当は騎士になりたいなんて嘘なんだ』


うるさい。 うるさい、うるさい、うるさい!


俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。 これは幻聴じゃない。 俺は、聞こえてしまったのだ。


あの青い果実の影響か、それとも転移者としての遅れてきた特性か。 俺は、他人の心を読み取る力――「読心」スキルを手に入れてしまったようだった。

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