転:油断
また別の日、ヤギは今日も荷車を運ぶ。
今日は見通しも良く、雲はほとんど見当たらなかった。気持ちの良い空を鳥が群れをなして飛んでいく。――ところが。
突然、背後から荷車を飛び越えて大きな影が頭上を通り過ぎた。
オオカミだ。彼はヤギの目の前に着地すると鉄の爪をかき鳴らして勝ち誇って見せた。
気持ちの良い日だと思ったのに、突如飛び出してきたオオカミに台無しにされて不満げに鼻を鳴らした。
西にオオカミ、東にヤギが対峙する。当然、彼女の足はそこで止まった。
————メエェ……
さてどうしようか。ヤギは思案した。
このオオカミ、いったいなぜいつも自分を追いかけるのか。
————ガルルルル……ワウッ
オオカミはじっと見据え思案した。
このヤギ、いったいなぜいつも……
だが両者睨み合うその時、大空一帯に轟音が響き渡った。
何事かと見渡せば、二頭のすぐ下の地上で爆撃による戦火が上がっている。もうもうと煙が背を伸ばし、その手は二頭に届きそうなほどの高さまで上がる。
————ブーーーーーン……
接近する音にヤギが後ろを振り返った時、そこにいたのはさっき群れをなしていた鳥だった。羽ばたきもせず、宙を飛ぶ鈍色の鳥がこちらへ向かってくる。
それはあっという間にヤギの上空を通り過ぎ、オオカミの上空も通り過ぎるように見えた。だが。
鳥の腹に穴が開くとそれは卵を落としてきた。一直線にオオカミのあたまを目がけて。
オオカミはそれを目を丸くして見ていた。脳が激しく警鐘を鳴らす。『あれは当たってはならない』と、そう叫んでいる。
しかし彼は北に逃げられない。東にも戻れない。背中をくるりと向けて西か南に逃げるしかない。その一瞬の迷いが彼を窮地に陥れた。
上空より迫る鈍色の鳥の卵————万事休すと思われた、その時。
————ガラガラガラガラ!!
オオカミは前方(東)より突進してきたヤギに体当たりされ後方(西)へと突き飛ばされた。
上空より降ってきた鳥の卵は二頭の脇をすり抜け、地上へ。弾着と同時に轟音、爆炎とともに煙が膨れ上がり上空に熱風をもたらした。
突き飛ばされた衝撃で身体を横たえたオオカミは地上に目をやった後、煙幕のなかヤギを探した。彼女は少し離れたところからこちらを見ていたが、やがてくるりと背を向けて再び西に向かって走り出した。
————アオ……
遠くなる幌付き荷車の背中を見つめ、彼は突き飛ばされる直前のヤギの黄金色の目を思い出していた。今まで背中ばかりで正面から見たことなどほとんどなかった。
オオカミの狩りは失敗に終わり————彼は恋に落ちた。
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