承:突撃

 仕事に勤しむ時、必ずといっていいほど彼は現れる。その日も嫌な予感に彼女は歩みを止めた。



 ――――メェ……



 あたりを見渡す。身の安全を確認すると、再び歩き出した。しかし。



 ――――グルルルル……



 迫る息遣い、擦れ合う鉄の音、雲の切れ間より神風の如く姿を現したのは、真っ黒なオオカミだった。


 ヤギは必死に逃げた。東より西へ、南へ、西へ。

 オオカミは力の限り追いかけた。北より西へ、南へ、西へ。


 やがて二頭はいくつもの暗い色をした巨大な雲が浮かぶ森に入った。

 一気に冷たくなる空気。身体にまとわりつく湿度。低く唸る獣のような声。


 顔に当たる水の粒もいとわない。ヤギは死に物狂いで森を駆け抜けた。

 鼻をくすぐるニオイに惹かれる。オオカミは一心不乱にヤギを追いかけた。


 オオカミとヤギの差が縮まる。オオカミが脚に力を込めて宙を舞いヤギ目がけて飛びかかった。



 ――――バリバリバリ! ドオオオオン!!



 巨大な雲の獣が咆哮を上げた。オオカミは驚いて着地する。その隙にもヤギの足は止まらず、さらに力を込めて全速前進。彼女は荷車と共に森深くへと逃げていった。


 追いかけるのを諦めて立ち止まると、森中に吹き荒れる水のツブテが彼の全身を激しく叩いた。濡れそぼった身体をぶるぶると震わせる。



 ————……アオーーーーン



 苛立ち混じりの遠吠えは届かず、強い風と苛烈に打ちつける水の音にかき消された。





 オオカミの狩りは失敗に終わり————彼には悔しさが残った。

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