異世界の天気は太陽を運ぶ二頭の獣の機嫌次第
雪象
起:彼と彼女
地上から空を見上げた時、その視線の先に浮かぶのはこの世界を照らす二つの太陽。しかし彼らは只の光り輝く恒星ではない。
北から南へ横断する一の太陽、通称・オオカミの狩り。
東から西へ横断する二の太陽、通称・ヤギの荷車。
この世界の四季や天気は、太陽を運んでいるとされている二頭の彼らによってもたらされている。
これは、かつて天候が定まらないまだ黎明期だった頃、荒れに荒れた彼らのお話。
◇◆◇
――――彼は真っ黒なオオカミだった。
鋭い爪に鉄の装飾を纏う、地上を照らす第一の太陽。
深い闇の中、彼はただひたすらに歩いた。ウラ面を南から北にかけてその道は決して真っ直ぐではなく、蛇行するような道順をとりながら延々と。
それは毎夜のこと。時おり方向感覚すら失うほどの歩みの中で永遠とも思える時間を歩き続けた。
だが、その旅にも必ず終わりがやってくる。やがて北の果てに灯る薄明かりが見えた時、彼はやっと目指すべき目的地を知る。
その歩みに、迷いはない。
世界の端っこにたどり着くと、真っ暗だった足元に道の途切れた崖が姿を現す。足元は暗闇、されど崖の下は光り、その輝きを受けて崖は輪郭を見せたのだった。
崖の下を覗き込み、一歩前へ出る。落ちることはない。彼はそのまま光の中へ歩みを進めた。
崖をくだり――ある時点からのぼりに変わり――至る頂。
頂に広がる光景は、まだ藍色が残る空と白い雲だった。たゆたう薄い雲はまるでレースカーテンのようで、その隙間から明かりが差し込み彼の足元を照らす。
さらに一歩前へ。全身をぶるりと震わせて大きく息を吸った。
――――アオーーーーン……
彼には呪いがかけられていた。それは、後ろに戻ることができないというもの。ゆえに、方向感覚を失えども戻ることはなく、その足が進めるのは前と左右のみ。
もういつからここにいるのかも分からない。
かの北欧神話にある月を追いかける狼・ハティと、太陽を追いかける狼・スコルの父親がフェンリルだというのは有名な話だ。
だが、彼は自分がいつからここにいて、親がどこにいるのかも知らなかった。
鼻先をかかげて風のニオイをつかまえる。
己の生い立ちすら知らないが、行き先は知っている。彼は目指すべき場所へと、地上輝くオモテ面の空を北から南へ駆け出した。
地上を照らす
◇◆◇
――――彼女は真っ白なヤギだった。
荷車をひき、地上を照らす第二の太陽。
眼下には悠然と流れる川、風に揺れる木々、人々の営みがその大地をおおう。
オモテ面の空を東から西へ、時おり蛇行しながら雲の合間を抜けて歩き続ける変わらない毎日。
しかし彼女に不満はなかった。白い毛をなびかせて通り抜ける風が心地良く、自分の仕事にも誇りを持っていた。
この荷車に何が乗っているかは知らない。誰に届けるのかも分からない。
だがこれだけは理解している。これは、自分にだけ与えられた使命なのだと。
その歩みに、迷いはない。
――――メエェエッ……
ガラガラと音を立てる荷車。時おり聞こえる鳥のさえずり。果てしなく広がる空に永遠を感じようとも、その全てが彼女を充実感で満たした。
――――アオーーーーン……
遠くから聞こえる遠吠え。その声が届いた時だけ、彼女は歩みを止めた。
耳をすますもさっきまで聞こえた鳥の声はやんでいる。身を潜めたのかもしれない。かすかに聞こえるのは、風が吹く音だけ。
見渡す景色に変わりはない。藍色だった空は次第にハイライトの青へと変わる。薄い雲で視界が阻まれるが慎重に目を凝らしても異常はない。
彼女には呪いがかけられていた。それは、後ろに戻ることができないというもの。もしものことがあっても、もと来た道には戻れない。その足が進めるのは前と左右のみ。
地上を照らし、天命に勤しむ
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