与流と志南海 4〈天気〉

ミコト楚良

天気

 極地での観測任務も、あと3週間となった。

 この仕事は無休のようなものだから、本土に帰ったら、申請によっては1ヶ月ぐらい休暇が取れる。

 ぼくは普通通り過ごす予定だが。

「それは普通とは言わない」と、隣から横やりが入った。「まったく休みになってない。持ち帰りで仕事するじゃん」

 七尾ななおさんは、暇があると、本土のグルメアプリを検索している。「帰ったら八王子首都にラーメン食いに行く」


「いいね」

一式いっしき。ココロ、こもってねーぞ」

 

  七尾と与流よるは観測棟の屋上に上がっていた。明日辺り、ブリザード猛吹雪になりそうなので強風対策をしておかないといけない。

 機器一つ一つのネジを増し締めしておく。

 鋼板円筒形の頑丈なカバーで機器をすっぽり覆い、カバーと土台をネジで固定する。

 その前に、振動に弱い機器と風の抵抗を受けやすい部品は取り外して、室内に退避させる。

 ブリザードが通り過ぎたら、この作業を逆再生する。


一式いっしきってけっこうタフなんだな」

 一連の作業が終わって、七尾さんが首と肩をこきこきいわせた。

「ガラス細工って例えた人、いたんだけどなぁ。強化ガラスじゃん」


 思い当たることはあった。

「聴覚が人より敏感みたいで、それですかね。静かなところに配置してもらうようにしたら落ち着いたんで」


「それで極地ここかよ~。適材適所だねっ」

 


 聴覚と言っておいた。説明は単純な方がいい。

 トリュフを探しあてる豚みたいなもん? と言った同級生がいた。それは嗅覚だし。失礼な奴だと思ったけれど、それでむっとするぼくは豚に失礼だよな。

 

 違和感、圧力、振動。脅威。

 そんなものを、ぼくは人より感知できる。

 そのように品種改良された人間だから。

 人間と言っていいなら。



 


 なのに氷床が崩壊するのを検知するのが遅れた。

 いちばんに気がつかなければいけなかったのに。

 

 救助に来た飛行艇の爆音に耐え切れなかった、ぼくは気絶したらしい。

 そのとき、いろんな機能が壊れたのか、自身の防衛本能が働いてしまったのか、脳がホワイトアウトのような状態になったのだろう。



 目覚めたときに、ぼくは記憶を所々なくしていた。



 今は、本土の療養所サナトリウムに収監されている。

 病棟の窓から見える木立はハルニレだから、本土の山間だと思う。






〈参考サイト〉『南極観測観測隊ブログ』

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