第3話  始まりの村 (その3)

 この村の名は、ハルシカ村という、トルマイヤ王国の中央街道の東のはずれに位置していて、その先には隣国のキュウレイア共和国が有る。


 昔はともかく、ここ最近のトルマイヤ王国を取り巻く状況は、キュウレイヤ共和国を含めて、近隣の国々との友好的な外交とそれに伴う、良心的な交易を行ってきた関係で、この大陸の中では裕福な国の一つとして挙げられている。何故良心的と前置きしたのか? それは共に平等な関係にあると言う事だ、どちらかの国の力が増し均衡が破られると途端に高圧的な外交関係を強いて来るのが人の欲望と言うものだ、その点この近辺の国の在り様は、戦いによって国土を増やす事の無意味さを、長い戦乱を過ごしてきた中で痛感してきた反動なのだ。


 現在のトルマイヤ王国と国境を接する国は、東にキュウレイヤ共和国、南にシュレティー王国とマルセイン大公国に囲まれていて平穏な時を過ごしてきている、東には広大な海岸線を有していて海洋貿易でもかなりの利益を生んでいるのが現状だ。


 北にあるサムレイト山脈と深い森を挟んで、北方に位置する強大な軍事国家のアズール帝国は、軍事力に物を言わせて次々と隣国を攻め落としている国では在るが、人を寄せ付けぬ険しい山々と深い魔の森が自然の坊壁となっていて、このトルマイヤ王国にまでは帝国のその恐ろしい武力が振るわれる事が無かった。


 この数十年平和を享受してきたその関係で軍事力、特に防衛に置いてはおざなりと成っていて、国境警備の役目を担っている筈の、辺境領の領主に至っては、戦いを経験した事のない若者が大半を占める。軍隊を保持して入るが、戦った事の無い軍隊など物の役にも立たない。


 キュウレイア共和国とトルマイヤ王国の交易の要の街道を統括しているのは、この一帯を治めているハイレンバルト伯爵である。交易都市のボルトレンに領都を置き、近臨の町や村を統治していた。


 隣国との重要な交易路で有るため、国境の要として近くに砦を築いて守りの拠点としてはいるが、長年敵対していないキュウレイヤ共和国との国境の警備は形骸化していて最早軍閥としての役割は無いに等しい。それでも交易を主体とした収益が膨大で、この国でも最も栄えている領地の一つである。


 ハルシカ村を中心とした近隣の村の現在の悩みの種は、山間に住み着いたゴロツキ共である。たまに山から下りて来ては因縁をつけて食糧や金銭をむしり取っていく、その事を領主に直訴しているのだが、代替したての領主は領内からかき集めた潤沢な資金を使い、王都での権力闘争に余念がなく領内の事はおざなりと成って居た。


 其のゴロツキ共であるが、領主が討伐に来ないと見るや、だんだんと要求が過酷になって来ていた、仕事にあぶれた若者を中心に人数が膨れ上がり、手が付けられ無く成って居たのだ。


 今はまだ、死人が出ていないとは言っても、搾取してくる要求と暴力がエスカレートしていくのは必須で村としても対抗策を考慮していた時期では在るのだ。


 村の規模にしてはかなり広い建物である教会の中で、カルシスは気を揉でいた。この村を襲ってきていた賊との交渉を旅の武人がかって出てきたのは良いが、話が思わぬ方向に行き始めているのだ。


 「成る程、事情は理解した。要は貴殿の部隊の有用性を分かってもらう為の行為であって、村を襲って金品や食料の強奪が目的ではないと言うのだな」そう言って納得した様に頷くフォスター。


 「聞くに、ここ最近この村と周辺の村々の悩みの種はゴロツキ同然の若者達の暴力と略奪だと言う事だが、人死は出てい無いとはいえ抵抗した村人を寄ってたかって打ち据えたとも聞く、理性のタガが外れる前に何とかせねばならぬのでは無いかな?」と老練な武人の質問にこの村の長であるカムクは目が泳ぐ。


 盗賊の襲撃を聞いてからそれ程時間が経っていないのだ、また無理な要求を突き付けて来るであろうゴロツキ共に、どの程度の貢物で手を打って貰うかと考えて居た矢先の出来事で。一人の武人が賊を取り押さえたと聞いて喜んだのも束の間、この話し合いの先が見え無いのだ。


 「どういう事でしょうか? 皆目検討もつきませぬが」とカムクはカルシスに目配せしながら聞いて来た、暗に交渉を代わってくれと言っている様だ、それを受けて渋々交渉を肩代わりする。


 「それはこの人達を雇うと言う事でしょうか? それは私共の一存では決められる事ではありませんが」とカルシスが聞いてみると。


 「其方らは村の窮状を領主に訴えて居るのであろう? ならば何もせぬ領主の顔色を窺って居る場合ではあるまい。其れこそ腹を括って現状を変えねば、何れその賊どもに膝を屈してこの村どころか近隣の村すべてがその賊どもの支配下に置かれることに為るぞ。そうなれば村の統制はとれぬであろうな、当然治安が悪くなるのは必定だぞ。それならばいっその事、其の方ら自らが村を守るための武力を持ち合わせれば良いとは思わぬか?」と突拍子もない提案をして来た、領主に無断で武力を持つことは反逆を意味するが、今の現状を打開するには致し方ないのではないかと言っているのだ。


 「確かにそのままでは、悪童達の言いなりに為るしか無くなりますが、あなた達を雇う事で、領主様の怒りを買う事に為るのはどうでしょうか?、 私達としてはその事の方が気になりますが?」と煮え切らない村長では在るが、そこは致し方がない事ではある。誰でも厄介ごとは避けたいものなのだ。


 「それでは、暫くは彼らからの助力をたのみ村々の治安の維持をしてみてはどうか? 取り敢えずは村々の安全は保障しよう、その問題のゴロツキ共もこちらで対処する、その条件で一月分の食糧をそちらが負担する、要するに持ちつ持たれつという事だ、どうだ。その後の事は一月後に交渉するという事にしては」と破格の条件を出してきた、いつの間にかフォスターを筆頭に村を襲ってきた襲撃者がまるで村を守る傭兵団の体をなしているのだが、今更否とはいえないブライアンはおとなしく聞いていた。


 近隣の村々から今までゴロツキ共に搾取された量を考えるとその条件は破格どころか将来的にもよさげに聞こえた、村長のカムクとカルシスはお互いに頷き合って承諾を決意する、当分はその条件で十分だと考えた様だ。


 「今の私どもには破格の条件ですが、しかし此の後、あなた方を雇うと成れば、それなりの金銭を差し上げねばならないのでは無いですか? 私達にその金銭を賄えるとは思えないのですが」と当然の疑問を聞いて来るカルシス。命のやり取りをする集団を賄うにはそれなりの覚悟とお金がかかる、人の集まる土地を運営する事に置いて、隣接する別の集団との軋轢は、最初は話し合いで解決を模索するが最終的には暴力によって是か非を決める事に為る、要はより強い武力を持ち合わせた方が正義となるのだ。どの様な形であれ武力の維持には金がかかる、軍隊とは金食い虫なのだ。


 村や町を守る、もしくは治安維持のためだと言い訳をしても、争いが有る以上暴力とは切っても切れない関係にある。必要悪だとしても集団と集団が争うという事は、暴力で相手を屈服させ、此方の要件を無理やり飲ませる行為に他ならない。その要件とは土地や水の支配権、もしくは有利な条件で交易を進める為と多岐にわたるが、人が生活する上で近隣の集落との軋轢は避けられ無いのが普通なのだ。だが話し合いで解決する事など稀でしか無い、争いが有る以上必然的に怪我人や最悪死人が出る事に為のだが、人は誰しもその様な事を望んでいるわけでは無い。


 しかし例外が有る、それは国を守り他国を侵略するための軍隊だ。他国もしくは隣接する領土を取得するためには当然話し合いで決着する事は無い、戦争という理不尽な暴力がその土地に暮らす人々に降りかかる事に為る。その為に大金を投じて武器を賄い武人を雇うのだ。その筆頭が貴族と呼ばれる人種だ、土地を治めると言う事は必然的に収益を得るという事に為る、強大な権力を持った人間は欲望を抑える事はしない、有益な土地からは膨大な収益がもたらされる、当然権力者はその土地を奪い取る為に戦いを挑む事となる。


 しかし侵略するという事は、その土地で戦いが起こる事と同義だ。要するに豊かな収益を求めてその土地で争い、田畑を踏みつぶし村や町を焼き払い人々を殺戮して、その豊かな地域を無残な荒野へと変えるという、なんともバカげた行いをする事に為るのだ。


 人と人とが争う以上、お互いが無事で済むことは無い、当然怪我人も出るし、最悪死人を出す事にも成る。両軍合わせて数百名、戦の規模が大きければ数千名という兵士や住民が死傷したという話はざらにあるのだ。


  神という存在を崇拝する教会の経典には怪我を治し、病を癒す奇跡の力が在る、その神の奇跡には驚く事に死んだ人間をも蘇らせることが叶うとまで言われている。しかしそれは読んで字のごとく奇跡でしかない、その行為をまじかで見た人は少ない、しかし其の逸話は良く聞くことがある、頻繁に世に出てくる話なのだから嘘という事は無いであろう。


 人は、いや生きとし生きる物全てはいずれ死を迎える、経典には死とは役目を終えた魂が肉体から離別していく行為で、その魂を神と呼ばれる存在が己の内包へと導いて初めて人という肉体は死を迎え、その魂は神と融合されるのだるのだとされていた。要するにそれ以外で入れ物である肉体が機能を損なっても魂はそのままその肉体に存在するので、損なわれた肉体を修復する事で生き返る事が出来るのだと解釈されていた。


 この世界では怪我や病気で亡くなる人は少ない、逸れこそが教会が繁栄している由縁である、怪我や病気を治し、死した人をも蘇らせるともなれば人々が崇拝する事は当然だと言える。しかし戦争や争い事と為ると話は変わる。いくら協会に力が有るとは言っても、短い時間に肉体が魂を維持できないほどの損傷を受ける人が多くなると、奇跡を以て行う肉体の修復が追い付かなくなってしまう、必然的に命を散らす人が増える事に為る、とかく戦争とは、人の死と切っても切れない関係にある。


 人を意思を以て殺めるという行為は普通の人がおいそれと出来る事ではない、普通に生きている人には無理なのだ。不運な事故や過失で死人が出る事とは違い、人が意識的に人を殺める事は余程の覚悟がないと出来はしないのだ。しかしそれでは戦争で新たな土地を搾取する事が出来ない、そこで洗脳まがいの軍事教練で無垢な人々を殺戮者に仕立て上げる行為をする、要するに軍役を課すことに為るのだ。


 長い歴史の中で培われてきた、戦う事のノウハウは、個対個であれ群対群であれ集得する事の出来る人は限られる、要するに能力的に適しているかどうかという事に為る。自分の子が後を継ぐ貴族にしても、幼い頃からの教育という鍛錬である程度は習得できても、その子が戦闘の資質を受け継いでいるとは限らないのだ、凡人はどうあがいても英傑には及ばないのだから。


 しかし常に戦場を意識している人達はその反中に収まらない、そういった意味では騎士団として戦場にて実戦で技量を磨き上げてきた人達は、武略に置いて一味も二味も違ってくるのだ、それは傭兵とて同じことが言える、戦場を転戦して戦う事を生業とする彼らの方が戦場に置いて重宝される所以である、当然優秀な傭兵団ともなると安くで雇えるはずもない、高額な金銭での雇用は常識なのだ。

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