陽葵の笑顔に僕は夢中♡

@ABCAI

一章 日常って大事だね。

第1話 僕らの日常

あぁ……。今でも思い出す。



あの夜も、あの夜も、あの夜も、あの夜も。そして、あの朝も。


色がある世界。色がない世界。

また色が戻ってきたかと思えば、今はもう、何色が正解なのかさえ分からない世界に僕はいる。


僕は、間違っているんだろうか。

きっと誰もが、僕のことを間違っていると言うだろう。


それでも、僕は……。


太陽のような、ひまわりのような陽葵の笑顔が、僕を幸せにする。


あぁ……。笑顔が見たい。


 ――始まりは、あの日。

まだこの世界が、鮮やかな色に満ちていた夜のことだ。


六月の湿った風が、図書室の開け放たれた窓から入り込み、古い紙の匂いをかき乱していく。


放課後の静寂を破ったのは、遠くの校庭から聞こえる部活の掛け声と、聞き慣れた軽やかな足音だった。


「おーい、悠真(ゆうま)! 栞(しおり)! またこんなところで勉強してるの!?」


ガラガラと音を立てて扉が開く。そこに立っていたのは、西日に照らされて黄金色に輝く髪を振り乱した、陽葵(ひまり)だった。


「もう授業終わったよ! ほら、外行こうよ!」


彼女が部屋に入ってきた瞬間、モノクロだった図書室にパッと色彩が宿る。少なくとも、僕の目にはそう見えた。


「陽葵、声が大きいって。ここは図書室だよ」


僕の隣で、栞が広げた分厚い参考書から顔を上げずに言った。その声は凪いだ海のように穏やかだが、シャーペンを握る指先が微かに震えたのを、僕は見逃さなかった。


「いいじゃん、もう誰もいないし! ほら、外で健斗(けんと)も待ってるよ。コンビニ寄って帰ろう?」


陽葵が僕の机に身を乗り出す。ふわりと、シャンプーの匂いが鼻をくすぐった。僕はドクンと跳ねる鼓動を悟られないよう、わざとそっけない態度で返した。


「……わかったよ。あと少しで区切りがいいから、待ってろ」


「やった! あ、栞も早く行こう! 悠真に勉強教えなくていいからね」


陽葵は栞の肩にポンと手を置き、弾けるような笑顔で続ける。


「今度は私にも教えてね! 栞ちゃんが教えてくれたら、私だって絶対いい点取れると思うの!」


栞は一瞬だけ、眩しそうな、それでいて少しだけ悲しそうな目で陽葵を見上げ、すぐにいつもの柔らかな微笑みを浮かべた。


「ええ、陽葵がちゃんと勉強する気があるならね。今日はもう行きましょう、悠真くん」


彼女は僕が陽葵を見つめる視線に気づいている。そして、自分がその視線の先にはいないことも、きっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る