極彩色に息をする

@syuu-25w

第1話 Blade Of Tempest

家の窓の外には雨に降られた跡が散りばめられていた。窓の隙間から入ってくる雨上がりの匂いを肺に入れながら、非日常が日常へ戻るのを噛み締めていた

嫌な思い出を全て捨てるように大きく息を吐き出す。けれどもその記憶が息と一緒に消えることはなく、俺の喉や胸に張り付いていた

「…い…おーい紡〜。聞いてるか〜?」心配そうにこちらの目を覗き込んでくるこの男は至近距離何にも対し、手を振っていた

「ごめん。聞いてなかった」俺が咄嗟にそう返すと、は〜っと大きな溜息をついてもう一度説明しようとソファに座り直した。座り直した衝撃で、コップに入ったお茶が揺れ、そのコップに自分の手が添えられているのを思い出し、ちょっとした罪悪感と一緒に1口飲み込む

「だから、高校だよ高校。もう全部終わったんだし、俺らも普通の人になれる頃合じゃねえのか?」そう言って、おそらく俺が聞いてない時に差し出したであろう高校のパンフレットを指を当てて心地よい木の音を出す

「俺はいいよ。わざわざ人と関わりに行く気が知れん。適当に農業でも初めて静かに暮らすよ」俺は二重にうんざりしていた。これでコイツからの説得は3回目だ。そして丁度一昨日終わった事件を思い出し、人の不義理さを自分の経験から確かめ直した

「確かにさ。あんなことがあった後だとそうなる気持ちも分かるけどさ、やらずに後悔するより、やって後悔しようぜ。もうここの試験受付の締切もすぐなんだよ」

「お前1人で行けばいいだろ」

「え〜、嫌だ〜一緒がいい〜一緒に青春したい〜。制服着て、皆で旅行行ったり部活したり勉強したり恋愛したい〜」まともな説得が無理だと判断したのか、机に伏して駄々をこねる様に手足をバタバタさせていた。その時一緒に揺れた髪の毛が、手入れをしていないからでなく、走って届いたパンフレットを取ったのだと分かる。だけど俺はそもそも「興味無いし」そう突き放す。もう二度と傷つくのも、傷つけるのもごめんだ

「まあまあそんなこと言わずにさ、行ってみればお兄ちゃん。幸樹もそう言ってるんだし」妹は肩甲骨辺りまである白い髪を垂らしながら、パンフレットを覗き込んできた

「彩音ちゃん〜わかってくれるか〜」大袈裟に悲しそうに喜ぶ幸樹が顔を上げた

「別に途中で行きたくないってなったら行かなければいいんだし。私も調べたけど、そこら辺は自由なんでしょ?どうせお金だけ余ってて使い道も無いんだし軽い気持ちでやってみなよ」

机に手を置いて寄りかかりながら軽く言ってみせる

「そうだよ紡!物は試しだよ!」味方を見つけるや否や勢いよく俺に言ってみせる

「この感じだと幸樹は今日一日中うるさいじゃん。行ってあげなよ」彩音は軽く言っているが、恐らく一日中と言うのは比喩でもなんでもなく本当に一日中うるさいんだろう

は〜っと1つ重荷を降ろすように息を吐き出し「分かった。試しな」と諦めた


試験当日。ある程度知識を入れて置いたおかげで試験自体難なく突破できた。1つ気になったのは、体術や魔法、何故か戦うためにあった方がいい知識まで試験に含まれている。そう言えばここ、どういう学校か詳しく知らないな。

試験の帰り、幸樹にどんな学校か聞いてみた。すると幸樹は驚いた顔をして「そっか。教えてなかったっけ?」その言葉が帰ってくるとは思っていなくて、一瞬脳が停止して、「は?」とその1文字だけが脳みそを埋めた

「この学校は中央扇研学校って名前で、基本知識と、戦う術も教えてるちょっと特殊な学校なんだ。どうやら早速「不斬」を扱ってるみたいだ。どうせなら俺たちの今までが生きる所の方がいいかなって思って」

「不斬?」

「不斬ってのは人の体にダメージを負わせず、直接魂にダメージを持っていく武具達のことだ。ま、お前が1番知ってるだろうけどな」

そんな名前が付いていたんだな…安易なネーミングに呆れながらその事実を噛み締めた。そう。確かに俺が不斬とやらを1番知っている。なぜならその技術を産んだのが俺だからだ。俺は人を殺して後悔しかしてこなかった。それでも剣を握ることを強制されて生きてきた。幸樹も同じだ。だから俺はせめて殺さないで済むよう、身体へのダメージをどこか別のところへ流す方法を模索し、辿り着いた答えが、名付けられた不斬という訳だ。もちろん魂へダメージが行く分、斬られた本人はトラウマ必須だが、死ぬよりはいいと思った。まさか不斬の知識の提供の裏でこんな形で広まっているとは思わなかった。それともう1つ疑念が「その不斬って皆できるようになるのか?」不斬は魂にダメージを持っていく…つまり、魂を斬るに等しい。それを可能にするためには通常の武具では叶わない。己の心を映した武器が初めて不斬を可能にする。心を映した武器は人並み以上に、欲望や、自分の感情の全てを鋭利にし、初めて握ることができる代物だ。そんなことが皆が皆できるとは思えない

「それに関しては何かあるらしい。1回一番最初にある授業を受けると皆できるようになるんだって」話しながら帰りの電車に乗って、俺はその話をせかせかと落ちていく日を見つめながら、複雑な気持ちになった

そこから俺は言葉を返せず、不規則に電車に揺られながら、壁にもたれ、そのまま日を見つめて最寄り駅に着いた。多くの帰宅ラッシュの人達に合わせて電車を降り、手馴れた手つきで改札を通り、家に着く。幸樹も俺も、彩音も親がいないせいで、3人で協力してひとつ屋根の下で暮らしている

鞄に入れた鍵を出し、差し込み、時計回りに捻ると、ガチャっと機械音が鳴る。この機械音を合図に俺は鍵を縦に戻し、引き抜き、ドアノブを回し、ドアを押して入る。するといつも通り明るい玄関が待っており、ここに入るとどっと今日の疲れが押し寄せる。幸樹みたいにアクティブな性格じゃないから、試験を受けに行っただけでも家に着くと動きたくなくなる。身体を強引に動かし、リビングに行き、ドサッと荷物を床に投げ出し、ソファに寝そべる。そこでようやく晩御飯の準備をしている彩音の存在に気づく

「ただいま」とほぼ条件反射で意味の無い挨拶を交わし、今日の頑張ることは全部終わったと、達成感に近いものを大きく吸い込み、大きく吐き出す

少し遅れて自分の部屋に荷物を置いてきたであろう幸樹がリビングに来て、彩音の料理を覗き込み「お、今日はトンカツか」と緩みきった顔が浮かぶ様に情けない声を出す

「でも、なんで今日トンカツなんだ?」

「調べたら試験の日はカツにするといいんだって!」1回も見てはいないが、きっと彩音はドヤ顔している。それが分かる声色だ

「それ多分試験の前日じゃないか?」幸樹が無慈悲な言葉を伺うように投げる

その後言葉は無かったが、きっとショックだったのだろう。思わず沈黙に笑いが込み上げてくる。それを抑えて天井を見上げると、ふと、色々なことを考える。よく俺たちは生き残ったな。とか、凄い家に住んでるよなとか。そんなことをぐるぐると考えていると、少しずつ思考がバラつき始める。俺はそれに気づくことなく、そのバラついている思考に気づかず、ゆっくり目の前が真っ暗になる。それがやけに気持ちよかった


「お前は正しいんだ。正しいことをした。それでいい」

腹に突き刺した剣を抉る。が、その言葉を聞き、強く抱き寄せられると剣に力が入らなくなった。憎悪が一気に消え、同時に血の匂いと疲弊した身体、彼の少しづつ冷たくなる体温が、俺は人を殺してしまった。大事な人を勘違いしたまま殺してしまったのだと気づかせて頭を真っ白に染め上げる

そのまま抱き寄せる腕に力が抜けていき、やがて俺の身体を沿うように落ちていく

言葉の意味に気づいたのは、事の顛末を知ったのは既に安らかに永遠の眠りに着いた顔を見た後だった。もうどうしようもなかった。何もできなかった。罪悪感が心を壊していく。俺はただただ壊されないように、壊れていく痛みを感じながら泣き叫んだ。それしかできなかった。そんなことをしても意味が無いということを頭で分かっていながら、叫ぶ喉を、溢れ出す涙を止めることができなかった


「お兄ちゃーん。ご飯できたよー」

変わらない声色に何故か安心しながら重い体を起こす

何か夢を見ていた気がする。心がどっと疲れている。だからこの日常に安心する

「いただきます」合わせた手は、どことなくそれが続けと祈るようだった



初の登校にどことなく体に力が入る。慣れない服、慣れない靴。鏡で自分の格好のおかしさを確認しているから余計に汗をかく。こんな気持ちになるなら鏡なんて見なければよかったと溜息を吐く

隣で歩く幸樹は目で見てはっきり分かるほどウキウキしていた。常にニコニコしていて、浮ついている。それに当てられ余計に溜息を吐かざるを得なくなる。陽の光と桜が俺らの入学を祝うようで憂鬱になって目を閉じたくなる


重くなった瞼を引き上げ、自分が入るべき教室を探す。そこには多くの同じ制服を着た人がいて、友達と来ている人が騒がしく自分のクラスを探している

時間になるまで教室で待つ。静かに待とう。そう思っていた矢先「なあなあ!あの人に話しかけようぜ!」と俺の考えたことをはっきりと否定してきた

「お前1人で行けよ」当然俺は否定する。めんどくさい

「ちぇ…」分かりやすく落ち込んで、すぐ切り替えてその人の所に向かっていった

俺はすることも無く何となくその2人の会話を聞いていた

「なあなあ!初めまして!俺は村上幸樹!君は?」はつらつにグイグイ攻めて行く

「初めまして、僕は徳永疾風。幸樹さん、よろしくな」模範解答のような声色と言葉選びで、少しどんな顔をしているか気になったが、これで視線をやるのもなんか負けた気がするし、気づかれても嫌だからその気持ちを抑えた

「さんとか要らないよ。呼び捨てでいいよ。俺も疾風って呼びたいし」

「そうか?じゃあ幸樹。よろしくな」

「おう!あ、そうだ。ちょっとこっち来て」

そう言うと、椅子の引き摺る音と、足を机にぶつける音が聞こえた。急いで立ち上がったのだろう。コミュ力お化けはすごいなぁと遠くを見ながら思っていると、そのコミュ力お化けが俺の視界に映った。と言うよりは、目の前にいた。は?と思って顔を上げると「紡!この人は徳永疾風!」突然言い出す幸樹の顔はキラキラしていて、対して隣の徳永疾風はめちゃくちゃに困惑していた。そりゃそうだろ。自己紹介が終わったと思ったら知らん男の所に自己紹介されに行くんだから。どれだけフットワークが軽くても多少はビビるだろ

「あ、えっと、徳永疾風です…」今の現状に脳の処理が追いついたのか、ハッと顔をさせ、いそいそと自己紹介をした

「あ〜、青葉紡です」困惑と、幸樹の自分勝手さに多少苛立ちを覚え、それを悟られないよう吐き出し、引きつった笑顔で、ただ名前を伝えた。そもそも俺は笑顔作るとか苦手なんだよ!

「あれ、もう友達できたの?疾風」横から規則的な速度と音で近づいてくる方を見ると、綺麗な姿勢で歩く女の子がいた。派手なピンク髪も綺麗にたなびかせ、ただただ目を奪われた

「初めまして。私は北条愛と申します。よろしくお願いします」やまとなでしこを体現した女性は俺たちに見事に挨拶をした

「う、うん。多分そう」恐らく徳永も同じことを思っている。この流れで素直に自己紹介されるとなんかめっちゃ困る!



それから1週間が経ち、交友関係にこれと言った大きな変化は無く、ただ少しづつ授業で話す程度だった。幸樹はそうじゃないらしい。今日も今日とて色んな人と話しまくってる。多分殆どの人ともう友達になったんじゃないかな

「ただいま」いつも通り家に着き、適当に鞄を置き、リビングのソファに寝転ぶ。体が沈んでいく感覚に身を任せながら大きく息を吐いて、今日も一日終わったんだと心を緩める

「お兄ちゃん。幸樹は?」彩音がリビングの机で勉強してるのを止め、こちらを覗き込んで聞いてきた

「アイツは友達と遊んでるよ。晩飯どうすんのかは知らんけど」ほぼ投げやりに答える。身内だから楽だけど、それでも会話は労力がいる

「ふーん」と俺に何か言いたげに答える「あ、メッセージ来てる。今日は晩御飯要らないって」恐らく勉強の為にスマホの通知を切っていたのだろう。今スマホを見て初めて知ったようだ

「そ」俺は一応返事はしておいた

「高校って宿題とかって無いの?」彩音はいつでも勉強に戻れるように座り直して俺に聞く

「無いことは無いけど、お前の中学みたいに毎日は無いな」

「いいな〜。私も早く高校生になりたーい!」四肢を大きく広げ、ついでに伸びをした

「幸樹みたいなこと言うんじゃねえよ」俺はこの熱さが嫌いだった


「いただきまーす」彩音は毎回毎回自分の作った飯を美味そうに食う「いただきます」対する俺は無表情に何も感じてない様に食う。勿論美味しいとか色々あるが、わざわざ表情に出すのも声に出すのもめんどくさかった

「お兄ちゃんと2人で晩御飯食べるの久しぶりだね」ちょっと楽しそうにこちらへ語りかけてきた

「うん」確かに幸樹が1人で仕事行ってる時くらいしか2人の時って無いな。そんな機会も滅多に無いし

「お兄ちゃんは学校どう?慣れた?勉強はついて行けてる?友達はできた?」いきなり質問攻めか…ただ、まあ彩音も心配で聞いてくれてるんだろう。自分でも自分が人と関わりたがらないのは知っているから、多分そこが心配なんだろう

「まあ多少は慣れた。勉強は普通。友達は…幸樹に無理矢理作らされた」

「無理矢理?」

「無理矢理人連れて来て無理矢理自己紹介させあった」思い出すだけであの奇行に腹が立つ

「でもその人とは友達になれたんだ?」

「まあ、一応。何度か一緒に帰ったりとかもしたし」

「へ〜良かったじゃん」彩音は何故かニマニマしていた「私、心配してたんだよね。このままじゃお兄ちゃんに友達ができずにすぐ学校辞めちゃうんじゃないかって。別に辞めるのはいいんだけどね?なんか、せっかく生活も落ち着いたんだから普通の男の子として生きて欲しいって思うから」彩音は俺が疑問を投げる前に答えた。その内容は誠実なものだった。俺はなんだかむず痒くなって何も答えられずにいた。ただ、実際昔は普通に憧れた時期もあった。とっくに諦めたつもりだったけど、もしかしたら…なんて、きっとすぐに壊れてしまうのだろう。俺は知っている。期待は必ず裏切られるんだと


ああ…思ったしりからこうなる


俺たち1年A組は体育の授業でグラウンドに出ていた。ここの体育はスポーツはせず、筋トレ、体力トレーニング、体術の会得をメインにしていた。力で押す者、トリッキーな動きをする者、速さで翻弄する者、十人十色とはまさにこの事だと言わんばかりにそれぞれが得意とする体術を磨いていた。授業の半分が過ぎ、5分休憩の時、いつも通り話していた幸樹がグラウンドの方を向くと、目を見開いていた

「どうした?」俺は平和ボケか何も考えず聞いた

「紡…あれ…」震えた唇がそれだけを音にし、今にも関節から崩れそうな程震える指をグラウンドに向けた

言われるがまま向くと、そこにはさっきまで俺たちに指導をしていた先生の体に剣が貫いている図があった。あまりにも突然で動くことができなかった。目線だけを動かし、刺したやつを見る。全身真っ黒でフードを被り、如何にも正体がバレたくないみたいなやつがいた。ソイツが剣を抜くと、先生は脱力したまま倒れた。ソイツがそのままこちらを向く。一気に体が強ばった。視線だけが強烈に刺さり、次は俺たちが死ぬ番だと実感させられる。ゆっくり近づいてくる。皆が悲鳴を上げ、逃げていく。その音にやっと気づき、身体を構えた。遠くからで分かりずらいが、先生はまだ生きている。俺は咄嗟に先生救出を目的に頭を動かした

「ハートレッドオオオオオ!!!」雄叫びを上げ、刀を抜刀し、走る男が1人…徳永だ

幾度も斬り掛かるも、フードを男は1歩も動かず徳永の斬撃を防いでいた。力に差は歴然だった。それに気づいた瞬間、助けなきゃと体に電気が走り、「幸樹!先生を安全な場所へ!」それだけを伝え、徳永に加勢しに行った

徳永が刀を弾かれ、無防備になった瞬間を見逃すはずもなく、フードの男が剣を突き立てようとした。だけど、間に合う!俺は必死に地面を踏み、フードの男の剣を弾き上げた。ギリギリだった。しかもコイツの剣が重い。勝てないと一瞬よぎったが、逃げればいい。そう思い。何とか恐怖ですくむ身体を持ち直した

「徳永!逃げるぞ!」俺は確かにそう指示を出した。だけど徳永は引くどころかさらに攻撃を仕掛けていた。俺でも分かるほどにめちゃくちゃな攻撃。力任せで敵を殺すことしか考えてない無謀な剣だった

クソっ!幸樹が援軍をきっと連れて来てくれる。それまで2対1で耐えるしかない。2対1でも耐えれるかどうかが真っ先に考えてしまうなんて…とか考えてしまう

「グッ!」敵の攻撃が思考を許さない。ずっとギリギリで防いでいる。こっちからの攻撃は相手に万全に攻撃させない為の防御に近い状態だ

徳永は変わらず攻撃の一点張りだ。徳永も守りながらだといつか隙ができてしまう

攻撃を防いで、どこを狙えばこの猛攻が止まるかを考え、狙うが尽くが失敗に終わる

「ッ!」しまった!最初に大きな隙を晒したのは俺だった。敵がそれを見逃すことも無く、無慈悲な刃が俺を目掛けて飛んでくる。防げない。避けれない。ダメだ。今この刃が空を斬り裂いている様に俺の体が裂かれる想像で全身の血の気が引く。思わず目を瞑る

隣で何かが高速で通った風が来た。そして痛みも一切来ない。恐怖を押し殺し、目を開けると、俺の顔のすぐ横に槍があった。その切っ先は敵の肩を刺していた。敵か味方か瞬時には理解できずに後ろを振り向くと、そこには汗でピンク色の前髪を崩している女性の姿があった

「北条!」

敵は後ろに跳んで離れた

「無事で良かった」息を切らしながら俺達を見てそう息と一緒に声にした。きっと相当急いで走ってきたのだろう続けて「疾風!気をしっかり持ちなさい!復讐に駆られてはダメ!」まだ必死に斬り殺そうとする徳永の手を引っ張り、肩を掴み、目を見て伝えた

「…愛……」徳永はやっと気づいて、体の力を抜いた。途端彼は思い出したかのように手と膝を地面について嘔吐をした

「大丈夫…大丈夫」北条は全てを知っているように、徳永の背中を摩った。一体何が何だか…

「紡さん。多分何が何だか分からないと思いますが、今は説明している時間はありません。許してください。事が済み次第、あなたには伝えなくてはと思っています。ですので、今は何も聞かずアイツを倒すのに協力してください」きっと北条も敵と何らかの関わりがあるのだろう。北条の目の奥には火が灯っている様だった。目の前で先生が殺されかけたんだ。俺も黙っていられるほど大人じゃない「分かった」ただ「どうやってアイツを倒すんだ?はっきり言って、勝てる見込みは今のところ無いぞ」

「聖の魔力よ」聞いたことがある。魔法とは魂が無限に分岐が続いた先にある何らかに属性を孕みながら存在する。有機物の残滓だ。その中で聖と言うと、魂の正しくあろうとする力だ

「悪いが俺にその魔力は扱えないぞ」

「僕の風魔法を駆使して太陽からの聖の魔力を集める。その間動けないが…」徳永は風魔法を扱えるらしい。人に扱える魔法は1人1種類の属性魔法だけだ。無理矢理と言えば無理矢理な戦法だが仕方がない。「そしたら俺たちで足止めをしなきゃなんねえってことだな?」北条は静かに頷いた。誰が生き残れるのか…もしくは全員死ぬか…そんな決断に多少罪悪感を感じている様だった。「安心しな。ここで全員死んでも誰も文句は言わねえさ。な?」俺は遅れて来ていた幸樹に相槌を求めて目を見た

「う、うん」幸樹の顔は冷や汗でびっしょりだった。話もちゃんと聞いてるし、これから何をするかも、本当にどうなるかも分からない状況も全部分かった上で逃げない選択をしてくれていた。幸樹はそこまで強い訳じゃない。俺が守らなければ

徳永が刀を振り上げる音を聞いたと同時に俺は突撃した。それに続くように、北条、幸樹が走り出した


互いが互いを守るように戦う。斬っても防がれるのは当たり前、やつの攻撃1つでこちらの体勢全体が崩れる。防ぐ、防ぐ、防ぐ…やつの剣が重い。何度も防げない。幸樹が後ろから斬り掛かる。が、避けられ顔を掴まれる。そのまま俺のとこに投げ飛ばし、一緒に飛ばされる。無造作に俺たちは地面を転がる。何度かやつの剣を受け止めただけで全身がジンジンと痛む。そこに地面を転がる擦る痛みが重なって、体の感覚が曖昧で立て直すのに時間がかかる。目の前で北条が一人で戦っている。早く加勢しなければ…槍の刃だけじゃなく持ち手でも攻撃しているが尽くを防がれている。もしくは避けられている。やつが飽きたように北条の槍を掴んで引き寄せ、体が持っていかれ、そのまま腹を蹴られる。吹き飛んだ軌跡に地面がポツポツと濡れている。相当重い蹴りが飛んだんだと理解せざるを得なくなる

蹴った瞬間に幸樹が再び走りだした。違う。チャンスなんかじゃない。案の定幸樹が振るった剣は手から離れた。持ち手を弾かれたんだろう。耳が痛くなる音が空を震わせ、空で剣が光を反射している。必死で駆けた足が悲鳴をあげる。体の感覚が曖昧なまま走ったせいで肉離れが起きた。だけど止まる訳にはいかない。痛みも感覚も無視して走った。いや、自分でも走っていたのか分からない。自分の感覚の全てを無視して幸樹を守るために走った

剣の握り方が分からず、無我夢中で幸樹を突き飛ばした。

体の動きが確かに止まる。自分の力では無い。やつの剣の先を見ると、自分の胸に刺さっていた。良かった…幸樹は助かったんだ…安堵し。そのまま全身の力が抜け、刺さった剣に支えられる状態になった。どんどんとジンジンうるさかった全身が静かになっていく。熱くなった傷口も冷めていく。もう自分がどんな状態か一切分からなくなった。ああ…死ぬんだ。そう察し、暗闇に身体を沈めていく…


何かがうるさく囁く。言葉では無い。何を言っているか分からないはずなのに、意味だけは伝わってくる。その意味達が体の感覚を呼び覚ましていく。自力では無い気持ち悪さを振り払えずに、体が起こされていく。頭の中が運命という意味が埋め尽くされていく。何とか自分の意思を取り戻そうと藻掻く。少しずつ頭が晴れていく。幸樹、北条、徳永の顔が浮かんでくる。そうだ。俺は戦わなければならない。守らなければならない。体の感覚が戻っていく。剣が胸に刺さっている感覚から地面を踏んでいる感覚まで戻ってくる。だけど不思議なことに痛みは一切無い。視界も戻ってくる。そう。コイツを足止めさえできれば倒せるんだ。今全ての感覚がハッキリした。その瞬間にコイツの剣を握り、動けないようにし、コイツのフードを取る。目を見開いた赤い目がこちらを捉えている。病気を疑うような白い肌に光を全て吸収する様な黒い髪が見えた。首根っこを掴み逃げられないようにする。流石に首を掴まれると呼吸に困難が生じるのは人間と一緒のようだ。実力差がここまであろうともコイツは人間なんだ

苦しそうな顔の中にニヤケ面を覗かせてきた。何を考えてるか分からず離れたくなったが、ここで離れる訳にはいかない。徳永が準備が整うまでコイツはここで留める!

「貴方でしたか。良かった。物語は良き方向へと進む」なんだ、突然何を言い出す…「紡!」徳永の声だ。ハッとして、徳永の聖属性を纏わせた斬撃が当たる直前に離れ、敵に確実に当てる!


砂煙が邪魔していて見えない。敵はどうなった…少しずつ晴れていき、そろそろ見えるかと目を凝らす

「ッ!」その途端真横にソイツがいた。砂煙が確かに人型を作っていた

「私はハートレッド。貴方を神の物語を終わらせるキーパーソンとして導きます。疾風くんの因縁の城で貴方達を待ちます。必ずおいでください。何時までも私は待っていますので」

そう耳元で告げると何もせずどこからともなく現れた闇と一緒に地面に溶けていった

「紡!大丈夫!?」幸樹の叫び声でハッとした

「あ、ああ。大丈夫だ。何とも…」突然刺された箇所が痛み出した。思えばずっと必死だったから痛みなんて気にしてられなかったけど、俺の胸にずっと剣が刺さっていたんだ。あ〜めっちゃ痛い


発展した場所以外は未開拓エリアとして危険区域が敷かれている。そこには色んなモンスターが生息している。基本的に発展地域に侵入してくることは無いが、発展地域から出た瞬間、そこは弱肉強食の世界となる。今までそんな所に出たことが無い。今日が初めてだ

俺たちは襲ってくるモンスターを倒しながら進んでいた


-1週間前-


「胸の痛みはどう?」保健室の先生は治癒魔法を施してくれた。幸い、内蔵には刺さっておらず、そこまでダメージは無いらしい。治癒魔法は取り敢えずの応急処置らしい

「全くありません。助かりました」

「一応病院には行ってちょうだい」

「もう大丈夫ですよ」

「いいから行く!」

本当に傷は治った。恐らく先生は危惧しているのはこの後の俺の行動だろう。俺はハートレッドを追う。意味の分からないことを言うだけ言ってどこか行きやがった。それを確かめたい。会う必要がある。幸樹も徳永も北条も来るとの事だ。徳永と北条は何か因縁があるだろうから来るのは分かるが、幸樹も来るのは意外だった

「分かりました。行きますよ。」仕方なしに、行くと嘘をついた。俺は立ち上がって保健室を後にしようとすると、後ろから腕を掴まれ、一瞬よろける。体勢を持ち直し、分かってはいるが、掴む人間を見た。そこには涙目の保健室の先生がいた。流石にこれは意外だった

「本当に…お願い」そこには確かに切実に願う先生の姿があった。体育の先生のことだろうか、それとも別の何かなのか…その執着の正体を聞ける訳もなく、そして嘘をつくことを自分自身が許さなくなって「どうしても行かなきゃなんないんです。アイツが言った意味を知らなきゃなんないし、待つとは言ってもその間何もしないとも限らない。何より、さっさと行ってしまいそうな仲間がいるんです。だから、病院には行きません」この返事を聞いた先生が俺の腕を掴む手に更に力が入る。「でも、これだけは約束します。必ず帰って来ます」実際帰ってこれるかなんて分からない。でも、そう願っている。正当化した嘘が俺の居心地を悪くさせる。掴む手が緩くなり、俺は振り返ることもできぬままそのまま歩いて保健室を後にした。外に出た瞬間、室内の重い空気を嘲笑うかのように春の風が吹く。この風は暖かかった


「先ずは説明してもらおうか」俺と幸樹はその日の放課後に教室に残って、クラスメイト全員が出ていったのを見届けた後、対面に徳永と北条を捉えて、重く2人を見つめていた

「聞いたことあるかな?四天城陥落、そして魂夜城崩壊って」最初に口を開いたのは徳永だった

俺たちは顔を見合せ、お互いの意見が一緒であることを確認し「いや、知らないな」そう答えた

「四天城とは、私達の住むエリアに建っている4つの城で、それぞれがエリアを存続させるための結界のエレメントを集めて放ってるの」北条が答える

「エレメント?」幸樹が不思議そうに聞いてきた

「エレメントってのはエリアを外から守るために作られたシールドの素材だ。通常は1種類で事足りるんだが…」俺は北条に目をやった。どうして4つに分けているのかが分からない

「こっちのエリアは独特でね。皆の知ってるエレメントじゃないの。欠けているって方が正しいかな。それぞれ欠けた部分を持ち寄ってやっと初めてエレメントになれる。とは言っても実際別物同士を使ってるからひとつにできないからわざわざエネルギー状態のものを組み合わせてるって感じかな」

「は〜。何となくそれは分かったけど、それがどうかしたのか?てっきりそれが壊れたのかと思ったけど、今も守られてるんだろ?」幸樹が頭の後ろで手を組み聞く。幸樹にとっては情報のキャパオーバーは近いんだろう

「四天城を陥落させたのは僕だ。そしてその中心に位置するエリアの命を崩壊させたのも僕だ」サッと流れた言葉を上手く飲み込めず、言葉が出ない。ただひたすらに徳永を見つめるしか無かった。正直そこまで強い人だと思ってなかったから余計にビックリした

「僕と言っても僕のレジスタンスだけど」徳永が止まった空気に気まずく付け加えた

「レジスタンス?」やっと口が動いた

「僕は…僕たちはエリアの方針に反対し、戦った」歳に対してあまりに重い言葉だった

「それは詳しく聞いてもいいのか?」恐る恐るしか聞けなかった

「うん。元より話すつもりだよ」あくまで明るさを保つ「僕たちの住むエリアはかなり搾取が酷かった。貧しい人はボロ布一枚で食事も満足にできないのが当たり前で、いつ死んでもおかしくない状態だった。職業も農作とか、兵隊とか、そんな所だった。そういう意味でもいつ死んでもおかしくはなかった。対してちょっと偉い立場になると一気に裕福になった。貧しい人達から搾取した農作物で飯を食い、兵隊がいるからいつまででもふんぞり返れる。それが当たり前になってしまってはダメだと思って、レジスタンスのなることを決意した。同じ意見を持つ者たちを集め、反逆の力を蓄え、タイミングを伺い、そして、戦をした」

「それで勝ったと」

「うん。こっちは普段の生活のお陰か体は丈夫なのに対して、向こうは戦いの1つも知らないからそんなに血は流れなかった。でも、魂夜城の戦だけは違った…魂夜城ではモンスターを多く放っていて、魂夜城内部が血の色に染まりきるくらいに熾烈な戦いになった」

「モンスターが?」通常モンスターはエリア外の未開拓エリアのみにしか現れない。それがエリア内、しかもエリアの命の内部となれば、いささかおかしな話だ

「モンスターを連れてきたのはあのハートレッドだった。詳しくは知らないが、ハートレッドが将軍…エリアトップに交渉したらしい。戦闘データが欲しいからここにモンスターを放たせろと。その代わり、何があっても守ってやると。最終的にモンスターは全員倒し、ハートレッドも斬り、将軍は降参した。はずだった」それなのに確かにここに来た…ということか

「分かった。大体事情は把握した。つまり、魂夜城に行けばハートレッドに出会えるってことだな」

「うん。だけど、魂夜城にいるってことはあのエリア自体が危険かも知れない。そこは分かっておいてくれ」

「分かった。話してくれてありがとうな。明日の朝学校前に集合でいいか?今日は準備をしたい」俺は立ち上がり、帰る支度をしながら確認をとった

「うん。本当に…ありがとう」徳永と北条は俺たちに深々と頭を下げた。ビックリしたが、確かにこれからは命懸けだ。精一杯の誠意なのだろう

「うん」そう一言だけ言い「じゃあな」背中を向け、歩いた。もう廊下はかなり暗かった


「紡。俺たち、勝てるかな?」電車の中で幸樹が不安そうに聞いてきた

「このままあの二人が家に帰れない状態にさせるのは気が滅入る。何より、2人だけで行って帰ってこなかったら目覚めが悪い。やるしかないさ。勝算は薄いが無いわけじゃない」ここで無理に明るく振舞っても仕方がない。怖いのは皆一緒だ


「お兄ちゃん」その夜、俺たちは戦支度を済ませた。幸樹は割とすぐ寝たが、俺はもしかしたら未来が無い選択肢を選んだのかもしれないと、頭をグルグルさせながら眠れずにいた。そこに彩音が静かにやってきた

「どうした?」

「幸樹はすぐ寝たけど、お兄ちゃんはきっと眠れてないだろうなって」

1つ気持ちを整理するために一息つき「こういう時幸樹が羨ましいよ。気持ちを吐き切って、整えることができるんだから」気持ちを整理しても、いざ言葉にすると泣き出したくなる

「なんだかんだ幸樹は強いね。ちゃんとしてる。でも、お兄ちゃんは違うでしょ?」

「おい、お兄ちゃんだって強いぞ」冗談でも言わなければ見透かされたみたいで辛くなる

「そういう意味じゃなくて、どうせ行くって決めたのはお兄ちゃんなんでしょ?そしてその責任を1人で取れるなら取りたいって思ってる。その重さは私にも多少分かるかも知れないから…きっとお兄ちゃん今辛いだろうなって」

「平気だ。彩音も早く寝るんだぞ」図星過ぎて心が重くなる

「お兄ちゃん」彩音がベッドに入ってくる

「何?狭いぞ」

「ほら」彩音が優しく抱き寄せてきた

一瞬で暴れそうな感情を押し殺し「何の冗談だ」静かに押し退けようとするが、その分強い力出抱き寄せられる。いい加減にして欲しくて、力が入る

「お兄ちゃん、家族の前でくらい素直になってよ」

もう、全部見透かされてるんだな。分かってはいたけど、それを実感せざるを得なくなる

「お兄ちゃんが妹の前では強くあろうとするには嬉しいよ。でも、同時に寂しい。どうせ私を一緒に連れてってはくれないだろうし、全部隠すし、私ってそんなに弱い?戦えるよ?」

「何があっても彩音を危険な目には合わせない」自然に彩音の服を掴んでしまう

「だったらせめて強がらないでよ。滅茶苦茶弱音吐いたって、大声で泣き喚いても私はお兄ちゃんを信じてるし、かっこいいよ」

「別に、そんなんじゃねえし」我ながら情けない言葉しか吐けないなと思う

「お兄ちゃん」俺の頭を胸に抱き寄せてくる。そのまま頭を撫でられる。自然と心の糸が緩くなる。目頭が熱くなるのを止められない。頼む。止めてくれ

「ふふ、お兄ちゃんが本音を見せるまで止めてあげないから」悪戯っぽく言ってくるが、そこには確かに優しさがあった

我慢できなかった。涙が止められない。喉を力づくで閉めないと一緒に声も出そうで、でも喉が何故か開いていく。声が漏れる。きっととてつもなく情けない状態なのだろう俺は

「いいんだよ。我慢しなくて。頑張ったね。今日はいっぱい出そ?」

その言葉に従うつもりなんてないのに体が言うことを聞かず、情けない声を出しながら、彩音に抱きついてしまう

「怖いよ…死にたくないよ…誰も死なせたくないよ…」そんな事を何も考えずに勝手に出てしまった

「よしよし。辛いね。大丈夫だよ」なんて言葉を俺に聞かせながら頭を撫でてくれる

一頻り泣いた後、俺はすぐ寝てしまった。彩音の胸の中で


「お兄ちゃん。起きて。朝だよ」

目が覚め、寝ぼけた頭で昨日の夜を思い出し、顔が熱くなる。夢であって欲しかったが目の前で一緒に横になってる妹が夢でないことを悟らせる

「ごめん。昨日は」咄嗟に恥ずかしさと罪悪感で謝る

「いいんだよ。…もう、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」体も心も軽い。自分がこんなにも単純なのが嫌になるが、今は無視する方がいい

「紡。おはよう。紡、機嫌良いな。どうした?」ボサボサの髪の幸樹が俺を覗き込む

「なんでもねえよ。さっさと朝の支度済ませろよ」


「じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

他愛のない言葉に思いを乗せ、交わし、俺たちは歩き出した。暖かい風が俺らを押している様だった


「なあ、なんで電車使わずに未開拓エリアを徒歩で横断してんの?」幸樹が歩きながらおもむろに聞いてきた

「電車だと移動が1本しか無い。そこに攻撃を仕掛ければいいだけになればこっちが不利だ。それに関係の無い人間も巻き込まれるかもしれないから」前を向いたまま疾風は答えた


何度か野営もして、そして6日が経った


「着いた〜!」

「長かった〜…」俺と幸樹はヘトヘトだった

「…」疾風と愛が呆然としている「どうした?」

「あ、いや。思ったより変わってないんだなって思って」疾風の視点があっちこっちに移動するのが分かる

「確かに。パッと見あのハートレッドとか言うやつが支配している感じには見えないな」

「まだ支配が及んでいないだけかも。一応周りの人に話を聞きながら一旦僕の家に向かおう」

道中何人か話を聞いてみたが、危ない話は一切無かった。出るのは疾風がレジスタンスの勇者みたいな扱いをされている事くらいだった。まあエリアを変えたんだ。そうなってもおかしくはないな


「…ただいま」疾風は恐る恐る扉を開けた

「おかえり…あれ、いつの間にか賑やかになっているのね」出迎えたのは愛想のいい疾風の母親だった

「ああ、いや、友達」疾風もいつも通り過ぎて呆気に取られている様だった

「こんにちは。疾風がお世話になっています」丁寧に頭を下げてきて、俺達も「ああ、いえ」そのくらいしか答えられずにいた

「とにかく上がってください。疾風、お昼ご飯皆で食べてく?」

「じゃあお願いしようかな」

「じゃあお母さん買い物行ってくるわね」そう言って身支度をさっさと済ませた

「愛ちゃん。いつも疾風をありがとね。結婚式の時はちゃんとおばさんも呼んでよね」

「けっ!結婚!?」つい声が出てしまった

「あら、知らなかったの?疾風と愛ちゃんは付き合ってるのよ」

「お、おばさん。あんまり言わないでください。そういうのはちゃんと私から言いますから」慌てて愛は母親を諭す

「あら、恥ずかしがっちゃって。じゃあそろそろ行くわね。2人もくつろいでいいからね」そう言ってそそくさと出ていった

「なんか、風のような人だね」幸樹はそう静かに笑って言ってみせた


「とりあえず、昼ごはんを食べたら魂夜城に向かう。それでいいな」スイッチの入った疾風はピリピリとした空気を持って俺らに確認してきた

勿論答えはYESだ

「…買い物って結構時間かかるの?」突然幸樹は切り出してきた。同時にピリついた空気も切られた

「いや、確かにかかりすぎてるな」

突然、扉の開く音がした。母親かと思った瞬間「疾風!帰ってるか!おばさんが拐われた!」


「疾風!おばさんが拐われた!」疾風が急いで玄関まで行く。それに続くように3人も着いていく

「どういうことだ」

「分からん!でも、買い物してるおばさんを黒いフード被ったやつがさらって行きおった。俺も何とか抵抗したんやけど、突然どこからともなく出てきたモンスターに足止め喰らって何もできんかった」

「お前は怪我はしてないのか?」

「ああ、ただのかすり傷だ。それより、はよおばさん助けに行かな!」

「分かった。教えてくれてありがとう。すぐ行く」疾風が急いで外へ出ようとする。俺はそれを急いで止めた

「なんだ?どうした?」焦る気持ちが先行しているのが目で分かる「拐ったということは何か目的があるということだ。それが何にしろ、人質に使われることは確かだ。こここそ慎重にならないとな」俺は宥めるように告げた

「…何か作戦があるのか?」疾風は1つ思考を巡らせた

「簡単だ。疾風と愛は正面突破でいい。そっちに意識を持っていかれてるところを俺と幸樹で奇襲する」


魂夜城近くの建物の屋根で俺と幸樹は待機する。魂夜城入口に目を落とすと、丁度疾風達が突入したところだ

1分程度経った時、どんどんと風が強くなってきている。しっかり目に屋根の瓦にしがみつく

「おい紡!これ見ろ!」

そうやって見せてきたのは携帯の画面だった。そこには台風情報が載っていた。今日この時間に台風のど真ん中がここを突っ切る。かなりマズイ…急いで俺らも疾風の後を追うか?いや、そうなると人質をとられた瞬間詰みだ。…いや、待てよ。もしかしたら


「愛!行けるか!」

「任せて!」

案の定モンスターが魂夜城を巣くっていた。こんなことをしたのはきっとハートレッドだ。どこまで城を穢せば気が済むんだ

戦において感情的になったものが負ける。落ち着いてモンスターを蹴散らす。紛れる近衛兵も倒す


やっとの思いで最上階に着いた。その重い扉を開けて最初に目についたのは母親が縛られている姿だった

「母さん!」俺はそれしか見えず走り出した

「疾風!」愛が呼び止める声も無視して走った

あれ?突然右足に力が入らなくなって地面に吸われるように倒れる。少しづつ右太ももに熱がこもる。本能的にそこに手を触れると濡れているのが分かる。触れた手のひらを見ると吐き気のするくらいグロい血がベッタリと付いていた。どこからか指をパッチンと鳴らす音が聞こえた瞬間、傷口から何かが侵食していく感覚が走る。あまりに強引な侵食に鋭い痛みが絶えず襲ってきて、叫んでしまう

こんなことをしたのはきっとアイツなんだろう。分かっていながらも、その顔を確かめようとしてしまう

「ハートレッド…!」首を限界まで持ち上げてやっと見える顔はにやけていた

「女!動けばこいつを殺す」俺の額に銃口が突き付けられる。触れる銃口から順に血の気が引いていく。きっと愛を脅しているんだろう。それだけは分かった

「疾風…紡さんはどうした?」

「紡…さん?」どうして名前を知っているんだ?そしてどうしてさん付けなんだ?

「さあな」怪訝な気持ちを隠さず吐き出す

「素直に吐いた方がいい。もしかしたら君の足から侵食しているものが止まるかも知れない」その言葉に踊らされそうになるが、冷静にそんなわけが無いと、あってもそれでコイツが許すわけが無いと自分を落ち着かせる

「疾風…君は変わらず往生際が悪いなぁ」

僕にはコイツを睨むことしかできなかった。太もものこれが侵食するとどうなるのか分からないのがまた怖いが、今は堪えるしか無い。きっと紡達が助けてくれる

「もしかして、紡さんを待っているのか?」

一瞬見抜かれたと思い冷や汗をかくが、奇襲のことはバレていないはずだ。何とか時間稼ぎだけでもしなければ

「残念だったな。紡さんは来ないと言うか来れない」

心臓の鼓動がドンドンと早くなる。酸欠になりそうな勢いで呼吸が浅くなる

「今朝のニュースは見たか?私はアラームテレビで確認した。そしたらこんな情報が乗っていたよ」

にこやかに見せてきたのは携帯の画面だった。そこには台風のど真ん中がここを突っ切る情報が載っていた。警報も鳴っている。時間からして今外は大荒れだ。外で奇襲の機会を伺ってる紡たちもきっとそれどころじゃなくなっている。負けだ…そこまで情報を入れなかった僕の負けだ

「疾…風…」その呻き声に近い声に目を覚ます。その声は真正面から聞こえてきた。その方を向くと母さんが目を覚ましていた。母さんは何度か顔を殴られた痣ができていた。僕がまだ諦めない理由はそれだけで十分だった

「おや、お目覚めですか。どうしますか?殺しますか?」そのワードにギョっとする。早く動かなければ!

「いや、まだ殺さん。俺は疾風に酷い目に遭わされたんだ、仕返しをするのが人としての筋じゃないか?」この声に聞き覚えがある。いや、確かに知っている。この声は「…堂本!」

「久しいなぁ。疾風」

どうして…「今お前はどうして?と思っているだろう」思考を読まれ…!「それはな、私はエレメントの1部となって蘇ったからだ。まあそのお陰で体に違和感があるが、それでも俺は絶好調だよ」そう淡々と告げながら確かにこっちに歩いて来る

「なあ疾風…あれは悲惨な戦いだったなぁ…お陰で部下も死んで地位も失った」見えなくても間違いなくコイツは今僕を見下ろしている。靴しか見えないがその視線は痛いほど刺さってくる

「お前が悲惨な体制を敷くからだろ」時間稼ぎだ。何か思いつくまで時間を稼がなければ

「かもな。でもなぁあのまま徳永家が力を持つのは良くなかった。1強ができてしまったエリアに残る未来は破滅だけだ。それを俺は変えた。本当は感謝して欲しいくらいだ」

「なんの話だ」

「お前は知らないのか?光子さん。あなたは彼の父親のことをなんて言っているのかな?」

なんで母さんに投げるんだ?意味が分からない

「疾風には…戦で死んだと…」

ああ…確かにそう聞いている

「ははっ!間違ってはいないが、随分言葉足らずですね。教えてあげよう。お前の父、徳永光太郎は、俺の前の将軍で、俺が殺したんだ」

「ッ!」知らなかった…確かにコイツの前将軍の情報が何故か僕には見せないように母さんは立ち回っていた。幼さからかさほど気にしていなかったが…まさか……そして父さんが死んだ原因はコイツにあると来た…待て、じゃあなんで僕たちはいきなり農民の暮らしをしているんだ?一切裕福だった頃の記憶が無いのはどうしてだ?頭がパンクしそうだ

「ごめんね、疾風。私、あなたに将軍になって欲しくなかったの。さらに言えば戦いに身を投じて欲しくなかった。だからわざとお父さんが死んだらすぐに全ての物を売って、貧しい暮らしに移動したの。ごめん…本当に…ごめんなさい…」母さんは止まらぬ言葉に止まらぬ涙を吐き出していた

「あぁあ。君の母さん泣いちゃったよ。そんなお母さんの切なる願いも踏み躙って君はレジスタンスになった。君のお母さんは確かに止めたはずだ。それでも反抗した君をどんな思いで見ていたのだろうな。疾風」1周回って落ち着いてしまう。事実を受け止めきれているのか分からないほどに頭は確かに混乱している

「そろそろいいだろう。ハートレッド」見えないが、堂本は何か指示を出したらしい

「疾風、10秒数える前に起きろ。起きなきゃ…まず君の愛しい彼女を撃つ」

その手にはリボルバーが握られていた

「君は確か北条愛だったな。もし銃弾を防ごうとすれば疾風を殺す。いいな」

ダメだ…愛。ちゃんと抵抗するんだ…

「数えるぞ。いーち…にーい…」

死へのカウントダウンが始まる。だが、立てる機会が現れた。立てるだけで状況が見えてくるはずだ。少なくとも地面に寝そべっているこの状況よりはマシのはずだ

「さーん…しーい…」

右足は一旦使わない。左足は無傷だ。こっちで立ち上がれる

「ごーお…お、立ち上がれたね。流石は疾風だ」

無事立ち上がれた。目だけで周りを確かめる。余りにも殺風景でだだっ広い部屋だ。窓は無い。外の状況も分からない。自分で乗り越えるしか無い

「何余所見してんだよ!」

怒りに任せた拳が僕の頬を殴る。一瞬頭がふらつくが、このぐらいでそこまで怯むほどヤワじゃない

「へえ、流石疾風だな。だったら耐えてみろよ!」

何度も殴られ続ける。ドンドンと意識が危うくなるのを感じるが、失う訳には行かなかった。顔や腹をひたすらに殴られ、口の中は血の味でいっぱいだった。体がふわついてくる。徐々に感覚が狂っていく。確かに聞こえてきた俺が殴られる音すらも曖昧だ。もう骨の軋む音さえ分からなくなってきた

「おらあ!」

遂に耐えていた体もふらつき、膝をつかざるを得なくなる。視界も若干歪んでいて、耳鳴りもしている。感覚全てがボヤけている。

「疾風!」母さんと愛の声が聞こえる。だけど誰も何もできない。もちろん僕自身も…今のこの無力さに腹が立つ。この苛立ちもボロボロの体を前にすぐに消えてしまう

「そろそろくたばったらどうだ?」堂本が僕の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせる

「へへっ」余裕ぶって笑うことしかできない。意味の無い抵抗だった

「ッ!…そうだな。確かに簡単に死なれても困るか。俺が受けた屈辱はこんなもんじゃないからな!」

再び重い拳が僕を吹き飛ばす。体に力が入らず倒れてしまう

「さっさと立たなきゃ母親を殺す」その一言が僕を刺す

急いで立たなければ、どうすれば仰向けのこの状態からすぐに立ち上がれるだろう。模索し、何とかギリギリ立ち上がる。いや、立ち上がれているのか?もう自分がどうなっているかさえ分からなくなってきた

「そうか…つまらんが、もういい。ハートレッド、そいつを殺せ」

なっ!声も出ず、動くことにも力が必要だった。

銃声が飛んで、横を掠めた。僕を威嚇したのかもと思ったが、後ろから悲鳴が聞こえて後ろを振り向くと、愛が腕を撃たれていた

「てめえらはもう終わったんだよ!」そんな怒号も聞こえずただ俺は母さんと叫ぶことしかできなかった。最後に見る顔が泣いている顔だなんて嫌だ。これが嫌で僕はレジスタンスになったんじゃないか!ちくしょう…届かない…どうやったって届かない…

諦めかけた時、木がとてつもない威力で壊れる音がした。そして目の前を大きな木が横切った。なんだ


-10分前-


台風で吹き飛ばされそうなのを堪え、風の音がうるさいがそれ以上の声を出して幸樹とコミュニケーションをとる

「幸樹!耐えろ!あと10分しないうちに一瞬だけ風が止む!」

「は!?なんで!?」

後ろから大木が飛んできた

「幸樹!危ない!」

咄嗟に幸樹は屈んで回避した。待て、この大木は使える。中の状況は分からないが、大分時間が経っている。突入時間を大いに過ぎる。中がとてつもなく不利だった場合、俺らが突入しても間に合わない可能性がある。だったらこの大木で一か八か一瞬の隙を産んで、そこから巻き返すんだ

「何やってんだよ紡!危ねえぞ!」

俺は体を踏ん張って大木を掴んだ。その勢いに一緒に飛びそうになるが何とかギリギリ堪えた

「この大木を使って突入するぞ!」

「は!?」その反応になるのはご最もだが説明する余裕はない

「とにかく耐えろ!そして一瞬の隙にコイツと飛び込め!」


そして計算通り風が一瞬止んだ

「これ…もしかして台風の眼?」

「幸樹!突っ込め!」

俺は幸樹に声をかけながら大木と一緒に突っ込んだ。とてつもない重さを勢いよく突っ込ませようとするには限界の力と補助魔法が必要だった。頭の血管が切れそうだった

「おうらああああ!!!」

喉元過ぎればだ!突入した衝撃さえ耐えれば冷静に周りを見れる

左から見る。愛が血を流している、疾風は生きているのかどうか分からない。知らないおっさんが立っている。疾風の母親が縛られている!銃口を突きつけるのはハートレッド。以上だな

真っ先にやるべきは「ハートレッド!」すぐに剣を出し、ハートレッドに斬り込んだ。「幸樹!」「分かってるよ!」流石は相棒だ。言わなくても疾風達を助けに行ってくれた

「はあ!」とにかくハートレッドを母親から遠ざけねば。俺は体を捻ってハートレッドを母親から遠ざける方向に蹴った。怯んで、飛んでくれたが、もちろん防がれてはいる。母親を救出する隙は与えてはくれないだろう


紡はハートレッドの方に行った。そしたら俺は疾風を助けに!

知らないおじさんがいるがどういう関係か分からない以上、疾風の元へ駆けつけなければ

おじさんがこっちに気づいた途端刀を疾風に突き付け「これ以上近づけばこいつを殺す!」怯えながら言われても説得力無いしあとなあ俺今すっげえイライラしてんだ!

「うるせえ!どけえ!」何も考えずおじさんを斬り飛ばす

「こちとら紡の無茶ぶりを何も聞かされず着いてこさせられてんだ!これ以上イライラさせんじゃねえ!」

と、そんなことより「疾風!…」少しでも触れれば死んでしまいそうなほどボロボロだ。疾風を中心に血が撒き散らされている

「あ…幸樹…来て…くれたんだ……」疾風を俺に気づくと力が抜けたように倒れた。俺は咄嗟に支えることかできなかった

「疾風!しっかりしろ!」ダメだ!死んじゃダメだ!

「幸樹、ちょっとどいてて。疾風を治癒するわ」愛が左腕を抑えながらノロノロとやってきた。愛のいた場所を見ると血溜まりができている。2人ともいつ死ぬか分からない状態だった

愛が疾風に手を翳し、治癒魔法を施した。青白く光る魔法が綺麗だった。みるみるうちに疾風の傷が治っていく。そして太ももの傷だけになった時、治癒魔法の光が消え、同時に愛が悲鳴をあげた

「どうした!?大丈夫!?」

「何…これ…」愛の顔が一瞬で青くなる

「ははは…それはハートレッドの扱う魔法…怨嗟だ。それに蝕まれた者に治す術は無く、いずれそれが体全体を蝕み、鬼と化すそうだ。残念だったなぁ!」堂本が倒れながら嘲笑ってきた。苛立つがそれどころじゃない。クソっ!一体どうすれば…


俺とハートレッドは余裕のないギリギリの戦いをしていた。いや、ハートレッドは余裕そうだった

「うむ…ちょっとは強くなってますね。ですがまだまだ足りません」

「何言ってんだよ!お前は!」

「君にはいずれやって欲しいことがあるんです。それまでに強くなってもらわないと困るんですよ」

「はっ!誰がてめえなんかの言うことを聞くか!」

「聞くよう導くだけです」

「クソっ!」コイツの魔法が掠った。マジで勝てる気がしねえ

「そうですね…そしたらコイツを倒してください。これに負けるようでしたらあなたに用はありません。では」そう言って闇になって消えていった。それと同時に現れたのは巨大な怪物だった。無数にある目玉が俺を捉える。そして俺が動く暇を与えず俺を捕食しに来た。マズイ!

「はあ!」

間一髪食われずに怪物が吹き飛ばされた

「疾風!」斬り飛ばしたのは疾風だった

「大丈夫か?」

「お前の方が体調悪そうだぞ」

「一旦は大丈夫だ」どこかおかしいと思ったら右太ももの傷が治ってないじゃないか

「お前!右足!」

「ああ、どうやらこれ治らないらしい。それと、これのせいで僕はあの怪物みたいになるらしい」気を強く持っているが、膝が笑っている。痛々しくて見てられない…いや、この痕…俺のに似てる?

「2人とも!」

マズイ!怪物に気を配るのを忘れていた!

咄嗟に目をつぶってしまうが、痛みは一切無く、目を開けると愛と幸樹が攻撃した後のようだった

…やってみる価値はあるかも

「2人とも、あの怪物しばらく抑えておいてくれないか?」

「いいけど、どうする気?」

「もしかしたら疾風を助けられるかも」

「分かった。こっちは任せて」そう愛が言うと、どちらからとも無く怪物に向かって行った


「疾風、傷を見せろ」

「何?どうする気?」

「いいから」俺にも余裕が無かった。これを吸収して俺がどうなるか分からない。殆ど希望的観測だ。

「待て!そんなことしたら紡が!」

「うっさい!ちょっとでも希望がある方にかけさせろ!」これは自分に言い聞かせる言い訳だった。震える手を止めながら、疾風の傷口に触れる。そして…この魔法の吸収を始める。吸収なんて初めてやるが、知識は入っている。きっとできる

「うぐっ!」入ってきた瞬間吐き気がする。心身が本能的にこれを体に入れることを拒否する。本能を抑えながら体の中にコイツを入れていく

体の中でコイツが暴れているのが分かる。内側から体を突き破らんばかりだ。尋常じゃない痛みに手が一瞬止まる。その瞬間、コイツが確かに魔法として出ていきそうか気配を感じた。これをあの怪物にぶつければもしかしたら…

行ける!そう確信した。いや、確信しなければやってられないほどの吐き気と痛みがいたせいだ。でもそれでも構わない。最終的に勝てるのであればそれでいい!

もう少し…もう少し…そしてソイツが入ってくる気配が一切消えた瞬間、吸い切った。そう思い、立ち上がった。早くこれを放たなければ俺は気が狂う

「紡、君…」怪物を見るような目で見られた気がしたが、今は気にしてられない「大丈夫だ」そう一言だけ告げ、怪物の方を見た。その光景に血の気が引いた如何にも不利って感じの2人の姿があった

クソ…やっぱり順調には行かないか…

「紡!どうすればいい?」

後ろから疾風がこっちを見て言った。その目は決意を秘めていた

「やつを一瞬でいい、隙を作ってくれ。そうすれば俺がやつを消す」

「分かった!」右足の怪我を庇っての戦闘だ。危険は承知だが、このままでは確かに全滅してしまう。頼む…死ぬんじゃねえぞ


疾風が行ってから状況が変わった。疾風が的確に攻撃が来ることを伝えたり、周りを見た上での攻撃を臨機応変にしている。かなり素早く動く怪物も大分翻弄されている。だけど気を抜けばいつやられてもおかしくは無い。押しているように見えているが、皆の攻撃は一撃も入っていない

幸樹が敵の攻撃を受け止め、疾風が飛び込み、愛が肉体強化魔法をかけ、疾風がそのまま重い一撃を放つ

「紡!」ああ、確かにここだ!

「いっっっけええええええ!!!」俺の左腕からずっと暴れていた魔法を剣に乗せ、怪物目掛けて放つ

余りに大きな力で魔法が怪物を中心に爆発し、建物が崩れていく

「お、おわ!」

建物の崩壊から逃れられず落ちていく


目が覚めた時、目の前には真っ青な空が拡がっていた

起き上がると周りの至る所に木材の破片が散っている。1箇所に集中して崩れてないのは、きっと、台風が吹き飛ばしたんだろう。もちろん俺達も吹き飛ばされた。だから全身に擦り傷と打撲、これはいくつか骨折もしているだろう、そんな痛みがジンジンと襲っていた

とにかく、皆を探さなければ「幸樹!疾風!愛!どこだ!」

叫び声は虚しく空に消えていった。その時、木材の破片が砕ける音が聞こえた。そっちをよく見ると、そこにはもがいている幸樹の姿があった

「紡〜助けて〜、めっちゃ痛〜い」気も抜ける声に思わず笑ってしまうが、全身の痛みが笑うことを許さない

俺は幸樹にのしかかった木材を一つ一つどかしていく

「紡ー!幸樹ー!」愛が疾風に肩を貸し、こっちに向かっていた。アイツらもボロボロだった。俺と同じくらいのダメージを追ってそうだ

「無事で良かった」俺は心の底から伝えた

「お互いボロボロだけどな」疾風は茶化すように笑って言った

「でも、これでやっと嵐が去ったのね」愛が空を見上げて呟く

「お、上手いな」俺はどこかむず痒くて茶化したくなった

「おーい。俺を助けてからその空気作れよ〜」幸樹は寝たまま嘆いていた


「堂本。探したよ」僕は冷たい声で見下ろす

「ひっ!」

「もうさ、終わりにしようよ。殺しも無し、こっからは誰も血を流さない。それじゃダメか?」

「そんな甘い考えだからいつか滅ぶと言っているんだ!」

「その甘い考えのやつに負けたお前は一体なんだ?」

「ぐぬぬ…」

はあっとため息を1つついて「満足するまでやり返しに来い。その度に僕たちはお前を倒す」

「そんな口がいつまで叩けるか…」

「少なくとも今の視点の状態なら叩けるな」

「…」もう何も言えない様だ。それに戦う意志も無さそうだ

「お前のしたことは許せない。でも、お前はお前で皆を救う為に考え、行動したんだ。それは、尊敬するよ。それだけだ。じゃあな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

極彩色に息をする @syuu-25w

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ