ホムンクルス少女と護衛の少年

輝城蒼空

第一部

1 場違いな任務

「エミール・フォート――これが今回の任務だ」


俺は机上の紙を手に取り、眉をひそめた。


「護衛対象:ステラ・ハンスリック」


添えられた写真には、か弱い少女の姿。

白い髪に、ガーネット色の瞳。

華奢で、普通なら守られるべき子どもにしか見えない。


(……なぜ、俺が?)


これまで要人や軍人を護衛してきた俺にとって、これは場違いな依頼に思えた。


「あの……理由を伺っても?」


問いかけると、上官は淡々と答えた。

「理由は任務中に分かる」


さらに紙を机に戻し、低い声で告げた。

「お前はペンタフィールド魔法学院に入学し、彼女のそばに付け。生徒としてな」


俺は、思わず言葉を失った。

(学院に……生徒として?)


上官は淡々と付け加えた。

「お前は……そうだな。他人から見れば、まだ子どもだ。それが潜入の強みになる」


言われてみれば確かに、この見た目だからこそ可能な任務だ。

だが納得はできない。護衛対象は訳ありらしく、理由は伏せられたまま。


それでも拒否権などない。命令は絶対――。


俺は小さく息を吐き、紙を懐にしまい込んだ。

「了解しました」


▽ ▽ ▽


数日後、俺は上官が手配した車に乗って、ハンスリック家の屋敷へとやってきた。

大貴族と言われていることもあって、敷地は広大――それこそ、行方不明者が出てもおかしくないという感じだった。


俺が車から降りると、ハンスリック家の執事長チーフバトラーが出迎えてくれた。


「家の者には、ちゃんと説明しております――もちろん、ステラお嬢様にもです」


チーフバトラーは、俺にそう告げた。


チーフバトラーに案内され、俺は屋敷の奥へと向かう。

広間には、すでにたくさんのバトラーが集まっており――奥の方の椅子に、白い髪の少女が座っていた。


(――おそらく、彼女がステラだな)


俺がそう確信すると、少女――ステラ・ハンスリックは口を開いた。


「あの……あなたが、フォートさん、であってますか?」


その年頃に相応の、素朴でかわいらしい声だった。

しかし――その声は、やけに平坦だった。


まるで――自然のものではない、「作られた」ような声だった。


俺はステラに向かって、できるだけ礼儀正しい声で答えた。


「――はじめまして。私はエミール・フォート、あなたの護衛に来ました」


俺がそういうと、ステラは淡い笑顔を見せた。

それから、また平坦な声で続けた。


「……フォートさん、よろしくお願いします」


ステラがそう言うと、後ろにいる金髪の男が、一歩だけ前に出た。


「お初にお目にかかります。私はクロード・ハンスリック、ハンスリック家の当主です」


クロードは――ステラとは、顔立ちがあまりにも似ていなかった。

養子と言われても、おかしくないような風貌である。

いや――もしかしたら、本当に養子なのかもしれない。


そう考えていると、クロードが話しかけてきた。


「護衛は今日からです。あなたには、ステラと寝食を共にしてほしい」

「……え?」


思わず、俺は変な声を出した。

なにせステラは年頃の女の子なのだ――同年代の男子とともに寝るのは、流石に避けたいだろう。

俺とか組織がどうとかではなく、そもそも本人が拒否するはずだ。


「そ、それは……お嬢様の同意が……」


俺がしどろもどろになりながら言うと、クロードはにこやかに笑った。


「ええ、それは承知の上です――でしょう、ステラ?」


クロードがそう言うと、ステラの目が一瞬泳いだ。

しかし、しばらくして――こくり、と頷いた。


(――これは、今聞くべきじゃないな)


ステラは嫌がってる。

でも、それをここで言うのはやめておいた。


任務は絶対――それが、俺に残された命令だったからだ。


「……わかりました」


俺はそういうと、すぐに屋敷暮らしの準備を始めた――


【あとがき】


ここまでお読みいただきありがとうございます。

最初なのでちょっと短いです……お許しください!


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ホムンクルス少女と護衛の少年 輝城蒼空 @Kijo-Sora

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