全知全能の力を手に入れたので面白おかしく生きていきます

イナ

第1話 神になった日の眠気のある朝と学校での生活

目覚ましが鳴った。

 うるさい。朝が来なければいいのに。


 そう思って、枕を掴んで投げた――はずだった。


 手応えが、ない。


 視界の端で、枕が「消えた」。

 燃えたとか、砕けたとかじゃない。

 最初から存在していなかったみたいに、なかった。


「……は?」


 数秒、脳が停止する。

 次の瞬間、目覚ましがまだ鳴っていることに気づいて、私は普通に止めた。


「……夢だよね。二度寝しよ」


 布団を引き寄せた瞬間、頭の中が爆発した。


 音もなく、衝撃もなく、ただ――全部が入ってきた。


 宇宙の構造。

 時間の流れの正体。

 人間がなぜ老いるか。

 昨日、私が階段でつまずいた本当の理由。


「うわ、情報量えぐ……」


 私は布団をかぶった。

 遮断しようとしたけど、意味がない。


 知識じゃない。

 理解だ。


 考えなくても、答えがある。

 疑問が浮かんだ瞬間、最初から知っていたみたいに「そうなっている」。


 数分して、私はため息をついた。


「……あー。これ、完全にアレだ」


 神。


 その言葉が、違和感なく当てはまった。

 説明も不要。

 制限も例外もない。


 全知全能。

 多分、ガチのやつ。


「……え、私?」


 鏡を見る。

 寝癖。

 半目。

 いつも通りの女子高生。


「……いや、配役ミスでは?」


 でも、否定しようとした瞬間、

 否定できない事実が脳内に並んだ。


私以外の神はいない、唯一無二。

 私は世界の因果に干渉できる。

 時間を止められる。

 戻せる。

 消せる。

 作れる。


 試しに、スマホを見る。

 電源が入らない。


「……直れ」


 次の瞬間、新品。

 というか、昨日落とした事実そのものが消えている。


「……なるほどね」


 怖くはなかった。

 本当に、まったく。


 普通なら、震える。

 泣く。

 誰かに助けを求める。


 でも私は、違った。


「……これ、めっちゃ暇つぶしになるな」


 それが最初の感想だった。


 世界が壊れる?

 壊れたら直せばいい。

 人類が滅ぶ?

 気に入らなければやり直せばいい。


 全部、「後でどうにでもなる」。


 制服に着替えながら、私は少しだけ考えた。


「隠すべき? ……うーん」


 即座に結論が出る。


「めんどくさいから、やだ」


 でも、わざわざ見せる理由もない。


「まあ、気が向いたらでいっか」


 トーストをくわえて玄関を出る。

 空は青い。

 いつも通りの朝。


 ただ一つだけ、違う。


 世界が、私の思考速度についてこれていない。


 鳥が羽ばたく前に、私は着地位置を知っている。

 信号が変わる前に、変わる理由を知っている。

 この通学路で、今日何が起きるかも――全部。


「……先読み多すぎて逆に退屈」


学校へ向かう道すがら、信号が赤になる。



「……まあいっか」


私は指を一本立てて、軽く振った。


次の瞬間、信号の概念が「今日は青だったこと」に書き換わる。

車は最初から止まっていなかったし、私は最初から渡っていた。


誰も気づかない。

誰も疑問に思わない。


世界は、そういうふうに出来ている。


教室に入ると、いつもの騒音。

友達。クラスメイト。

それぞれが、それぞれの小さな世界で生きている。


私は席に座り、頬杖をついた。


――この中の誰一人、

私が神と同じ場所に立っているなんて知らない。


知る必要もない。


数学の小テストが配られる。

白紙の問題用紙。


答えは全部知っている。

でも、満点を取るのはなんか違う気がした。


だから、わざと一問だけ間違える。


「よし」


それだけで、ちょっと楽しい。


授業中、ふと思う。


世界を救うことも出来る。

滅ぼすことも出来る。

文明を一段階進めることも、昨日に戻すことも。


でも――


「……それ、面白い?」


誰にも聞いていないのに、私は小さく笑った。


普通の人間がこの力を持っていたら、

きっと悩んで、苦しんで、責任とか使命とか言い出しただろう。


でも私は、少し頭がおかしい。


だから決めた。


神として生きる気はない。

人類の導き手にもならない。


ただ――


「せっかくなんだしさ」


ノートの端に、落書きをする。

意味のない丸。


「これからの人生、

面白おかしく生きよ」


世界は、まだ何も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る