第19話 地獄のフライヤー(点火) ~3万人、一瞬でこんがり~

「……カズヤ、まだ? もう待ちきれないわ」


 崖の上。  巨大な筒状の機械――『改造ドライヤー砲』の操作席に座るヒルデガルドが、目を輝かせて急かしてくる。  彼女の手はすでに、真っ赤な発射ボタンの上に置かれている。


 俺は眼下の谷底を見下ろした。  帝国軍3万。先頭から最後尾まで、びっしりと谷を埋め尽くしている。  出口はすでに、ガルド将軍率いる別働隊が岩を落として塞いだ。  袋の鼠ならぬ、袋の芋だ。


「……ああ。準備完了だ」


 俺は深呼吸をした。  これをやれば、俺は歴史に残る虐殺者になるかもしれない。  だが、やらなければ俺たちが殺される。そして俺の平穏なポテチライフも終わる。    覚悟は決めた。  俺は赤い旗を振り下ろし、腹の底から叫んだ。


「ようこそ、アルカディア名物『地獄のフライヤー』へ!! たっぷり揚がっていけぇぇっ!!」


「いっけぇぇーーっ!!」


 ヒルデガルドが狂喜の叫びと共にボタンを叩き込んだ。


 ゴォォォォォォォォッ!!


 改造ドライヤーの砲身から、目に見えるほどの濃密な「熱波」が吐き出された。  それは一直線に崖下へ降り注ぎ、廃油で濡れた地面を舐めた。


 瞬間。  世界が赤く染まった。


 ドォォォォォォォン!!


 爆発的な連鎖反応が起きた。  ただ燃えるだけではない。水分を含んだ泥と、酸化した大量の廃油。そこへ超高温の熱風が叩き込まれたことで、水蒸気爆発に近い現象が発生したのだ。  『竜の顎』全体が、巨大な圧力鍋と化した。


「な、なんだ!? 熱い、熱いぞぉぉ!」 「火だ! 火が走ってくる!」


 谷底は一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図となった。  炎の壁が津波のように襲いかかり、逃げ惑う兵士たちを飲み込んでいく。


「た、助けてくれ! 出口へ戻れ!」 「だめだ、滑る! 足元が滑って動けん!」


 この罠の恐ろしいところは、地面が油まみれであることだ。  パニックになった兵士たちは、将棋倒しになりながら、熱せられた油の海でもがき苦しむ。  崖を登ろうとしても、ヌルヌルと滑り落ち、再び炎の中へ逆戻りするしかない。


 そして、戦場には異様な「匂い」が充満し始めていた。


「ゲホッ、ゲホッ! な、なんだこの匂いは……!?」


 焦げた油。香ばしい炭水化物の香り。  そう、強烈な「焦げたフライドポテト」の匂いだ。


 命の危険を感じているのに、脳の本能的な部分が「腹が減った」と誤作動を起こす。  恐怖と食欲がないまぜになった、狂気的な空間。


 俺はその惨状を、ハンカチで鼻を押さえながら見つめていた。  隣に立つセシリア姫が、青ざめた顔で呟く。


「……これが、カズヤ様の力……」


「違いますよ、姫様。これは『科学』の力であり……俺たちの『食欲』のなれの果てです」


 俺は目を伏せた。  もったいない。ああ、もったいない。  あの大量の廃油があれば、リサイクル石鹸が何個作れたことか。    こうして、帝国軍3万は、一発の矢も受けることなく、ただ「調理」されることによって壊滅したのだった。


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歴史オタクの俺、異世界で「エセ軍師」になる。~現代知識とハッタリだけで英雄扱いされているんだが、いつバレるか気が気じゃない~ ベジタブル @kazuyakibou

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