第3話 【論破】「どこの馬の骨だ」と罵倒してきた無能宰相を、正論だけで黙らせてみた

 勝利の熱狂も束の間。

 俺は城の作戦会議室で、針のむしろに座らされていた。

​「……認められん。断じて認められんぞ!」

​ バン! と机を叩いたのは、カエル腹の宰相・ボルグだ。

​「姫様! どこの馬の骨とも知れぬ男を、筆頭軍師に据えるなど正気ですか!? たまたま運が良かっただけの詐欺師に決まっておる!」

​ その通りです。

 俺は心の中で激しく同意した。ボルグ宰相、あんたは正しい。俺は詐欺師だ。

 だが、俺の隣でガルド将軍が吠える。

​「言葉が過ぎるぞ、宰相閣下! カズヤ殿の策は見事だった! あの絶望的状況を覆したのは、紛れもなく彼の実力だ!」

​「フン、平民風情が神聖な軍議の場にいること自体が穢(けが)らわしい!」

​ 周囲の貴族たちも「そうだそうだ」と騒ぎ立てる。

 なるほど、この国が弱小である理由がわかった。敵が攻めてきているのに、味方同士で足の引っ張り合いか。

​ セシリア姫が悲しげに眉を寄せる。

「皆、静まりなさい! カズヤ様は恩人です!」

「姫様は黙っていてください! これは大人の、国の威信に関わる問題なのです!」

​ ボルグの怒号に、姫が身を縮める。

 ……あーあ。

 俺は小さく溜息をついた。

 ここで黙っていたら、「やっぱり偽物だ」として処刑コース。かといって、下手に出ても舐められるだけ。

​ なら、やることは一つ。

 俺は、さも退屈そうに大あくびをした。

​「ふあぁ……。終わったか? その無駄な演説」

​ 会議室が静まり返る。ボルグの顔がゆでダコのように赤く染まった。

​「き、貴様……今なんと言った……?」

​「無駄だと言ったんだ。あんたが俺を詐欺師だと疑うのは勝手だが、一つだけ聞きたいことがある」

​ 俺は机に両手をつき、ボルグの顔を覗き込んだ。

 心臓はバクバクだが、顔には嘲笑を貼り付ける。

​「あんた、俺が来るまで何をしていた?」

​「な、なに……?」

​「敵が城門を破り、兵士たちが逃げ惑っていた時、あんたは何をしていたと聞いている。まさか、この安全な会議室で『国の威信』とやらを守っていたわけじゃないだろうな?」

​ ボルグが言葉に詰まる。図星かよ。

​「い、いや、私は後方で指揮を……」

「それを『逃亡』と言うんだよ」

​ 俺はバッサリと切り捨てた。

​「いいか、よく聞け。軍師の価値は、身分でも血統でもない。『勝ったか、負けたか』。それだけだ」

​ マキャベリもびっくりの結果至上主義。

 だが、今の状況ではこれ以上の正論はない。

​「俺は勝たせた。あんたたちは負けそうだった。結果が全てだ。もし俺が詐欺師だとしても、負け犬の将軍よりは百倍マシな『勝てる詐欺師』ってことになるな」

​「き、貴様ぁぁ……っ!」

​ ボルグが剣に手をかけようとした瞬間、凛とした声が響いた。

​「そこまでです!」

​ セシリア姫が立ち上がっていた。その瞳には、強い意志の光が宿っている。

​「ボルグ、下がりなさい。カズヤ様の言う通りです。私たちは、彼に救われたのです。その事実を認められない者は、この場から立ち去りなさい」

​「ひ、姫様……っ! くそっ、覚えておれ!」

​ ボルグは捨て台詞を残し、逃げるように部屋を出て行った。

 ざまぁみろ。

​ 部屋に残ったのは、姫とガルド将軍たちだけ。

 姫が俺に向き直り、深く頭を下げた。

​「申し訳ありません、カズヤ様。……改めてお願いします。我が国の軍師として、この国を救ってはいただけませんか?」

​ キラキラした瞳で見つめられる。

 さっき大見得を切ってしまった手前、もう後には引けない。

 俺は天を仰ぎたい気持ちを抑えて、ニヒルに笑った。

​「……報酬は弾んでもらうぞ」

「はい! 国庫にあるだけの金貨を!」

​ やめて。国庫が空になったら困るの俺だから。

​ こうして、俺は正式に軍師として雇われることになった。

 だが、この時の俺は知らなかったのだ。

 この国の内情が、戦争以前に「詰んでいる」レベルでボロボロだということを。


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