歴史オタクの俺、異世界で「エセ軍師」になる。~現代知識とハッタリだけで英雄扱いされているんだが、いつバレるか気が気じゃない~

ベジタブル

第1章:処刑台で目覚めた歴史オタク、ハッタリで『孫子の兵法』を語ったら敵国軍が壊滅した件

第1話 処刑台で目覚めた歴史オタク、ハッタリで『孫子の兵法』を語る

​ 首筋に、冷ややかな死の感触。

 目を開けると、そこには錆びついた刃と、俺を取り囲む数十人の屈強な男たちがいた。

​「……は?」

​ 間の抜けた俺の声は、処刑執行人の怒号にかき消された。

​「黙れ、敵国の密偵め! 貴様の首を刎ねて、我が軍の敗走を止める生贄(いけにえ)にしてくれるわ!」

​ ちょっと待て。

 俺はさっきまで大学の図書館で、徹夜で『三国志』の論文を書いていたはずだ。

 意識が飛んだのは認める。だが、目が覚めたら異世界で処刑寸前って、何のバグだ?

​「将軍! 城門が突破されました! 敵の先鋒、すでに城内へ侵入!」

「ええい、これまでか! この密偵を殺したら、我々も撤退するぞ!」

​ 周囲の兵士たちの顔は絶望に染まっている。

 状況は不明だが、確定事項が一つある。

 このままだと死ぬ。確実に、俺の首が飛ぶ。

​(落ち着け……考えろ、考えるんだ相馬カズヤ!)

​ 武器はない。魔法もない。

 俺にあるのは、偏りまくった歴史オタクとしての知識だけ。

​ ふと、戦況を見る。

 敵が城門を突破。味方は混乱し、指揮官は逃げ腰。

 ……これ、アレが使えるんじゃないか?

​ 俺はガクガクと震える膝を必死に指で押さえつけ、精一杯の「強者の笑み」を顔面に貼り付けた。

​「ククッ……。なんと嘆かわしい」

​ 処刑人が動きを止める。将軍と呼ばれた大男が、ギロリと俺を睨んだ。

​「……あ? 貴様、今なんと言った」

​「聞こえなかったのか? 『勝てる戦(いくさ)を捨てて逃げるのか、この無能どもが』と言ったんだ」

​ 心臓が早鐘を打っている。脇汗が滝のように流れている。

 だが、ここで引いたら物理的に首が飛ぶ!

 俺は腹に力を入れ、歴史上の偉人たちの言葉を脳内でコラージュした。

​「ほざくな! 敵は三千、我らは五百だぞ! 城門も破られた!」

​「だからこそ、だ」

​ 俺はゆっくりと立ち上がり、将軍を指差した。

​「敵は勝利を確信し、勢いに乗って狭い城門を通過した。隊列は伸びきり、指揮系統は機能していない。一方、我らは地形を知り尽くした城内にいる」

​ これは兵法の教科書通りの理屈。

 だが、パニックに陥った彼らには「神の啓示」のように響くはずだ。

​「将軍。あんたがすべきは逃走ではない。家屋を焼いて煙で視界を奪い、敵を狭い路地へ誘い込め。大軍の利を消せば、五百で三千を狩れる」

​ 将軍が息を呑んだ。

 ざわり、と兵士たちの空気が変わる。

 絶望が、希望へと変わる瞬間。

​「き、貴様……何者だ?」

​ 将軍の声色が、脅威から畏怖へと変わっていく。

 俺はニヤリと笑った。引きつりそうになる頬を必死に抑えて。

​「通りすがりの……軍師志望、とでも言っておこうか」

​ こうして、ただの歴史オタク・相馬カズヤの、命がけの「エセ軍師」生活が幕を開けた。

 頼むから、早く誰か俺の嘘を見抜いてくれ。胃に穴が開く前に。


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